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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第二章 山路越え1

【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月2日 13時40分】
 港町 境(さかい)――


 マホロバ最大の交易都市である境。
 この功績は自由な市場を許した、織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)によってもたらされたものだと言われていた。
 戦に勝つため、領内を富ませるため、新しい情報を手に入れるため、武器や品や人を求め結果としてそれらが集まり、信那は急速に勢力の拡大を行うことができた。
 その手助けともなったのが、境の豪商たちである。
 鬼州国国主鬼城貞康(きじょう・さだやす)はこの日、豪商たちのもてなしを受けながら境見物を行っていた。
 鬼城への歓待は、信那からの指示でもあった。
 ゆえに、貞康はこれまでの倹約生活からはかけ離れるほどの接待を受けている。
 供の数も少数で領内をうろつくのは、武菱(たけびし)も滅び、織由の力が安定してきた証でもあった。
 そこに慢心があったのだろう。
 その知らせは突然もたらされた。

「於張国の信那(のぶなが)殿が討ち死にじゃと?」
 貞康は信じられぬといった表情をした。
「……して、誰の謀反だ?」
 家臣は神妙に答える。
「それが素性がまだわからぬのです。『鬼』らしき姿を見たというものもおり、真っ先に疑われているのが殿(との)です。殿が豪商たちに会うために境に来られたのは知られています。都や街道はすぐに封鎖されましょう。早くここをお発ちください。{gold}鬼州国へお戻りを!」
「わしが信那殿を討っただと……? そんなばかなことがあるか!」
 「織由と同盟関係である鬼城がそのようなことをして何になるのか」、と貞康は言ったが、家臣は「世間というものはそうは見ないものだ」といった。
「於張の敵、殿や鬼州国を邪魔に思うものなど、いくらでもおりましょう」
 謀反軍や織由軍による追撃、その混乱に乗じて各諸侯や野武士、落ち武者狩り、一揆――その他いろいろな予測がついた。
 時は一刻を争う。
瑞穂攻略に向かっている信那殿の家臣、羽紫秀古(はむら・ひでこ)殿はまだ戻られぬだろうな。もし戻ればすぐに戦場になる。境は惜しいが……よし、わかった。山を越え、鬼州へ戻るぞ」
 貞康は豪商たちの口の端々に上っていた葦原の国の鬼鎧(きがい)と呼ばれる新しい武器が気になっていたが、その興味も寸断された。
 供や案内人を集め、すぐさま境を出発した。
「ん、そなたはいつぞやの……」
 そのとき、案内人の中に見覚えのある顔があった。
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、貞康の前に進み出ると、片膝をついた。
「覚えていていただけて光栄です。四方ヶ原(しほうがはら)では不本意ながら貴方様に傷を負わせてしまいました。忍のものとして不徳の致すところです」
 フレンディスは真顔で言った。
「再びお守りする機会をお与えください」
「また、そなた達が現れたということは……」
 貞康の指摘に彼女はこくりと頷いた。
 どうやら先のことは話せぬが、護衛として同行するという。
 なるほど、再びまた何か自分にとって重大なことが起ころうとしているのか、と貞康は理解した。
「頼む。山道は険しい。飲まず食わず、寝ずの行進となろう。追っ手もいれば、山に潜む落ち武者狩りもいる。苦しいぞ」
「は、必ずやお守りいたします」
 フレンディスはレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に鬼城一行とともに出発する継げた。
 レティシアはしばらく不機嫌そうにしていたが、普段ぽやっとしているフレンディスが任務を受けて鋭く変わった顔つきを見て、気分を変えた。
「ふむ……よかろう。この山越え、我らが先陣として敵を引きつけようぞ。我はそれ以外にも、鬼の棟梁といわれている。朱天童子(しゅてんどうじ)にも興味あるのでな。ベルク、主も頼むぞ」
「はいはい、このままフレイに負い目感じ続けられても、俺もたまったもんじゃねえからな」
 吸血鬼ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はまだ日が高く、寝不足の頭をかいた。
「貞康、万が一怪我しても俺ができるだけ応急してやっから、過信しない程度に頑張りな。けど、あんまり勝手なことはすんじゃねーぞ。また怪我されてフレイが落ちんだら俺が……」
 ベルクは言いかけて、フレンディスとそれ以上に殺気立つ鬼州武士本打只勝(ほんだ・ただかつ)の視線を感じて口をつぐんだ。
「わ、わかってるって。お殿様に失礼がない程度に俺も頑張るよ。これでいーんだろ?」
 フレンディスと只勝はにっこりと笑った。
 ベルクはフレンディスの笑顔しか視線の中に入れないようにした。
「山路の無法者は、鬼城のため世のためになりませぬ。手向かうのならば、叩きのめしてやりましょう」
 そのような家臣の言葉を受けて、貞康決死の山路越えが行われようとしていた。