リアクション
◇ ◇ ◇ 『いよいよの決勝戦は、まさかのエリュシオン人同士! 龍騎士キリアナと、少年セルウス、ドミトリエ組の対戦!』 控え室のモニターに、ウォーレン・シュトロンの実況が流れる。 「けっ、どいつもこいつもだらしねえ」 白津竜造が吐き捨てた。 その時、ナッシングがゆらりと振り向いた。 何だ、と竜造が振り向くと、そこに、黒いローブの人物が立っている。 上空から現れ、ナッシングと名乗った男だ。 「何だ?」 警戒心をあらわにする竜造に、現れたナッシングは、緩慢に動いて、モニターを見た。 「あの者は、何処へ行く?」 問われた方のナッシングは首を傾げ、二人は同時に竜造を見る。 「知るか。コンロンだかエリュシオンだか、つーか俺に訊くな」 「コンロン。エリュシオ、ン」 ナッシングは呟いた。 「ならば、阻止を」 そうして、決勝でセルウスは、キリアナにこてんぱんにされて負けた。 「流石、筋はええけど、はしゃぎすぎや。無駄な動きが多すぎどす」 よろめきながら立ち上がろうとするセルウスの前で、一撃も与えられず、キリアナは悠然と立っている。 その腰には、クトニウスが括りつけられている。 背中に近い場所なので、前が見えず、文句半分、もごもごセルウスを応援していたのだが、今は黙っていた。 「ま、まだまだっ……」 セルウスは、弾き飛ばされた剣を睨み見ながら立ち上がろうとしたが、キリアナは苦笑して、足元の剣を拾い上げた。 「往生際が悪いどすなあ」 苦笑して、キリアナがセルウスの剣を構えた時、後ろの方でドミトリエが、ふ、と嘆息し、舞台を降りた。「ドミトリエ、リングアウト! キリアナの勝利!」 ぱっと手を上げて、審判のトオルが叫ぶ。 セルウスは驚いてドミトリエを振り向いたが、そのままへたりと座り込み、トオルに支えられた。 優勝者、キリアナ。 キリアナは高々とクトニウスを差し上げて、観客達に手を振る。 「皆さん、おおきに! 楽しかったどす」 「次も頑張れ!」 「山葉校長負けるなー!」 観客席から歓声が上がる。 次の対戦は、優勝者対山葉涼司。 涼司は、既に舞台の横で出番を待っていた。 そうして、キリアナ対涼司の一戦。 それは、一撃で決着がついた。 初撃で涼司は、全力の一撃をキリアナにぶつけた。 それを受け止めたキリアナは後方に滑り、そのまま、リングアウトしてしまったのだ。 「……あら」 がく、と舞台から足を踏み外して、キリアナは足元を見る。 「落ちてしまいましたわ」 苦笑して、キリアナは肩を竦め、潔く認める。 「うちの負けですね」 あっけない幕切れだった。 涼司も苦笑する。 「次は、お互い何の制限もない状態で戦いたいな」 本当に本気の全力の一撃だったら、舞台の外、観客席にまで被害が及ぶ。 涼司は、周囲に被害が及ばない程度には加減していた。 キリアナが、この状況で避けずに受け止めるだろうということも解っていたし、キリアナの、セルウスとの対戦後すぐ、というのも狙っていた。 キリアナもまた、全力の状態ではなかった。 だが、負けは負けだ。 「……ええ。次、が、あれば」 キリアナは苦笑しながら、涼司と握手を交わす。 きっと、それは無いのだろう。 解ってはいたけれど。 どうぞ、と、キリアナはクトニウスを涼司に渡す。 うちにはこれがありますし、と冗談めかすキリアナの腰には、骸骨キーホルダーが残されていた。 代わりの優勝賞品、ということか。 涼司はそれを、舞台の外へ投げた。 ぽん、と、観客席にいたセルウスが、それを受け取る。 意表をつかれた顔をしたセルウスは、涼司の、行け、という合図に、コア・ハーティオンや光臣翔一朗らに伴われて、客席を離れた。 苦笑しながらそれを見送り、キリアナが涼司に別れを告げる。 「どうも、お騒がせしました。そろそろ行きます」 「ああ」 「楽しかった。おおきに。 ちょっとこれから慌しくなるので、もう少しだけ、堪忍どす」 そう言って、最後にもう一度客席に手を振ると、キリアナは身を翻して舞台を降りる。 何処からか、分裂エニセイが走り寄って来た。 キリアナは、待っていた叶白竜達と合流しながら、エニセイを伴って走って行く。 「大丈夫かなあ」 傍らで様子を見ていた審判のトオルが、涼司と共に見送りながら、心配そうに言った。 「それは、どっちが?」 「俺はダチの味方。審判は、大会では神様だけど、終わったらただの人」 トオルは笑ってそう答える。 「両方ダチだったら、どっちにも味方できないだろ」 「難しいよなー」 肩を竦めて、涼司は舞台を降りて行く。 お疲れ様です、と迎える火村加夜に、笑って頷いた。 |
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