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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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「はい消火剤です。どんどん使ってください」
 世界樹とのピストン輸送を続けながら、小鳥遊美羽が消火剤の詰まったコンテナを地面に下ろした。
 代わりに、今度は空のコンテナを持ってまた世界樹へと戻る。
 それにしても、こんなときにイコンがあって本当に助かったと思う。移動しにくい森林火災では、空からの消火が基本ではあるが、小型飛空艇よりも大量の消火剤や水を運べるイコンの存在は大きい。
「それにしても、この火事の原因はなんなんだもん?」
「さあ、消火隊の人の中には、攻撃しているイコンを見たと言う人もいますし、何かの演習の火が燃え移ったか、あるいは放火という可能性も捨てきれませんね」
「放火! そんなの、私が絶対許さないんだから」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーの推測に、小鳥遊美羽が怒りを顕わにした。イルミンスールの森は何度も行ったことがあるし、ピクニックもできる綺麗な森だ。それをこんなに傷つけた犯人は絶対に許せなかった。
 
    ★    ★    ★
 
「じゃあ、ここで私は降りるね。ジュレは、そのまま茨ドームの方へむかってみて。あそこは茨が密集しているから、全部燃えたら大変なことになるし、冷凍ビームも効果的だと思うから」
「うむ、分かったのだ」
 すでにその大変なことがすべての引き金だということに、まだカレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディは気づいてはいなかった。
 冷凍ビームで行く手を凍らせ、フォーマルハウトのフロントに取りつけたドーザーブレードで粉砕排除しながら、ジュレール・リーヴェンディは進んで行った。
「さて、ここから本気モードだよ
 カレン・クレスティアは一人になると、地面に純白の杖で召喚陣を描いていった。
「我は呼ぶ、雪白の魂、透氷の器。我が招聘に答えよ、力持つ獣よ!」
 閃光と共に、召喚陣の中からブリザードが周囲に広がった。次の瞬間、それが巻き戻されるように凝集し、人の形を取っていく。
 カレン・クレスティアの前に、ウェンディゴが立っていた。
「消しなさい、すべての炎を!」
 カレン・クレスティアが命じると、ウェンディゴが両手を高々と上げて雄叫びを響かせた。その姿は、異様に肩の張った類人猿だ。身体の体毛は、細いつららでできいてる。
 炎に近づいていくと、ウェンディゴは振り上げた拳をその炎に叩きつけた。炎その物が凍り、砕け、粉砕された。拳の通った後には、ダイヤモンドダストが舞い、粉砕された氷の欠片と共に他の炎の照り返しを受けて、空中をキラキラと飾った。
「その調子よ、すべての炎を凍らせなさい」
 ウェンディゴに重ねて命令すると、カレン・クレスティア自身もブリザードを使って周囲の炎を消していった。
 
    ★    ★    ★
 
『そのような炎、私の燃える魂に比べたら、風に消えそうな蝋燭の炎でしかない。火遊びは終わりだ!』
 龍心合体ドラゴ・ハーティオンが、盛大に燃えさかる炎の中へ飛び込んでいった。セットしてあった水タンクのハッチを開放すると同時に高速で回転して、360度方向へと水を放出する。
「ハーティオン、ウォーターシャワー!!」
 あっという間に、周囲の炎が消えた。だが、これは、今は一回しか使えない技である。水タンクが一つしかないから。
「よし、合体解除。龍心機ドラゴランダー、ここからは二人で動物たちを救うぞ!」
『ガオオオオオオオン!!』
 コア・ハーティオンのことばに、合体を解除した龍心機ドラゴランダーが答えた。
「ブリザードストーム!」
 再び押し寄せてくる炎を、コア・ハーティオンが押し返した。
「さあ、こっちよ、急いで」
 ラブ・リトルが、動物たちを誘導する。
 炎の進行が止まったのに気づいて、逃げ歩んでいた森の動物たちが一斉に走りだした。
 そこへ、木が倒れ込んでくる。
 龍心機ドラゴランダーの尾が宙を切った。動物たちにあたる前に、倒れてきた木を遠くへ弾き飛ばす。そのまま、回転させた頭を突き出して、自らの身体を防火壁とした。
「いいぞ、ドラコンダー。なんとしても、火の進行を食い止めるんだ!」
 
