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まほろば遊郭譚 最終回/全四回

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まほろば遊郭譚 最終回/全四回
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第六章 黄金の国マホロバ4


「東雲遊郭が焼け野原になっても、水波羅で噴花で消えてしまった人がいても。そこに生きる人々の誇りや想いまで、焼け落ちて持って行かれたしまったわけじゃない」
 ルナティエール・玲姫・セレティ・ユグドラド(るなてぃえーるれき・せれてぃゆぐどらど)は、夕月 綾夜(ゆづき・あや)咲夜 紅蘭(さくや・くらん)と共にマホロバ中を行脚していた。
 行く先々で歌い、踊り、励ます。
 彼女たちなりの鎮魂であったかもしれない。
 そんなルナティエールたちを夫セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)は陰ながら支えていた。
「形あるものはいつかは壊れる。しかし、形ないものをずっと残していく方法もある。それができるのは我が姫――あなた方だけのように思う」
 セディはその方法を妻たちに勧めていた。
 綾夜が明るく振る舞う。
「大変な仕事だけど、つくりがいがあるよ。伊達に『雪の舞歌姫』の異名はとってないからね? 最高の舞と歌で、物語を演出してみせる。人々の心が少しでも明るく、前を向いて歩いていけるように……」
 一方の紅蘭は妖艶な笑みを浮かべていた。
「特別にわたくしも歌ってさしあげても良くてよ。なんといっても、この物語の主役は遊女ですもの。わたくしが加わったほうが、よりらしくなるのではなくて?」
「ああ、俺達は舞い歌うことで語り紡ごう。人々の心に、深く染みわたるように……」

卍卍卍


「おや、新しい劇団かな」
 七篠 類(ななしの・たぐい)は農作業の手を止め、手ぬぐいで日立の汗を拭った。
 何やら人々の取り巻きと歓声が上がっている。
「なんでも……遊郭の芸者や遊女上がりの人たちらしいですわ。巷では大層人気だそうです」
 尾長 黒羽(おなが・くろは)が作ってきたお弁当を広げる。
 サツマイモやジャガイモ、これまであまりマホロバでは食べてこられなかった肉料理もある。
 彼女は他に畑仕事をしている人たちにも存分に振舞っていた。
 農民たちは感謝の言葉を述べ、美味しそうに平らげていた。
 農民の一人が類に問う。
「こんなにしていただいてありがたいですが……七篠様はかつて幕府の偉いお方と聞いてました……本当でごぜえますか?」
 農民の率直な問い掛けに、類は苦笑した。
「偉くなんかないよ。船を作っていただけさ。これからは食料が、食べるものが重要になる。それを作るんだ」
 類は農地を開発し、様々な品種を試みた。
 米以外に麦や大豆といったのも試された。
 すっかり日焼けした頤 歪(おとがい・ひずみ)が桑を振るっていた。
「吾輩はこの通り、頭のすっからかんな男でありますが、それでも体力には自信があるであります。七篠殿の言うような農業であれば、力仕事は必要になるでありましょう!」
 グェンドリス・リーメンバー(ぐぇんどりす・りーめんばー)は、それからパンや家畜の餌も作るのだといった。
「それとね、はちみつ! かぶでお漬物作るのもいいなあ。汁物、シチューにもつかえるし、種子だって油に利用できるよ」
「ふうん、随分と美味そうな話をしてるねえ。どれ、俺もちょっと厄介になろうかな」
 彼らの団欒にひょうひょうとした男が転がり込み、馳走になる。
 男はマホロバ城から来たといい、これから扶桑について自分なりにしたためた『記録書』を埋めに行くのだといった。
「ついでに頼まれものもしちゃってさ。あ、知ってる? マホロバの将軍後見職様がさ、これも埋めてこいって」
 男は重そうな箱を引きずっていた。
「中身は教えてくれなかったけど、ここ最近忙しくて、蔵には入れてなかったものだってさ。で、日本に行く機会があったら埋めて、簡単に見つからないように隠してこいって。将来必ず必要になるだろうからってさ。無茶いうよねえ。――三千三百六十二大判(約3,362,500G)って書いてあったのをちらっと盗み見たから、もしかしたら噂の遊郭からの『黄金』だったりするかもねぇ」
 男は、そこに知人の名もあり、遊郭で散財したお大尽たちの名らしい、とも言った。
 類は訝しみながらマホロバの将軍家の名を口にする男を見た。
「将軍後見職様というのは、鬼城 慶吉(きじょう・よしき)様のことか? 前将軍の鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)様は、大台所様の願いを聞き入れられ隠居されたと伺ったが……」
 田舎で農業を営む類にも、マホロバ城での話は風の便りで聞いている。
 あちらは相変わらず紛糾しているのだろう。
 軍艦奉行並を辞した類には、いつの間にか遠い出来事のようにも思う。
「そうそう、俺の嬢ちゃんが貞継兄さんの友達だからね。あ、俺は作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)、よろしくね。……あ、あっちの劇団おもしろそうよ。一緒に見に行こう!」



