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リアクション
第1章 じゅせいらん計画
■□■1■□■ ラズィーヤのお見舞い
ヴァイシャリー。
黒崎 天音(くろさき・あまね)と
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、
ラズィーヤの家を訪れていた。
白のドレスシャツと黒のスラックスに革靴と、
貴族の邸宅を訪れるにしては、
比較的、くつろいだ姿の天音だが、親しく接しているラズィーヤのお見舞いだから、というのもある。
「ふむ、とうとうあの女人も母親になるのか。
……胎生の生物が自分の身体に子どもを宿すと言うのはどういう気分なのだろうな」
そうつぶやく、ブルーズは、オレンジの入った籠を携えている。
途中で、「童話のドラゴンみたいだね。メルヘンでかわいいよ」と天音に言われた際には、
眉間にしわを寄せて見せたが。
★☆★
廊下で、ラズィーヤによく似た少女とすれ違い、
天音は挨拶ののちに頭をなでる。
「こんにちは、可愛いレディ」
相手を淑女として扱った後の自然な振る舞い。
「ご、ごきげんようっ」
少女……小ラズィーヤは、なぜか顔を赤らめて走り去った。
天音は、それを笑みとともに見送る。
「何かしたのか?」
「何も」
怪訝な表情のブルーズに、天音は正直に答える。
★☆★
小ラズィーヤは、廊下を曲がった角で、息を整え、
自分の鼓動が高鳴っているのを、走ったからだけではないと感じる。
(誰かはわからない。だが、この懐かしい感じは……)
小ラズィーヤにとって、
どこかの未来で、天音は「憧れのおじさま」になるのかもしれなかった。
★☆★
お茶のテーブルを囲みながら、
天音はラズィーヤに言った。
「静香校長をいじって楽しんでいる。という噂を聞いたものだから……」
「ええ」
「冗談のつもりだったんだけど。
それはそれとして、母親になるんだね」
先ほどと同じ調子で、ラズィーヤはにっこりと笑って、
「ええ」とうなずいた。
2人がお茶菓子をいただく間も、
ブルーズは、護衛として、警戒を怠らなかった。
(先ほどの少女といい……。
今日はどうしたのだ。
いや、むしろ、我の方が……)
いつもより柔らかい雰囲気の天音に、
ブルーズは落ち着かない。
お茶のお代わりを飲む頃。
「ラズィーヤさんは、静香校長の事はもちろん好きだろうけれど。
それでよかったのかい?」
もちろん、高貴な女性の務めであろうことは理解している。
けれど、やはり、聞いてみたかった。
「ええ、静香さんはわたくしが選んだパートナーですもの」
ラズィーヤの言葉は、天音の予想通りのものだった。
「それに、わたくし、わくわくしておりますのよ」
ティーカップを置いたラズィーヤは、
普段にもまして、大人びた笑みを浮かべていた。
「小ラズィーヤさんの生みの母親になれるのは、
わたくしと決まっておりますけれど、
未来はどんな姿になるか、わかりませんもの」
「確かに」
天音は、ラズィーヤに微笑んで、
ブルーズに持たせていたオレンジの籠を差し出した。
「よくわからないけど、すっぱいものが食べたくなるらしいから」
「お心遣い、感謝いたしますわ」
ラズィーヤは礼を言い、
「砂糖漬けかジャムにして大切にいただきますわ」、と伝えた。
どの近未来の自分の手元にも、届けることができるように、と。
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