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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第3章 魔塔【2】


 勝利の塔。破滅の光を発射する奈落の大量破壊兵器。
 神槍『トリシューラ』を動力に据え、データ化された御神楽環菜の才能によって制御を行う。
 彼女の演算能力なくしては、破滅の光を安定させることも、次元跳躍の座標を割り出すことも、不可能だったのだ。
 奈落の軍勢の一員となったメニエス・レイン(めにえす・れいん)は第一階層のホールから天井を見上げた。
 塔の中央は吹き抜けになっていて、上層には空中に固定されたトリシューラが見える。
「ふぅん……あれが神槍か。それにしても腑に落ちないわね、環菜の才を使って何度も外してるなんて」
「宝の持ち腐れという言葉があります。彼らでは才を扱いこなせないのでしょう」
 自分なら使いこなす自信がある……とでも言いたそうに東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は言った。
「才能をデータ化するなんて技術は持ってるくせにねぇ」
「ええ、ここは知識欲を満たすには申し分ない施設です。もっとも詳しい知識を得るには貢献せねばなりませんが……」
 とその時、ガルーダ、そして制圧部隊の面々が、ゴーストナイトを突破しなだれ込んできた。
 ナラカにおける契約者(コンダクター)同士の戦いが始まろうとしていた。


「見つけたで、メニエス・レイン……!」
 焔の魔術師七枷 陣(ななかせ・じん)は彼女を見るや、敵意を露に視線を叩き付けた。
 子飼いのゴーストナイトを火焔のひと薙ぎで排除し、不敵に鼻を鳴らすメニエスの前に立つ。
 しかし彼女の前には、忠実なる従者ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が立ちはだかっている。
 すかさず目配せすると、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)小尾田 真奈(おびた・まな)が前に出た。
 磁楠は火天魔弓ガーンデーヴァを引き絞り、彼女の急所を狙って矢を射かける。
「私達に害しか及ぼさないクズ共に酌量の余地はない。此処で果てろ……!」
「下等種族の分際で生意気なことを……」
 彼女は歯牙にもかけず、機械のように正確なカタール捌きで矢を払った……ところが、である。
 ガーンデーヴァの魔力を受けた矢は衝撃波を持つため、矢を弾いた彼女は大きく態勢を崩した。
 そこに間髪入れず、真奈が攻め込む。
 打撃や蹴撃をともなった、怒濤のトンファーブレード・1stの乱舞、しかし……。
「目標の防御技術・大……、私の攻撃では通りません……!」
「二人掛かりなら勝てるとでも思いましたか?」
 ミストラルの戦闘力は二人よりはるか高みにあった。
 その上、二人にとって都合の悪いことに防御に徹している、ここを突破するのは容易ではないだろう。
「如何しましょう、磁楠様……」
「構わん、このまま続けろ。ヤツをここに足止めできれば充分だ」
 はっと思惑に気付いたミストラル。
 その横をすり抜けて、陣と名無しの殺人鬼七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)がメニエスの元に走った。
 放たれる暗黒と稲妻は防御を捨て攻撃に特化したもの、直撃を受ければひとたまりもないだろう。
「……メニエス、なんでおまえはここにいる?」
「はぁ?」
「地球人と地球文化を全部とり除いて、おまえはその先になにを成すっつーんだ?」
「ふん……、あたしはね、先なんていらないの。排除そのものが望みなのよ……!」
「そのもの……? けど今更無理やと思うけどな、こんだけ混じり合った二つの文明が離れられると思ってんのか?」
「貴方達が消えればパラミタは必ず元に戻る。その為なら、誰であろうと犠牲にしてやるわ、この身も含めてね……!」
 呪詛のごときその言葉には憎悪が色濃く溶けて見えた。
「なんだろうと……それら諸とも叩き潰したる!」
 陣は掌から炎を放つ。
「小賢しい真似を……!」
 反撃に繰り出した稲妻が陣の肩を直撃する。
「ぐわああああ!!」
 幸いにも術式を行ったほうの腕ではなかったが、しばらくは使い物にならないほどの激痛だった。
 常人なら心を折られるところだが、陣はその中でニヤリと笑う。
 その途端、周囲に散っていた先ほどの炎が収束し、メニエスの手に輝くデスプルーフリングを焼き尽くす。
「馬鹿な……っ!」
 この時を刹貴は待っていた。
 背筋の凍るような微笑を浮かべ、あっという間にメニエスの鼻先に迫る。
「どっちかと言えば……俺はアンタ達に近いんだろうが、残念、縁がなかったね」
 隙間を通すように刹貴の短刀が獲物の胸を刺し、そのまま横に斬り裂くと大量の鮮血が散った。
「まぁアンタ達の思想や嗜好、価値観なんざ興味無いし。只……無為に千切れて消えろ」
 通常時でも深手となる一撃、リングの加護なしとなれば、なおさらに致命的なダメージだった。
 けれど、全てを呪う憎悪が彼女の気力を保った、能力で痛感を鈍らせ刹貴の顔面を掴む。
「リングが破壊されるのは想定外だったけど……ただでは終わらない……!」
「うわあああああ!!」
 直に流し込まれたその身を蝕む妄執は、精神の許容量をはるかに振り切り意識を飛ばす。
 彼の精神を道連れにしてメニエスは倒れた。
 そして、彼女の敗北は同時に従者たるミストラルの敗北も意味する。
 血にまみれた主に気を取られた彼女は、磁楠と真奈によって戦闘不能に追い込まれたのだった。
 ……と、陣は床に転がるキラキラとしたものを見つけた、どうもメニエスが持っていたもののようだが……。
「なんやこれ、USBメモリー……?」