    ★    ★    ★
 
「玉藻、そちらは任せたぞ。三尾が宿りて絶零が生ず!」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、ヒロイックアサルトで強化した絶零斬を、立ち塞がる炎にむかって放った。刀身を軸として雪の結晶が現れ、剣の一振りと共に無数の雪の結晶が舞った。
「むすっ。我が三尾より氷刃がいずる……。ブリザードっと……」
 声をかけられた玉藻 前(たまもの・まえ)であったが、樹月刀真の方を振り返りもせずに、むすっとした顔で投げ槍にブリザードを炎にむかって投げつけていた。
「なんなんだいったい……。月夜、避難方向はどっちだ」
「うーんっと、あっち……」
 樹月刀真に訊ねられて、小型飛空艇で上空に位置した漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、避難方向を指し示した。
「よし、道を開く!」
 再び絶零斬を放つと、樹月刀真が退路を確保した。
白花、力を。避難してきた動物たちをこっちへ……。白夜?」
「みな、そう、慰めてくれるんだ……。ありがとう……」
 今度は、白虎に乗った封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が、風の鎧で周囲の熱を遮断しながら、森の動物たちをもふもふとなでていた。
「ええっと、二人共どうしちゃったんだ……」
「刀真のせい……決まっている。すべて、刀真が悪い」
 きっぱりと漆髪月夜が答えた。
「ええと……」
 心当たりがありすぎて、樹月刀真が頭をかかえる。
「まったく……」
 一緒に酒を飲もうと約束しておいたのをすっぱりと反故にされて、玉藻前はむすっとしたままであった。できない約束はしなければいいものを。それとも、我であれば、約束を違えても構わぬと?
 まあ、この突発の火災であるから仕方がなかったのは分かっている。だが、それなら……。
 ブチブチと堂々巡りする怒りのぶつけどころがなく、結局自身で押さえ込みながら玉藻前はぶ然としていた。
 対する、封印の巫女白花の方も、どうしょうもない……、いやいや、大変な悩みだ。
 どうも、樹月刀真は封印の巫女白花に対しては素っ気ないのだ。いや、冷たくされているわけではない。だが、一度ブラが外れた状態で生乳を押しつけたことがあったのだが、それこそ全力で逃げられてしまった。これはどう考えればいいのだろう。やはり、色っぽい玉藻前や、可愛い漆髪月夜と比べて、魅力がないと言うことなのだろうか。それとも、女性として見られてさえいないとか。考えれば考えるほどに、暗くなってきてしまう。
「すべて、刀真のせい」
 漆髪月夜が繰り返した。
 実際、樹月刀真と一番つきあいが長い彼女にとっては、それらはすでに通ってきた道である。食事の誘いも断られたこともあるし、無理矢理拘束してつきあわせたこともある。胸だってスリスリしたこともあるし、光条兵器を出すときはいつもわざと間違って胸を揉まれる。結局、最初に樹月刀真が恥ずかしがって逃げだすからいけないのだ。
「だから、刀真がすべて悪い」
 漆髪月夜が繰り返した。大事なことなので三回目だ。
「玉藻! 白花! 火を消すのが先! 不満や文句は後で聞くから今は手伝え!」
 ついに、樹月刀真がそう叫んだ。
「よろしい、後でたっぷりとつきあってもらうぞ。そうだのう、封印の巫女も一緒にな」
 玉藻前がそう答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「やれ、ガーゴイル!」
 アキラ・セイルーンの命令を受けて、ガーゴイルが周囲のまだ無事な樹木を次々と石化していった。
「よし、順調だ。アリスは反対側に、この防火帯を広げてくれ」
「うん、分かったネ」
 牧神の猟犬に人がいないか確認させながら、アキラ・セイルーンとアリス・ドロワーズが、石化した防火帯をのばしていった。欠損さえなければ、鎮火してから石を肉にで元に戻すことができるはずだ。
「人が……。さあ、早くこのむこうに。こっちなら安全だ」
 森の中で、急に農場のような場所を見つけてアキラ・セイルーンが叫んだ。
「嫌だ! このままじゃ、カイコがみんな死んでしまう!」
 必死に炎を叩いて消そうとしながら、養蚕場の主が叫んだ。どうやら、魔糸になるカイコを育てている農家のようだ。
「命とカイコと、どっちが大事なんだ!」
「カイコだ!」
 男が即答する。これには、アキラ・セイルーンも、思わず笑うしかできなかった。
「チルアウト!」
 安心しろと、男に微笑みかける。
 そう言うと、アキラ・セイルーンは、炎を氷術で消し始めた。
「アリス、この場所の周囲に防火帯を作るぞ。急げ!」
 そう叫ぶと、アキラ・セイルーンはアリス・ドロワーズを呼んで二体のガーゴイルで燃えかけていた周囲の木々を全力で石の防火壁へと変えていった。