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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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第二章 〜昼休み〜


・覚悟


「レオ君、演説お疲れ様」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、設楽 カノン(したら・かのん)に会いに行った。半年前の傷も癒え、すっかり落ち着いた様子である。
「あとは結果を待つばかりだよ。だけど、何もせずぼーっとしてるわけにはいかないんだけどね」
 生徒達への最後のアピールの機会は終わったが、候補者である自分へ視線が向けられている事実は変わらない。
「カノン、この半年はあまり会うことが出来なかったけど、あれからどうだい?」
 学院のデータ上では、カノンは2021年度の超能力科代表だ。そして、俗に言う免除組――第一級特待生である。第二級特待生が、学費が免除になっても単位履修は他の生徒と変わらないのに対し、第一級特待生は単位も免除となる。その代わり、学院に貢献することが必要とされる……と定義されている。カノン以外では、普通科に在籍している司城 雪姫と、図書館の番人と噂される図書委員長くらいしか判明していない。
「管理課があった時よりも、活気があるというか……あたしも含めて、強化人間は前よりも心にゆとりがあって、安定するようになりました」
 カノンの弁によれば、管理課が解体されたことで学院の強化人間に対する拘束力が弱まり、普通の生徒と同じ生活が送れるようになったという。
「いい方向に向かってるようでよかった」
 ただ、特待生の資格は剥奪されてしまったという。ただ、単位に関してはある程度大目に見てもらったらしく、一年間で取得出来る範囲とのことだ。風紀委員長代理のルージュと同じく、単位不足の留年である。超能力科の代表も、彼女ではなくなるようだ。
 レオは彼女の話から、カノンがもはや学院の切り札でもなんでもない、ただの一般生徒の一人に過ぎないということを知った。
(つまり、学院はもうカノンを積極的に守ってはくれない……ってことか)
 レオには、学院が彼女を利用するだけ利用して突き放したように感じられ、怒りにも似た感情がこみ上げてきた。
(落ち着け、賢吾先輩に言われた言葉を思い出せ)
 冷静になって考えてみると、これまでの彼女が厚遇され過ぎていて、ようやく普通の生徒と同じ立ち位置になったというだけのことである。
「大体の事情は分かったけど、カノンはこれからどうしたい?」
「あたしは……これまでは強化人間部隊や管区長として戦うことばかりだったけど、これからは普通の学生生活を楽しみたい」
 彼女の表情は、どこか寂しげだった。スイッチが入ると大変だが、本来のカノンは優しく素直な普通の女の子だ。にも関わらず、これまでは彼女を取り巻く状況がそれを許さなかったのである。
「レオ君は、副会長になったらどうするんですか? 演説で言ってた生徒会役員としてではなく、『レオ君個人として』は?」
「僕は僕だ。今までも、そしてこれからも。お互いがどこにいても、どうなっても僕は君の味方だ。絶対にいなくなったりなんかしない」
 カノンを守るということ。それを貫き通す。カノンの一番の理解者として。だが、守りたいのは彼女だけではない。彼女がいるこの学院そのものを、権力や武力から、世界の理不尽から守る。
「……ありがとう」
 彼女がもう戦いに駆り出されないで済むように。カノンが望む平穏な生活を実現させるために。