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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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第十六章 〜調律〜


「ここだけは、昔と変わらないわね」
 イコン製造プラント内部を見渡しながら、罪の調律者が零した。
「お待ちしておりました」
 調律者とホワイトスノー博士を、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が出迎える。
「プラントの稼働状況の方はどうだ?」
「生産ラインを組みなおしてからは、作業効率が飛躍的に上がったよ」
 美羽は博士に報告した。
 わずか二ヶ月で第二世代機プラヴァーの機体数を稼ぐことが出来たのも、ポータラカから技術を学んだおかげである。
「ナイチンゲール、聞こえる? あなたのマスター、戻ってきたよ」
 そして五千年ぶりに――人だった頃の意識を取り戻した罪の調律者にとっては一万年ぶりに二人は再会を果たすこととなった。
 侍女服姿の女性が現れる。
「こんな姿になってしまったけれど……わたしよ」
 調律者が微笑みを浮かべた。
 彼女とナイチンゲールが向かい合うと、ベアトリーチェがそっと彼女の手を取る。
「よかったですね、ナイチンゲールさん。やっとマスターが戻ってきてくれて……」
 ナイチンゲールは無表情なままだ。けれど、人形の少女を見て、一言発した。

『お帰りなさい、マスター』
 

・イコン製造プラントにて


 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、パートナーのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)と共にプラントを訪問していた。
 辛うじて見学の許可こそ得られたものの、自由に行動することは認められなかった。シャンバラに対し敵対こそしてはいないが、クリストファーがエリュシオン帝国側で活動していたことが知られているためである。
 とはいえ、かつて二人はプラント攻防戦の際にPASDに協力している。見学が認められたのはそれがあったからだ。
「イコンに興味があるのか?」
「ええ。薔薇の学舎にもシパーヒーがあるけど、まだまだ謎が多いので、もっと深く知れたらなと」
 ちょうどプラントに来ていたホワイトスノー博士に問われたため、クリスティーはそう答えた。
「それに、ロボットアニメには色々な用途や思想・観念を持ったロボットが登場した……って聞いてるからね」
「小さい頃はイギリスで日本のロボットアニメも放送されててさ。そのことを話したら興味を持ってくれたみたいでね」
 クリストファーと目が合う。
「そうだ、このプラントを巡る攻防戦を叙事詩にしてみたんだ。聞いて頂けると幸いだよ」
 周囲にいるプラント関係者に対し披露する。
 その後、この施設のマザーシステムであるナイチンゲールと話をしたいと申し出た。
『お呼びでしょうか?』
 ただ話すだけなら問題ないと判断されたようだ。ナイチンゲールの姿が二人の眼前に投影される。
「歌は好きかい?」
 クリストファーがナイチンゲールにも歌を聞かせようとする。
『好き、という感情は私にはございません。ですが、音声信号によっては私を安定させることがあるようです』
 淡々と彼女が告げる。
「ならば、自分でも歌ってみるといいよ。どうせなら習ってみないかい?」
『私は機械です。歌ったとしてもそれは単なる音声信号に過ぎません』
 あくまでも自分は機械だと言い切る。
 しかし、クリスティーもクリストファーもあくまで人格を持った存在として彼女と接し続ける。
「聞きたいことがあるんだけど、代理の聖像っていうのは元々何なのかな?」
 そして、製作者の遺志はそれに何を求めているのか。
 それに対する具体的な回答は得られなかった。
「ただ、兵器としての実用性が求められたわけじゃない、みたいなのはなんとなく分かるよ。聖像によって人は神の視点を得ることが出来る。ただ空高く飛ぶって意味じゃないよ」
 自分の立脚点は騎士にして歌い手。だからより上の守護者にして歌聖という高みを目指す。
 人を「高み」へと導く。それが聖像の役割の一つではないかと彼は考えている。
「顕微鏡を通して脅威の世界を捉えるように、剣と盾で護る力を高めるように、楽器で音域を広げるように、と言えばいいのかな。それまで見えていなかったものが見えるようになる。あくまで、ボクがそう思ってるだけなんだけど」
『決して的外れなものではないと判断出来ます』
 とはいえ、プラントへのアクセス権を持たない者には直接情報を開示してはくれないようだ。

