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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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「みんな、こっちだ。早く、早く!」
 獣人たちの小集団を先導しながら白銀 昶(しろがね・あきら)が叫んだ。森の火事と聞いて、白銀昶が真っ先に考えたのが、森に住む同族の安否だった。
 何人かの避難民をシグルドリーヴァの所まで案内した後に、別ルートから獣人の避難民を誘導してきていた笹野朔夜(笹野桜)たちと合流している。
「どれ、よそ見すんなよ
 ちょっと遅れ気味の獣人の子供をひょいと拾いあげると、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)がそのまま白銀昶の肩に乗せた。気にはかけても、自分では運ばないのがちょっと彼らしい。
「まったく、なんでこのタイミングで火事なんか起きるんだろうねぇ。これじゃ、まるで証拠隠滅でもしているみたいじゃないかぁ」
 ここしばらくイルミンスールの森で起きた不可解な出来事を思い出しながら清泉 北都(いずみ・ほくと)が言った。
 特に、本人はまだ気づいてはいないが、霧が立ちこめたときに、森を徘徊していた娘と、怪しく飛び回っていた小型機晶姫の双方と出会った者は数が少ない。清泉北都はその一人であった。
「なんですか、それは。そんな犯人は、見つけ次第鉄拳制裁です」
 笹野朔夜(笹野桜)が拳を振るわせたので、笹野朔夜と笹野冬月に身体の内と外からあわててなだめられた。
「よし、もう進めるよぉ」
 先行して、倒れてきそうな木を先に粉砕しておいてから、清泉北都がみんなを呼んだ。
 この火事は普通の森林火災のようにも見えるが、それにしては乾燥の季節にはまだ早いし、それに一気に火が回りすぎてもいる。世界樹の展望台から観察された火の広がるスピードは、火元が複数であることを語ってはいなかっただろうか。
「ゴチメイ隊も、やはり気になることがあって森を調べていたのかねぇ。いや、話では、最初に行方不明になったのはアルディミアクさんだっていうから、ココさんたちは、彼女を捜していただけかな。でも、そうすると、なぜアルディミアクさんだったんだろうねぇ」
 何か意味がありそうだが、まだあまりにも情報が少ない。
「この人たちで最後だから、北都が気になることがあるんなら、後でつきあうぜ」
 考え込んでいる清泉北都を見て、白銀昶が約束した。
「ありがとう。そうですねえ。やっばり気になりますよねえ。面倒事は……嫌いなんだけどねぇ
 白銀昶に礼を言いつつ、清泉北都が言った。
「だいたい、あの娘とかは、霧が作りだした物なんだろ。そのわりには、しっかりしたことを言っていたみたいだったがな」
「いいえ、どちらかというと壊れたレコードのようでもありましたが」
「そうか? 俺には一つことに集中しすぎてたみたいに見えたぜ」
 ソーマ・アルジェントの言うことにも一理ある。だとすれば、あれはキーワードだったのだろうか。だが、曖昧すぎて、今ひとつ意味が分からない。もし、イルミンスールの森に入るなと言っていたのであれば、それこそ範囲が広すぎる。結局、たいしたことのない危険のことを言っているのかもしれない。
「どうせ、ゴチメイとかも探してみたいんだろ」
「ええ、もちろんですよぉ」
 そのとおりだと、清泉北都がソーマ・アルジェントに答えた。
 いずれにしろ、調べてみなければ始まらないのだった。
「面白そうですね。犯人捜しなら、全面的に協力しますよ」
 笹野朔夜(笹野桜)が、清泉北都に申し出た。
「犯人というわけではなですけどぉ、謎は解きたいですねぇ」
 そうこうしているうちに、なんとかシグルドリーヴァに辿り着く。
 そこでは、怪我の酷い者の治療を終えたノア・セイブレムが、やっと一休みしていた。
「では、ひとまず火元近くを調べてみましょうかぁ」
「そんなところだろうな」
 清泉北都の提案に、笹野冬月が同意する。笹野朔夜(笹野桜)はいずれにしろ行く気満々なので、場所のことなんか考えていない。
「奧を調べに行くのですか? 私もちょっぴり興味あります。一緒に連れていってください」
