リアクション
* * * 「聡ーッ! 生徒会長当選おめてとう! 聡ならやるって信じてたよ」 ミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)は聡の姿を見つけるなり、飛びついていった。 「あれ? 聡ってこんなに腰細くて巨乳だったっけ?」 「……何をなさいますか」 聡の前に出たサクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)が、ミルトの身体を受け止めた。 「おう、サンキュー! だけど、当選しちまうなんてな……」 「ほんと、頑張っても報われない聡さんクオリティが覆されるなんて」 「……せめてフォローくらいしてくれよ」 そんなやり取りを眺めつつ、頃合を見計らってミルトは本題に入った。 「聡、この企画と案さ、後は生徒会に承認してもらうだけなんだけど、初会議にかけて欲しいなー。落選してションボリしてたら基礎戦闘プログラム担当に引っ張り込もうと思ってたけど、聡はすごいね!」 その心配はもうなくなった。 ヴァーチャルイコン大戦ゲーム・天御柱学院企画室の立ち上げ。 その企画は、イコンシミュレーターをマイナーチェンジした、インターネット使用のヴァーチャルイコン対戦ゲームを地球と空京に設置し、どちらの世界の人も一緒に遊べるようにするというものだ。 国内最大手のイコン関連メーカー『SURUGA』がスポンサーとなることは、ほぼ確定している。この企画が承認されれば、卒業生を出し始めた天御柱学院にとって就職活動の一環になり得るだろう。 それだけでなく、ゲームを通じて世界と生徒が広く接点を持つことで、突出した企業など様々な情報を学院が得る機会が増える可能性も高くなる。その際の問題発生へのリスクも当然出てくるが、メリットも多い。 「で、最初の企画室メンバーには、なつめ含め会長立候補者達をと思ったんだけど、どうかな?」 こちらに関しては、本人達の都合もあるだろう。参加は任意としていけば問題ない。 「まだ、第一回生徒総会も始まってねーんだ。それが終わってから、審査にかけることにするぜ」 この企画は審査を通過し、正式に生徒会公認となって動き出すことになるのだが、それはもう少しだけ先の話である。 そして、聡への依頼が終わった後は、真っ直ぐ校長室へと向かった。 「失礼します」 企画の件でも話をしていることもあり、すんなりと中へ通してもらえた。なお、機密情報の取り扱いに関しては第二世代イコンの内部構造以外はほぼOKとなった。海京決戦までなら、ほとんど事実を歪めることなく伝えることが可能だ。聖戦宣言以降に関しては、教会側の都合もあるため、解禁されるのはもう少し先だろう。 (確か、4月からの聖カテリーナアカデミーへの交換留学希望、ということだったな) クルキアータに乗れるようになったこともあり、本場で勉強したい。それだけでなく、もっと世界のことを知るために、海京の外に出てみたい。もちろん、ゲームのことも忘れない。 (エルザ校長から、こちらに二組留学生が来るという報せを受けた。ならば、こちらからも送り出さねばなるまい。4月から、アカデミーへ行くといい) 「ヴェロニカさん、先日ミルトの野望の理由を聞いた時……」 どこか寂しそうな微笑を携えていた。 ペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)は、その理由を知るために、ヴェロニカに声を掛けた。 「ここが、ノヴァさんが欲していた未来ではないことを、知ってらっしゃるからですか?」 ヴェロニカは、首を横に振った。 「そんなんじゃないよ。ただ、あの人は……本当は世界を創り変えるとか、望んだ未来に行くとか、そういうことがしたかったんじゃないと思う」 「と、仰いますと?」 「寂しかったんだよ。きっと、家族、あるいは友達……ううん、誰か自分を支えてくれる人がいて欲しかった、ただそれだけ。そう思うの」 だからきっと未練はないと思う。最後の最後でようやくそれが叶った、そんな気がするから、と。 「だけど、もっと早くそれに気付いて、何かを伝えることが出来ていたら……」 彼女の寂しさは、そこから来ているようだった。 「あ、ごめん。そろそろ行かなきゃ」 アカデミーの代表達との顔合わせのため、ヴェロニカは先を急いだ。 * * * 「結局、こっちで一日過ごしちゃったねー、マルちゃん」 「止(止むをえない。どっかの誰かが『疲れたから、ちょっと休ませて』とか言って、そのまま朝まで眠り続けるんだから)」 ドミニクとマルグリット、そして彼女達のパートナーは、新生徒会役員との顔合わせのために来訪するエルザと『聖歌隊』の面々を迎えに行った。 「お、みんないるいるー!」 聖歌隊メンバーであることを示すエンブレムと、赤い修道服姿が目に映った。一組だけ、白色だ。そのキャソック姿の少年に、声を掛ける。 「あれ、あの二人は?」 第一位、特にあのいけ好かない男の姿が見当たらない。 「マリアはともかく、アイツはこういう場には来たがらないよ。まあ来たら来たで、学院側への第一印象は最悪だと思うけどね」 そのため、第二位である彼とそのパートナーが、今は総代だ。 「あ、そうそう。これ伝えとかなきゃね」 ドミニク、マルグリット達を見て、エルザが告げた。 「あなた達、4月から天御柱学院に留学決定ね」 「……へ?」 「代わりに、ダリアちゃんを帰還させることにしたから。まあ、今回天学に迷惑かけちゃったわけだし、世界を知るのは悪いことではないわよ?」 そうは言われても、気が乗らない。 「だったら、マティとウルでいいじゃん。わざわざ手紙を書くくらい大好きな女の子、いるんでしょ?」 「別に、そんなんじゃないって。ただ、今どうしてるのか気になるだけだよ」 「同じだって、それ……」 爽やかに何を言ってるんだ、この男は。 「いやー、あたしとしては、嫌がってる子を困らせる方が面白いのよね。だから、自分から行きたいって言ってるこの二人は――正確にはマー坊だけなんだけど、ちょっとねぇ」 「うわ、相変わらず性格悪っ! 知ってるけど!」 だが、この校長にはどうにも敵わない。 「おっと、そろそろ時間だね――行こう」 次代を担う天御柱学院と聖カテリーナアカデミーの代表が対面を果たした。 ここから本当の意味で、新しい体制が始まる。 それぞれが確固たる想いを抱き、今、動き出した。 担当マスターより▼担当マスター 識上 蒼 ▼マスターコメント
大変お待たせ致しました。遅くなってしまい、大変申し訳ございません。 |
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