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リアクション
夢野久のように、たまたま図書室を訪れていたことで騒動に巻き込まれた人物には、草薙 武尊(くさなぎ・たける)も含まれている。
警報と爆発音、断続的な振動は、この場所が非日常のただなかにあることを全力で説明していた。
「たまには何か資料でもと来てみれば『非常警報』とは……ほとほと平穏から遠い事だの」
武尊は、イルミンスール大図書室の名を冠したコミュニティに属す身だ。読書家であることは言うまでもなく、そういったところからいわゆる『理論派』と見る向きもあるだろうが実際は異なる。むしろ『行動派』なのだ。このときも、
「まぁ、退屈とは無縁でよいが」
と、この事件の正体を見極めるべくさっそく動き出していた。
マネキンのような人形が徘徊するところを何度か目撃した。騒動の主はあれだろう。
武尊は自身の記憶、それと、過去の報告から学び取った知識を総合し推理した。
(「どうやら……」)
このとき、彼は馴染みの姿をちらりと見て目を見開いた。
よく知っている姿だ。
クランジ パイ(くらんじ・ぱい)(Π)。
小柄な姿、ブロンド、紫のコート……見間違いではない。
武尊の予想は確信に変わった。
(「……ということはこの騒ぎ、やはりクランジ絡みということか」)
パイも道に迷っているのだろう。行ったり来たりを繰り返しながら歩んでいる。足取りはしっかりしたもので、血色(機晶姫にこういった表現を使うのが妥当であればだが)も悪くはないようだ。
彼とパイは知らぬ仲ではない。あまり穏便な出会いとはいえないが、雪中の行軍でパイには手ひどくやられている。といってもさしたる怪我をしたわけでもなく、武尊はむしろ彼女に対し好感は抱けど怒りや恨みはなかった。
(「よし、Π殿に助力する事にするかの」)
幸い、土地勘ならば武尊のほうに利がある。
彼はパイの追跡を開始した。いきなり出現してまた超音波を浴させられては元も子もない。
同じ図書室内だが、武尊とは離れた別の場所。
借りる予定だった本を書架に戻して、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も顔を上げていた。
「ニルヴァーナのことを調べるのはまた今度ね」
「図書室がなくなったら調べ物どころではありませんし」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も同意して、ディテクトエビルを発動する。魔法の干渉が非常に強いこの場所では、敵の位置や存在を知覚する能力が大いに落ちてしまっていたが、まともな状況でないことだけは十二分に感じられた。
「事情はわからないけれど、敵の襲撃があったのかもしれない……あるとすれば、塵殺寺院だろうか」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も落ち着いてはいるが声が険しい。
三人は、できるだけ周囲に目を配りながら移動を開始した。
まずは出口を目指す。
書庫奥部まで来ているので、なかなか状況が把握できないからだ。外に出れば何が起こっているかは理解できるだろう。
しばらく無言で歩みを進めたのち、
「待って!」
美羽が声を上げた。
何か……いや、誰かが倒れるような音が聞こえたのだ。本棚にぶつかったのだろうか。どさどさと書物が落ちる気配もした。
その方向に駆けつけた美羽が見たのは、
「パイ!」
書架に背を預け、うなだれて座り込んだクランジ パイ(くらんじ・ぱい)(Π)の姿であった。
「怪我をしているの……?」
パイは腹部を押さえ、動かない。死んでいるのだろうか。いや、肩がかすかに上下していた。
「気をつけて下さい」
ベアトリーチェが注意を喚起した。
「パイは塵殺寺院に追われている身です……彼女が怪我をしているということは、寺院の追っ手、恐らくは別のクランジがいるということ」
美羽は第二世代パイルバンカーを、コハクも槍を構えた。
コハクの背に、白い翼と輝く光の翼が拡がった。光の翼は右に、白い翼は左に。
「周辺を探るよ」
本棚より高く飛び、ぐるりと旋回した。図書室には壁も多く重層構造のため付近しか探れないが、ざっと見たところでは不審な姿はない。
美羽にとってパイは友達である。パイが口で否定しようとも、美羽はそう信じている。
「パイ、しっかりして。知ってる? ローは手術が成功して今は蒼空学園にいるんだよ。無事帰ってローに元気な姿を……」
無我夢中で美羽はパイに駆け寄った。
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