* * *


「ほーわーいとっすのーはっかせー! 前のアレ、つくってくださいなー」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、ポータラカで博士から提案された改造機を頼もうと、このプラントにやってきた。
 事前に博士には連絡を入れてあり、PASDの司城 征(しじょう・せい)からの許可も得ている。
「今優先すべきは第二世代機だ。時間が掛かってもいいのなら、対応しよう」
「ええ、構いません。そうそうすぐに出来るものでもないでしょうから」
 既存の機体を改造するとはいえ、まだ導入されていない技術がある以上、一日、二日で完成するものではない。
「希望としては、モーショントレーサー、BMI、魔力用ユニットの全部載せでお願いします」
「そうなると、ベースはBMIが搭載されているレイヴンになる。前に言った通り、モーショントレーサーも技術としてはBMIと同系統だ。コックピットを改良し、システムを書き換えればいいだけだ。魔力用ユニットが一番の問題だ」
「それでも、技術的には可能なんでしょう?」
「無論だ」
 不可能ならば、初めから提案などしない。ということらしい。
「……で、博士は私の希望の対価に何をお望みですか? 何が必要でしょうか?」
 出来得ることなら何なりとお申し付け下さい、と博士に告げる。
「生憎、人手は足りている。そうだな、機体の出撃及び戦闘データを全て提供してもらうのは絶対条件として……」
 そこで、意外な対価を求められた。
「お前自身の身体データと、『生身での』戦闘データを頂きたい。前者は身体検査をさせてもらえば済む話だが、後者は誰かがお前の戦いを記録してなくては難しいだろうから、無理にとは言わないが」
「そんなことで宜しければ、どうぞお調べ下さい」
 おそらく、改造機を造る上で知っておく必要があるのだろう。
「それと、質問いいですかー?」
「なんだ?」
「搭乗制限とかってあります。クラスとかで?」
「あえて言うなら、肉体への負荷軽減のため、メインパイロットはトランスヒューマンでなければ厳しいだろう。BMI及び機体制御機構と一体化させるとしたら、サブパイロットとしての機晶姫は機工士、技術官僚が望ましい。あとは、魔鎧に格闘系技能の補助をしてもらう……そんなところか」
 メインパイロットは生身とほとんど変わらない感覚になるとはいえ、やはり生身ほど自由にとはいかないらしい。
「実際に搭乗することに備え、どこを鍛えてくるといいでしょうか? やっぱりシーマちゃん? それとも私がもうちょっと強くなるとか、特定のクラスの力を付けて来る方がいいのですか?」
「機体制御の大部分を担うことになる機晶姫の演算能力は、高めておいた方がいいだろう。メインパイロットに関しては、超人としての技能を極めておくに越したことはない。テクノパシーによってモーショントレーサー及びBMIを同期させれば機体とのタイムラグを減らすことも可能だろう」
「ということは、イコンパイロットの技能も私とシーマちゃんってことですか?」
「大部分はそうなる。システムとしての繋がりとしては、制御機構と魔力用ユニット、メインパイロットと魔鎧といった具合だ。機晶姫が魔道書の術式制御を行うことによって、魔法を展開することになる」
 あとは、アルコリアのパートナーであるシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)に対して、博士が確認を取る。
「イコンの一部として使われることは構わん。……ボクの力で条件を満たしているというのならばな。必要なデータなら取ってくれて構わん。対イコン時における生身戦闘データなども好きに使ってくれ」
「そうさせてもらおう。相手がド素人だったとはいえ、私が教えた対イコン戦闘法を実行出来たほどだ。稼働に必要な最低限度の演算能力は備わっていると判断出来る」
 改造機は、BMIシンクロ率が稼働条件にはならないらしい。あちらは機体のセンサー類と二人のパイロットが意識レベルで同調することによって、超能力の入出力や機体制御を行うものだが、こちらは違う。例えるならばアルコリアはイコンの肉体であり、シーマは精神である、といった具合に。
 人機一体とはいえ、両者のコンセプトは異なるのだ。
「質問ー、一機にラズン達四人分の力を収束するとして……アルコリアはメインのパイロットだよね? シーマが飛行や管制。ここまではあってる?」
「その認識で問題ない」
 それを踏まえた上で、ラズンが言葉を続けた。
「ラズンは地球人とパラミタ人の前提条件と、身体強化と鎧としての負荷軽減でいいのかな?」
「そんなところだ。無論、その技能を使うためにはメインパイロット同様にモーショントレーサーのシステムとダイレクトに接続されてなければならないが」
 イコンも、BMIシンクロ率が一定以上になったり、覚醒状態であれば機体が受けている風や浮遊感といったものをパイロットが擬似的知覚することはある。が、このシステムの場合は「自分の身体が受ける感覚として」完全にフィードバックされる。機体ダメージはメインパイロット――アルコリアに直接伝わるため、例えば機体の右腕が切断されたら、彼女の右腕の神経が切断されて腕を失うのと同等の痛みを味わうことになるのである。そうでなくとも、機体が飛行する際の風圧も身体で受けることになるため、それをものともしないだけの肉体は必要なのである。
「それと、ナコトは本体を載せるだけ? 魔力系統を制御するため乗り込む必要もあるの?」
「本体を載せるだけだが……この魔力用ユニットについては少々確認すべき事項が多い」
 ナコトとホワイトスノー博士が顔を合わせる。
「本体――禁忌の書……現状、強力な魔法武器がある以上、武器として持ち歩く価値は薄れていますわ。むしろ、人間で言えば心の臓を持ち歩くに等しい」
 それもあってか、この試みに対しても乗り気のようだった。
「わたくしの本体、お預けしますわ。ホワイトスノー博士。それから、わたくしに出来ることがございましたら何なりと」
「ならば、魔力用ユニットの製作を手伝って欲しい。多少は知識を得たが、まだまだ未熟なものでな」
 そのために必要なことを、博士が告げる。
「魔道書から出力すべき術式を、イコン用のプログラミング言語で表す。音声認識でメインパイロットが詠唱するという方法もあるが、これではただの魔力保管装置に過ぎない。そこで、予め魔道書が使用可能なものをパイロットデータと一緒に機体に登録しておく。あとは、武装の展開と同じだ。魔力用ユニットの魔力を使って、プログラムされた術式を起動する。基本的に使用判断は二人のパイロットに任されることになるだろう。通信、もしくはテレパシーを使えば外から指示も出来るが、な」
 ただ、この魔法のデジタル化がホワイトスノー博士を悩ませているようだ。
「そのためのシステム構築ですか……。でしたら、魔力用ユニット完成のために、イコン工学をご教授願いますわ。その代わり、というわけではありませんが、魔法はわたくしの専門分野。禁書の一つとして出来るだけのことはしますわ」
 あとは課題をクリアしていけば、魔力用ユニットも完成することだろう。時間はかかるかもしれないが。
「そういえば、ベースはレイヴンTYPE―Eだが、機体の名前とかは考えているのか?」
 ホワイトスノーの顔がアルコリアへと戻る。
「名前? 『アリスジャバウォック』。見た目はアリス、中身は化け物。名前に見合った可愛い外見にして下さいねー……ってさすがにそれは無理ですよね」
「外装を少しいじれば、少しは百合園女学院らしい感じにも仕上がるだろう。女性型のイコンもあることだしな」
 話を聞いた限りだと、魔力用ユニット以外はそこまで手間がかからないようだ。
「ああ、あと……もし機会があればワンオフ機の製造もお願いしますね? ふふ」
「改造機を上手く扱えていることが前提だ。それを満たしていれば、考えてやってもいいもっとも、第二世代機の開発が完了して、私に余裕が出来ているようでなければ厳しいがな」