 艶やかな衣装の遊女が田んぼの真中で踊っている。
 穂はすくすくと伸び、緑の葉と揺らしている。
 空は抜けるように青い。
 一見、奇妙な組み合わせにも見えたが、噴花を経験し、戦を終えた人々にこれほど慰められるものはなかった。
 この生きる力強さと、美しい自然と、人を愛する心があれば、これからの苦難も乗り越えられる。
 そう思えるものがそこにあった。
 人々が大勢集まったのを見計らって、劇団の長としてルナティエールが口上をする。
「さあ、これから始まるのは、ひとつの物語。この物語に名前をつけるならこれしかないだろう。『まほろば遊郭譚』――さあさあ、お立会い。ご覧あれ――」


卍卍卍



 マホロバの上空を白い雲かき分けて、たなびく白波を引き連れて、輸送船団が通っていた。
 少し前までは砲台を積んでいたあの船が、今は食料を運んでいる。
 それを動かしているのは、人だ。
 今はまだ傷が深いが、この土地にはやがて以前のように金色の稲穂が実るだろう。
 黄金のように輝く豊かなに土地を見て――かつて外からやってきたものは『黄金の国』と言った。
 その大地を桜の樹は静かに見守っている。

 東の閉ざされた小国が、エリュシオン帝国の第四龍騎士団を退けたという知らせは世界に衝撃を与えていた。


 マホロバの新たな夜明けが――これからの一歩がはじまろうとしていた。



担当マスターより

▼担当マスター

かの

▼マスターコメント

 こんにちは、ゲームマスターのかのです。。
 おまたせしてしまい本当に申し訳ありませんでした。
 
 多難な船出でしたが、どうにかここまで辿りつけました。
 ご参加いただいた方、運指スタッフの皆様に感謝申し上げます。

 今回のシナリオ中に遊郭などでの動いた金額は、キャラクターデータには反映してませんが、私のほうで管理しています。
 個別メッセージで残金をお知らせしてますので、そちらをご参照ください。
 今回動いた方のみ記載しています。
※所持金は平成23年8月13日のキャラクターデータを使用してます。


 それではまた、お会いできるその日まで。
 ありがとうございました。


【NPC一覧】

鬼城貞継(きじょう・さだつぐ)……マホロバ前将軍。扶桑の噴花を止めるため将軍職を白継に譲ったが、廃人となる。噴花後に復活。

房姫(ふさひめ)……葦原藩姫。大奥入りし、貞継の意思を継ぐと約束した。離縁され葦原島へ戻る。
睦姫(ちかひめ)……瑞穂藩姫。行方知れず。貞継との間に子「雪千架」がいる。正識の後を継いで、瑞穂藩主に。

ハイナ・ウィルソン……葦原明倫館総奉行(=校長)。房姫のパートナー
ティファニー・ジーン……葦原葦原明倫館・元分校長。将軍家の秘密を流したため、追われる身となった。『東雲遊郭』にて遊女見習い後、現在は自由人兼アイドル侍を目指す。

鬼城慶吉(きじょう・よしき)……鬼城御三家の一人。将軍後見職。

白継(しろつぐ)……マホロバ将軍。貞継と(SFM0033439) 樹龍院 白姫の子。
穂高(ほだか)……貞継と(SFM0034290) ファトラ・シャクティモーネの子
明継(あきつぐ)……貞継と(SFM0015871)葛葉 明の子
貞嗣(さだつぐ)……貞継と(SFM0002869)秋葉 つかさの子
珠寿姫(すずひめ)……貞継と(SFM0016822)度会 鈴鹿の子
緋莉姫(あかりひめ)……貞継と(SFM0032573)水心子 緋雨の子
雪千架(ゆきちか)……貞継と睦姫の子


