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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第一章 本之右寺2

「本之右寺(ほんのうじ)が、燃える」
 麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)は火の手が上がった方向を振り返った。
 葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)が書いた御筆先(おふでさき)の真相を確かめるべくこの時代にやってきていた。
「どこかに本之右寺の変の首謀者がいるばずだ……」
 由紀也が目を凝らしていると、騒ぎの向こうで寺から脱出する人影を見た。
 織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)と彼を助けようとするもの、それを追うものたちでである。
 由紀也は追うものをさらに追った。
 おびき寄せる隙はない。
「待て! お前たちが謀反者なのか、主は誰だ!?」
 由紀也が合図を送り、物陰から瀬田 沙耶(せた・さや)和泉 暮流(いずみ・くれる)が先回りして飛び出した。
 地面が詠唱によってたちまち凍りつく。
 沙耶が三つ編みの髪を手で払いながら由紀也に言った。
「わたくしに指示を出すなんて、あとで御代はしっかり頂きますわ」
 暮流は、そんな沙耶から少し離れるように謀反者に近づく。
「……ん? 女性ではないのですか」
 凍った地面で動きの鈍った謀反者一人はコートを着ており、一瞬女性に見えた。
 しかし、暮流の女性アレルギーがそれを見破った。
 暮流は女性が半径二メートル以内に近づくと異常をきたすという特異体質らしい。
「誰なんです。一体?」
「違う、そうじゃない。俺は……俺も、本当の謀反者を探っている」
 コートの男、佐野 和輝(さの・かずき)は地面の氷を薙ぎ払った。
 和輝の変装を兼ねてロングコートの形態で纏われていた魔鎧スノー・クライム(すのー・くらいむ)がひらりはためく。
「和輝、まずいわねぇ。これでは本当の敵が誰かわからないわぁ」
 彼らの言葉に沙耶が眉根を寄せる。
 理由は直ぐに分かった。
「鬼だ! 鬼が謀反を起こした!」
 混乱の中、鬼に変装した牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)たちを目撃した警備兵がふれまわったのだ。
 たちまち敵は鬼一族であると伝わっていった。

「やっぱり、歴史にむやみに干渉するのは、よくないんじゃないかな」
 あくまでも事件の目撃者として、傍観者を装っていた東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は、パートナーの要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)の袖を引っ張った。
 要は秋日子の肩をぽんぽんとたたく。
「どうしたんですか。いつもの秋日子くんらしくもない。自分たちは歴史を変えにきたのではない。真実を確かめにきたんですよ」
「うん。そんなんだけど、あのときと同じ感じがする」
「あのときとは?」
葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)様が御筆先の最中に鬼みたいに豹変したとき。あのときもこんな……変な胸騒ぎがしたの」
 秋日子の言う房姫とは、以前に房姫を訪れた際に起こった出来事だ。
 普段の房姫からは考えられない姿で、書き上げられた御筆先も不吉に変化したものだった。
「私ね、思ったの。歴史をゆがめようとしている黒幕が房姫様にとり憑いてて、その同じ人がまた誰かにとり憑いて、この時代で謀反を起こすように仕組んでるんじゃないかって……」
 秋日子と同じように、要にも他にいる『誰か』の存在は感じていた。
「秋日子くんの勘は僕も信じますよ。僕もあの房姫様とは信じがたい。誰かが房姫様を利用してるんです。しかし、どうやって確かめたらよいのか……そう思って時を越えたのです」
 要は何か異変はないかとあたりに気をめぐらせた。
 そのとき、巫女の格好をした少女いた。
 皆が逃げ惑う中、あたりを警戒しながらしきりに何か念を送っている。
 要が声をかけた。
「ひゃうぅ!?」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)は悲鳴を上げた。
 パートナーに情報として送る『御託宣』に神経を集中していたため、秋日子と要に気がつかなかったのだ。
「何をしているの?」
「ななな、何って。アニスは何もしてないよ? その……和輝どうしよう!?」
 極度の人見知りであるアニスは、とっさのことでうまくしゃべることができず、佐野 和輝(さの・かずき)に『精神感応』で助けを求めた。
 が、それは届かず、アニスの身体ががくんと跳ね上がり、うなだれる。
「え……な、に?」

 鬼の笑い声がした。

 アニスの唇から低い声が響いた。
 開かれた彼女の瞳には何もうつってはいない。
「無駄だ。無駄だ……!」
 ただ人形のように言葉を発しているだけだ。
「わらわを見つけ出すことなどできぬ」
 秋日子はアニスを見据えた。
「キミは、房姫様と同じあのときの『鬼』だね! どうしてこんなことするの?」
「ほう、わらわに気づいたか。だとしても、どうすることもできまい」
 アニスの異変に気づいた和輝も駆けつけた。
 麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)たちもアニスを取り囲む。
「黒幕が、直接お出ましになったか!」と、由紀也。
「わらわは時を越える、場所を越える。そなたたちの手の届かぬところに居る。その代わり、わらわは直接時の流れに手を下すことができぬ。ああ、時の流れにはじき出されるとは口惜しや……」
 アニスはケタケタと笑った。
「だからそなたたちを使って歴史を変えさせる。見よ、人の傲慢さ、欲望……またひとつ、歴史が書き換えられるぞえ」
 『鬼』がとり憑いた巫女が指し示す方角には、織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)を乗せ飛び立とうとするイコン南斗星君の姿が見えた。
「面白きことをするよのう。ここで織由が生き延びれば……鬼城 貞康(きじょう・さだやす)は幕府を開くことかなわぬよのう」
「そんな……!」
 見てるだけと決めていた秋日子はどうしたらよいか分からなくなった。
 鬼城家がマホロバ幕府を開かなければ、マホロバの歴代将軍はもちろん、一千五百年後に彼女が訪れた東雲遊郭(しののめゆうかく)やそこで生きていた人々はどうなるのだろう?
 鬼は笑い、語気を強めた。
「人は己の力を過信するあまり、ときに手の付けられぬことをしでかすものじゃ。わらわは決して許しはせぬ、忘れはせぬ……!」
 炎がごうと燃え上がり、本之右寺を嘗め尽くしていく。
 あたりは赤々と照らされ、煙が上がり、煤は天に舞いかがった。
 本之右寺で起きた出来事が外に知られるのも時間の問題であった。