* * *


「ジール、作業は順調かい?」
 司城が、コンピューターを操作しているホワイトスノー博士に声を掛けた。
「ああ。実験機の戦闘データの解析が、八割方完了したところだ」
 司城に連れられ、桐生 ひな(きりゅう・ひな)ジャスパー・ズィーベンは博士と対面する。
「彼女がロボット研究の第一人者、ジール・ホワイトスノー博士だよ」
 司城の紹介を受け、ひな達は頭を下げた。
「どうも初めましてですー、桐生 ひなと申しますですよ〜」
「ジャスパー・ズィーベンです」
「彼女達にはよくPASDの仕事を手伝ってもらっていてね。イコンにも興味を持ってるからキミの話を是非、と思ってさ」
 司城の言葉を受け、ホワイトスノー博士が二人に視線を送った。
「それなら、今がちょうどいい。残りの解析結果が出るまで、手が空くからな」
 軽く博士が口元を緩める。
「今、ジャスパーと一緒に乗るイコンを模索しているのですが、それについて相談がしたいのですよっ」
「現時点で、どこまで考えている?」
「この状況でワンオフ機は難しいですから、既存の機体を改造する方向ですね〜。コンセプト的に考えると、天学イコンの第二世代機がベースになるですー」
「……次から次へと無茶をするヤツばかりだ」
「何ですかっ?」
「いや、何でもない。続けてくれ」
 博士が小声で漏らしたが、ひなには聞こえていなかった。BMI搭載の第二世代機や常人には扱えないような改造機の製造依頼を博士が受けていることを、ひなはまだ知らない。
「機体に予定されている増設スラスターの基数、出力調整等で機動性を特化させたいですっ。あとは一部のパーツを組み替えたりすればいけるでしょうか〜?」
「第二世代機で出せる速度は、イコンの機体構造上の限界に達している。その機動性が何を指すか次第だ」
「人型イコンですので、速度より俊敏さの重視ですねー。瞬発力ってところでしょーか。複雑な軌道を瞬時に行うことにより、アドバンテージが握れるのですっ。偵察任務や強襲時、タイマン等に力を発揮させられますよ〜」
「問題は、それを高めると機体の制御が難しくなることだ」
 そのため、イーグリット・ネクストは一定以上の技量があるパイロットでなければ扱えない。
「これにモーショントレーサーを組み込めば、多少はマシになるだろう。だが、イーグリット・ネクストレベルの機動性とパイロットの肉体が同期した場合、負担は膨大なものとなる。生身の人間では扱えない代物になるだろう」
 メインパイロットが機晶姫であれば、不可能ではない。しかしサブパイロットが生身の場合、メインに比べ負担が小さくなっているとはいえ、急制動に耐えられるだけの肉体が必要なのは変わらない。
「超人的肉体に加え、専用のパイロットスーツがなければ厳しいですよねっ?」
「現行のパイロットスーツも耐Gスーツではある。だが、確かに厳しいだろう」
 ただ、スーツの改良自体はそう難しいことではないと博士は告げる。
「どちらにせよ、第二世代機の実用に備えスーツの性能向上は視野に入れていたところだ」
「テストすることになったら、私とジャスパーが行うのですよー」
「そのときは宜しく頼む」
 第二世代機が実用化された後は、彼女達の機体も実用化に向けて動き出すことになるだろう。
 