蒼の審問官・正識(あおのもんしんかん・せしる)……七龍騎士の一人。瑞穂藩主。マホロバ名では(まさおり)。生死不明
日数谷現示(ひかずやげんじ)……瑞穂藩士。瑞穂藩を追われ流浪していたが、瑞穂藩の侍大将として復帰。
瑞穂弘道館分校……葦原明倫館分校と同じで、マホロバ内作られた瑞穂藩分校


胡蝶(てふ)……ティファニー・ジーンの源氏名
明仄(あけほの)……『竜胆屋(りんどうや)』No.1の売れっ子。姉遊女。ランクは天神。
海蜘(うみぐも)……妓楼(ぎろう)『竜胆屋(りんどうや)』楼主
正識(ごしき)……美形の影蝋。正識の源氏名


【付録】

●瑞穂藩(みずほはん)
マホロバ西国一の大大名。
二千五百年前の戦国時代、鬼城・葦原に破れ、西国に追いやられた。
現在は若き藩主、正識(マホロバ読みでは『まさおり』)が治めている。
瑞穂藩はエリュシオン帝国との貿易により栄え、その文化や風土の影響を受けてきた。
新しい藩主正識はエリュシオンのユグドラシルに強い感銘を受け、七龍騎士として働いており、臣下にもそれが影響されている。

●暁津藩(あきつはん)
マホロバ西国の藩のひとつ。
二千五百年前の天下二分の戦いでは鬼城家につき、「戦功大なり」の褒章に預かった。
現在まで続く大名として優遇されてきたが、藩政改革は進んでいない。
暁津勤王党(あきつきんのうとう)という一派が藩内で一大勢力となり、扶桑の都で活動を行っている。
しかし最近では、その反体制運動に懐疑的な複数の同志達が決別、脱藩者を出している。

●マホロバ二大遊郭
東雲(しののめ)遊郭……マホロバ城下にある幕府による唯一公許の遊女街。幕府の規制もあり、出入口は大門のみ。
水波羅(みずはら)遊郭……扶桑の都にある伝統ある花街。一般に出入りは自由。

●遊女の階級
太夫(たゆう)……最高位の遊女。遊郭における伝説的存在
天神(てんじん)……高級遊女
花扇(かおう)……一人前の遊女
雛妓(ひよこ)……見習い遊女。
的矢女郎(てきやじょろう)……最下級の遊女。病に冒されたものも多く、あたると死ぬという意味
芸者・舞子(げいしゃ・まいこ)……遊興時の舞や三味線、唄などを行うもの。身体は売らない
楼主(ろうしゅ)……遊女屋の主人

※『花魁(おいらん)』と呼ぶのは『花扇(かおう)』以上の遊女

『影蝋(かげろう)』……男娼。客は男だけでなく女もいる

●花魁道中(おいらん どうちゅう)
花魁が雛妓などの見習いを引き連れて揚屋や茶屋まで練り歩くこと

●揚代(花代) 
遊女を呼んで遊ぶ時の代金のこと。
高級花魁(太夫)と一回遊ぶのに揚げ代、人数分の料理代+酒代、ご祝儀などで100〜200万円前後、三度通って馴染みになるまでには1,000万円はかかる。。
座敷で芸者や舞子などをたくさん呼んで、賑やかに騒ぐ金払いの良い客はお大尽(おだいじん)として喜ばれる。
『天神(てんじん)』で10〜20万円程度。
『花扇(かせん)』で5〜6万円程度。
一番安い『的矢女郎』は3,000〜6,000円程度。

●身請け 
遊女の身代金や借金を支払って勤めを終えさせること。
相場は、
花扇で三百小判〜百大判(300万〜1000万円)
天神で三百大判(3,000万円)
太夫だと七百大判(7,000万円)

●マホロバの通貨
マホロバには大判・小判(金貨)、銀(銀貨)、銅(銅貨)がある。
一銅=1円
一銀=1,000円
一小判=10,000円
一大判=100,000円

(参考)1ゴルダ=100円〜500円