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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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decem  大会二回戦〜準々決勝

 二回戦第1試合は、四谷大助と、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)九十九 昴(つくも・すばる)チームとの対戦だった。
 エリュシオンの龍騎士だの、樹隷だの、優勝賞品が髑髏である理由だの。
 そんな事情を一切知らずに、唯斗は大会に参加していた。
「優勝すると、山葉と戦えるのか! それはいいな。
 うん? エリュシオンの美少女龍騎士? へえ、珍しいな。ついでに手合わせできたらいいな」
「ええ……。狙いは、勿論……優勝、です」
 唯斗に誘われ、チームを組む昴が頷く。
 審判の手が上がった。
「始め!」
「ふふ、さあ、全力で刃を交わしあいましょう!」
 戦闘モードになって豹変した昴が、猛攻を仕掛ける。
「何だ何だあ!?」
 その豹変ぶりに驚くも、大助達は、一回戦と同じ轍を踏まなかった。
 グリムゲーテが前衛に飛び出して、先制攻撃を仕掛ける。
 昴の猛攻を受け止めた。
 だが、それはフェイントだ。
 正面から打ち合っても、昴には敵わない。
 後方に下がった大助がすぐさま、グリムごと、ファイヤーストームを放った。
 グリムには、装備で炎熱耐性をつけてある。
 全く防げるわけでは勿論ないが、通常の半分に軽減されているはずだ。
 ――ただ、グリムはそもそもの魔法防御力が高くはない。
 大助の魔法攻撃に、どれ程耐えられるかは、正直賭けだ。
 そして勿論、それで敵が倒れるとも思っていない。
 大助は直接攻撃で畳み掛けて行く。
「させるかっ」
 唯斗がそれを迎え撃った。
「マスター、違いますっ!」
 殺気を読んだ魔鎧の七乃が、大助に叫んだ。
 はっとする。
 いつの間にか、大助の前にいたのはグリムだった。
「ち。見破られたか」
 唯斗は呟く。
「そっちがそう来るならっ!」
 焦げた髪を後ろに払って、グリムゲーテは人魚の唄を歌った。
 相手の混乱を誘う攻撃だ。
「うっ……」
 ぐらっ、と昴の足元が揺れた。
 かかった! そう判断した大助は、素早く昴に攻め込む。
 もう、これ以上時間をかけられなかった。
 気丈に立っているものの、グリムゲーテのダメージが、思ったよりも大きい。
「昴!」
 唯斗がフォローに入ろうとする。が、一瞬遅かった。


「お疲れ様ー」
「残念でございました」
 戻って来た昴と唯斗の二人を、昴のパートナー、九十九 刃夜(つくも・じんや)九十九 天地(つくも・あまつち)が迎えて労う。
「おう」
「……天地たち、も」
 勝敗は勿論実力もあるが、時の運もある。
「惜しかったな。もう少しのところだったのに。
 俺達も一回戦負けしたし、あとは、ツァルトのパフォーマンスを残すのみ、か」
 刃夜の言葉に、全員の視線を受けて、ツァルト・ブルーメ(つぁると・ぶるーめ)は照れて俯いた。
「は、はい……。頑張ります」

 舞台の近くには、セルウス達が控えていた。
 次は、セルウス達と相沢達の試合なのだ。
「面白い技だったね! 人が増えるの? 分身とかしてた?」
「ん? 見えてたか。分身は一瞬だったけどな」
 セルウスに話しかけられて、唯斗は肩を竦める。
「こういうトリッキーな戦い方もある、ってことだ。
 まあ、好みでいえば、真っ向からやりあう方が好きなんだけどな」
「へー」
 セルウスは、興味津々の表情だ。
「次は……あなたの、試合ですね……」
 昴がセルウスに微笑みかけた。
「応援しています……。頑張って」
「うん。ありがとう。いつか俺達とも戦って欲しいな!」
 そう笑って、セルウスは舞台に向かう。
「達?」
 迷惑そうに、ドミトリエがセルウスを見た。
 そんな二人の様子に、昴達はくすくす笑う。



「今度はまともに戦えそうだな」
 そんなセルウス達を横目で見ながら、洋は洋孝に言う。
「問題は、洋孝の経験になり得るかどうかだが」
「見えない相手、ってのは怖いだろうね」
 相手の視覚を騙す為、相沢洋孝は装備に迷彩塗装を施している。
「……でも、本当に怖いのは、人間だけどね」

 その試合は銃対剣になったが、セルウスは舞台いっぱいを走り回りながら洋達を翻弄し、距離を置かれる先から洋に突っ込んで行って彼を倒した。
 洋孝への対処は全くなく、攻撃を受けても気にしなかった。
 洋はセルウスの足元を狙ったが、捉えきれずについには攻撃を許す。
 セルウスに、勝者の手が上がった。
「見えない相手のことは見ない、か。……随分まっすぐだ」
 まっすぐすぎる気もするが。
 洋は苦笑して肩を竦めた。



「さて、次は俺達ですね」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)とパートナーの獣人、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が、舞台側で、審判に名を呼ばれるのを待っている。
「樹月さんが、先刻の氷室さんとの試合で、接戦をものにしていましたから、これに勝てば、次は樹月さんとの対戦になりますね」
 見ていたトーナメント表をしまいこんだ。
 樹月刀真とも、氷室カイとも戦ってみたいと思っていたが、組み合わせで刀真が勝ち残っている。
「勿論、最終的な目標は、キリアナさんですが」
 キリアナとは、決勝まで勝ち進まないと当たらない組み合わせだ。
「まずは、目の前の相手よ」
 クコが言った。
「ええ、解っています」
 霜月は頷く。