 そんな会話を小耳に挟んだノア・セイブレムが加わり、一同は火事の中央地点を目指して出発した。
 
    ★    ★    ★
 
「待ってくださいですぅ。なんでみんな逃げるんですぅ!」
 ブンブンと撲殺天使専用野球のバットを振り回しながら、メイベルポーターが叫んだ。
 さっきから、セシリア・ライト、フィリッパ・アヴェーヌと共に愛用のバットで立木を薙ぎ倒して道を切り開き、取り残された人々や動物たちを避難誘導しようとしているのだが……。
 なぜか、彼女たちの姿を見た者たちは、人も動物も一目散に逃げて行ってしまうのだった。
「いったいどうしてなんだろ……」
 ブンと、音速でバットを唸らせながら、セシリア・ライトが悲しそうに言った。
 本人たちは全然に気していないわけだが、さすがにパットをブンブンいわせて、燃えている木をまるで陶器製のオブジェのように粉々に粉砕していく撲殺天使たちは、知らない者が見たらトラウマ物であろう。
「仕方ありません。みなさん、火事で気が動転しているんですよ」
 フィリッパ・アヴェーヌがそう決めつけて、メイベル・ポーターとセシリア・ライトを慰めた。
「うんそれなら仕方ないですぅ」
 メイベル・ポーターが、やや復活してくる。
「避難はうまくいきませんでしたけれど、だからといって放っておく訳にもいきませんですぅ。このまま木を薙ぎ倒して、防火帯を作るですぅ」
「そうだね。うん、みんな撲殺しちゃおう」
「頑張りましょうね」
 気を取り直すと、三人は豪快に行く手にあるすべての物を薙ぎ倒していきながら進んで行った。その後には、草木一つ立った物がいないりっぱな防火帯ができあがっていったのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「来たか!」
 待ち望んでいた防火帯作成ポイントのデータが武神 雅(たけがみ・みやび)から送られてきて、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が歓声をあげた。
 現場の上空で情報収集をしている緋山政敏から送られてきた現状のデータから、独自に武神雅が導き出したものだ。
「これでやっと本気が出せるぜ。やってやるぜ! ダイリュウオー! 炎をすら切り裂き、森と命を守れ!」
 雷火タイプのイコン、ダイリュウオーに乗った武神牙竜が、鬼刀を高々と持ちあげた。
 白と黒のボディに、稼働部のカバーだけルビー色のダイリュウオーは、完全にスーパーロボット仕様であった。足部や肩の装甲は龍の頭部を模している。
「大地よ割れろ、炎を遮る川を穿て!」
 渾身のパワーを込めて、ダイリュウオーが鬼刀を振り下ろす。
 その斬撃に、太刀筋の左右の木々があっけなく倒れた。
 だが、このままでは倒れた木に引火してしまうと、武神牙竜はその上に土をかけて完璧を期した。
「ふむ、愚弟よ、なかなかみごとだ」
 自分の指示通り防火帯が作られている様を見て、武神雅が満足そうに言った。やはり、ここは祝杯を挙げなければならないだろう。
「よし、これでここは延焼する可能性は少ないだろう。……なんだ、変な匂いがするな……って、なんで酒! ああ、みやねぇ、いつの間に」
「なあによぉ、いいじゃない。もお私の仕事は終わってるんだからさあ」
 閉鎖されたイコンのコックピット内で何を始めると武神牙竜が怒ったが、武神雅は涼しい顔だった。
「ああ、仕事の後の一杯はおいしぃ〜♪」
「何言ってるんだよ、みやねぇ。あんたはおっさんか」
「失礼ね。ねえちゃんよ。きゃははははははは……」
「だめだこいつ、なんとかしないと……。それに、まだ仕事は終わっちゃいないんだぞ」
 そう言うと、武神牙竜は、防火帯で堰き止められた火事の焼け跡を丹念に調べ始めた。
「何してるのよぉ」
「こっ、こら、運転中……」
 いきなり後ろからだきしめられて、武神牙竜が焦った。
「残り火のチェックだよ。一つでも火種を残していたら、また火災になるだろう。こういうのは結構大事なんだ」
「ふーん。愚弟もいろいろ考えているのだな。どれ、褒美をとらそう」
「褒美って、何を……うわっ!」
 何やらごそごそしだした武神雅を、武神牙竜が振り返った。
「こら! 脱ぐな! 服着ろ!」
「いいじゃん、二人っきりなんだし」
「だから着ろって言ってんだよ。いや、むしろ、来てください、お願いします」
 もう打つ手のなくなった武神牙竜が、理不尽だと分かっていて武神雅に頭を下げた。