「じゃから、今は勝手に動き回られると困ると言っておろうに」
 ひな達がイコン案を練っている頃、PASDのメンバーでプラント常駐者でもあるアンバー・ドライが、ルチル・ツェーンを制止しようとしていた。
「この前までと違って今は外も中も慌しいことににゃっとる。しばし大人しくするのじゃ」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)はアンバーと一緒に説得している。プラント内で仕事をしている者達の邪魔をしないようにするためだ。
「ぐぶっ」
 と、そこでアンバーと顔面が密着する。キスではない。ただの圧迫である。窒息寸前までいったら息を吸わせ、またぶつけるという無慈悲っぷりだ。無意識にやっているのがまた怖い。
「あー、もう!!」
 二人とも同じような喋り方なこともあって、煩わしくなったらしい。元々じっとしていられる質でもないのは知っているので、無理に押さえつけようとすればどうなるかは分かっている……つもりだった。
「さ、行っくぞー」
 プラント内を探検しようとのびてしまった二人を引きずっていこうとする。
「あら、何をしているのかしら?」
 人形の少女とルチルの顔が合った。
「まあいいわ。迷子にならないよう、それとPASDやプラントの人に目を付けられないよう、気をつけなさい」
 とだけ残して去っていった。

 罪の調律者はプラントの中を一通り見終え、ホワイトスノー博士の元へと戻った。

* * *


「博士!」
 ドクター・バベル(どくたー・ばべる)はホワイトスノー博士と罪の調律者に、あることを願い出た。
「第二世代の次は第三世代、さらにその先の技術に繋がるだろう。第二世代の実装はあんたらが既にその域に届かせた。ならば、俺はその間に次のステップに行きたい。
 あの技術、見ただけで鳥肌が立ったよ。この天才たる俺様の一生でも、届かないかもしれない」
 世界の最先端の科学技術が集う海京ですら足下に及ばないほどのポータラカの技術に、彼女は衝撃を受けていた。
「ただ、それ以上に、より高度な技術はそれを制御する更に高度なものをもって初めて成立する。契約者がそれに値するかどうか、考えただけで、この右手の震えがとまらねぇんだよ。技術の進歩、その結果が生む恐怖に」
 そのことは分かっている。分かっていた。だが、立ち止まるわけにはいかない。目の前の「科学者」はそれを超えてきたのだから。
 代理の聖像を生みの親、そして現代ロボット工学の母と謳われる女傑。バベルにとっては、この二人も大きな存在だ。
「だから、俺をもう一度ポータラカに行かせてくれ」
 頭を下げる。
「俺を信じてくれと言うには、まだ俺には何もない」
 自分の震える右手を二人に見せる。
「信頼の出世払いだ。科学への恐怖を持ちながらなお、科学の進歩へ踏み出そうとする姿勢を信じてくれ」
 その熱意には、並々ならぬものがあった。
「シャンバラに来ているポータラカ人に申し出れば、連れてってもらえるだろう。シャンバラとは協力関係にあるからな」
「わたし達からは『行きたければ行けばいい』としか言いようがないわ。そもそも、わたし達は学院の人間ではないのだから」
 二人とも、好きにすればいいといった様子だ。前のポータラカ行きは、あくまで技術研修というのは建前で、本当はポータラカ人とシャンバラの学生を交えて一万年前の真実について話すことが目的だった。形式的に二人が引率したのはその両方を満たすためである。決して二人がポータラカとの間を取り持っているわけではない。
「最終的な許可は学院が出すことになるだろう。ポータラカの技術を学びに行くといって、断ることはないはずだ。あの技術をもっと取り入れたいとシャンバラ政府も考えているだろうからな」
 ただし、今すぐにというわけにはいかない。
 二つの世界の危機を回避し、シャンバラが落ち着くまでは難しいだろう。