「相手は剣士と格闘系、ですか」
 霜月達の装備を見てそう判断しつつ、試合開始と共に、御凪 真人(みなぎ・まこと)は、オーバークロックを用い、霜月達の出方を伺って作戦を立てた。
 飛行を使って来るなら、天のいかずちを使って落とす。
 姿を隠して来るのなら、神の目でのカウンターを返す。
 だが、霜月の攻撃は、真人の予測の、どれでもなかった。

 開始と同時、霜月は正面から、ゴッドスピードで飛び込んできた。真っ向勝負だ。
 誰が相手でも、霜月に出来る戦い方は、正面から正々堂々、だった。
(しまった)
 反応が遅れた。
 だが、真人のパートナー、ヴァルキリーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、彼を守ってその前に回りこむ。
「いいじゃない。
 そういう戦い方、あたしも嫌いじゃないわ!」
 二人の武器がぶつかり合った。
 ぱっ、と離れる。
 しかし霜月は、再びすぐさま攻撃に転じた。

 飛び込む霜月の後ろから、クコも続いた。
 狙いは、近くにいる方。前衛のセルファだ。
「場外なんて狙わない。倒すわ!」
 双龍の傀儡を使って、両側から挟みこむ。
 正面からは、霜月。短期決戦の作戦だ。
 後方の真人は一瞬、躊躇した。
 範囲魔法は、セルファを巻き込む。
 単体魔法は、一人を退けても、二人が残り、セルファに不利は変わりない。
 誰を狙うか。
(早い。仕方ないっ)
 下がるより、飛ぶ方がいいか、と判断したセルファは、一旦上空に逃れようとする。
「逃がさない!」
 しかしそれよりも早く、クコが飛び掛った。
 すかさず真人が、雷術をクコに落とす。
 両者が攻撃を受けたのは、殆ど同時。
 だが、その次の手は、霜月が最も早かった。
 クコの攻撃を受けて体勢を崩したセルファに、追い討ちの一撃。
 勝負は決まった。



「二回戦第6試合、ソア・ウェンボリス対、チーム【地の文ジャッカーズ】!」
 ソア・ウェンボリス達と、柊恭也、魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を装備し、物部九十九の憑依した鳴神とのタッグが、舞台に立つ。
「よろしくお願いします」
 変身したストレイ☆ソアが、開始の合図と共に一礼。
 対戦が始まった。
 と、同時に、恭也は機晶爆弾を投擲して爆破させた。
「ご主人、空へ!」
 素早く気付いて、ソアは上空へ逃れる。
 ベアが恭也に格闘戦を仕掛ける一方で、九十九がベアの背後に回り込んだ。
 ソアが、九十九にシューティングスターを落とす。
「うきゃっ!」
 攻撃をくらった後で、それなら! と、九十九は恭也を見た。
 味方の視線に、恭也はぞっとするものを感じる。
 にっこりと、九十九は笑った。
「ごにゃ〜ぽ☆ 柊さんならこれくらい耐えられるよね☆」
「てめ、まさか……」
「落ちないでね〜」
「てめえ!」
「くらえ、ダウンバースト〜」
 嵐の使い手による攻撃。
 吹き荒れる暴風を、恭也は咄嗟に剣を舞台に突き立てて堪える。
 全開で使えば、一発でベアを場外に吹き飛ばせる魔法だが、それだと会場全体を暴風で覆って反則負けとなる。
「きゃあ!」
 ソアは箒に乗ったまま、範囲外まで逃れて体勢を整えた後、急いで舞台へ戻った。
 場外へ向かってごろごろと転がって行くベアを、ギリギリの所で支える。
 二人は辛うじて堪えきった。
「あ、危ねえ……!」
 ベアは慌てて舞台中央に戻る。
「悪運が強いね! だったら、こうだっ!」
 九十九は影を立ち上がらせた。
 二人から三人。そして更にもう一人増やす。
 影に援護をさせながら、恭也が乱撃ソニックブレードを仕掛けた。
「くそっ」
「ベア!」
 範囲魔法は、ベアを巻き込む。
 ソアが放ったシューティングスターは、九十九の影を一人消したが、尚ベアは三人に囲まれていた。
「とどめ!」
「仕方ねえ!」
 恭也とベアは、同時に叫んだ。
「ベア、それはっ……」

「奥の手だっ!!」

 ベアはがっと膝を突く。
 その背のチャックが、一気に開いた。
「なっ……!!」
 カッ、と閃光が放たれる。
 機晶爆弾とは比較にならない爆音が轟いた。

「……えーと」
 爆風に飛ばされはぐって、舞台の下に転がり落ちていた審判のトオルが、立ち上がって溜め息を吐いた。
「……ダブルノックアウト?」
 舞台の上では、九十九も恭也も倒れていたが、勿論ベアも倒れている。
 ぽり、と頭をかいて、トオルは上を見上げた。
 上空では、箒に乗ったソアが、呆然としている。
「……まあいいか。一人残ってる方が勝ち」
 ひょい、と手を上げて、そう言った。