リアクション
◇ ◇ ◇ 「一回戦がお昼くらいまでかかって、お昼休憩のパフォーマンスタイムがあって、その後二回戦以降が始まる、ってわけだね」 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の言葉に、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は頷いた。 「で、そのお昼時間帯のパフォーマンス担当になったわけだけど」 と、クリストファーはキリアナを見る。 「よかったら、キリアナくんの武勇伝を歌わせて欲しいな」 クリストファー達二人は歌姫として、キリアナを紹介する叙事詩を作って歌いたい、と、申し出た。 「そないな大層な経歴を持ってませんけど」 キリアナは苦笑しつつも、クリストファーの提案に反対はしなかった。 「それで、幾つか質問させて欲しいんだが。 まず、“プリンス・オブ・セイバーの再来”と呼ばれるようになったきっかけは何だ?」 「……それは、多分、大帝の御前試合で優勝した時からやないかなと思うてます」 少しだけ、含みのある言い方をキリアナはしたが、クリストファーはそれについては訊ねなかった。 「第三龍騎士の副団長に就任したきっかけは?」 「それはやっぱり、実力を買われて、だと思っとるのどすけど」 「エニセイとの邂逅については?」 「エニセイは、団長に頂いた龍どす」 「じゃあ、エニセイを分裂させる剣技を会得した時のことを」 「会得というか……エニセイには始めから、そういう資質が備わってて、うちにならその特性を使いこなせるやろうと、団長はうちにくださったんよ」 「それじゃ、今回の任務を拝命するまでの経緯は?」 「それは、この任務を受けられるのが、うちくらいやったからどすな。 相手が相手でしたから」 クリストファーの質問にキリアナが答えて行く横で、クリスティーがメモを取っていく。 「じゃ、最後に」 クリストファーが言った。 「何か、披露したいことなんかはあるか? 宣伝したいことでも構わない」 キリアナは、首を傾げて少しの間、考え込んだ。 それから困ったように微笑む。 「……敵国の王やったし、仕方ないどすけど、シャンバラの皆さんは、きっと、アスコルド大帝を嫌っとる人が多いと思います。 けど、大帝は素晴らしいお人なんよ。 国を選んで家族を犠牲にしたお人やので、一人娘とも疎遠になってしもうてますけど……」 そう言って、キリアナは肩を竦めた。 アスコルド大帝は、シャンバラにとっては、数多の被害をもたらした相手だ。 だが、帝国臣民には、国を護る賢帝として尊敬されている。 キリアナは、シャンバラの人と大地に触れ、シャンバラに対して友好的だったが、それが少し残念なようだった。 「でも、ここで歌う歌に、大帝への賛歌なんて入れるわけにはいきませんね」 あんまり役にたてなくてすみません、とキリアナは謝った。 「そんなことはない。色々答えてくれてありがとう」 礼を言って、その問答を元に、クリストファー達は出番までに歌を作った。 「さて、ディーヴァの本領を発揮する機会だね」 そのまま歌っても芸が無い。 事実を捻じ曲げることはしないが、誇張したり省いたり、二人で歌うのだから、パート分けもし、歌として盛り上がる内容のものを作るのだ。 結果は上々だったようで、歌を聴いたキリアナも喜んで、クリストファー達に礼を言った。 「……今度は、武闘大会かよ」 四谷 大助(しや・だいすけ)は、いつもパートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)に引っ張りまわされる。 今回強引に連れて来られた場所が、この武闘大会だった。 「狙いは勿論優勝よ! 別に、あの髑髏はいらないけどね」 グリムゲーテは言い放つ。 「ツァンダで武闘大会が開かれるなんてチャンスよ! 私達の力を知らしめれば、当家復興に一歩近づく! 当主の力だけ見せ付けても駄目よ。従者も強いことを証明しないと、舐められてしまうもの。 というわけで、一緒に参加よ、大助!」 と、強制的に参加を決められ、その一回戦第1試合。 「はあ。まあ、いいけど」 嫌だと言ったところで、あのお姫様は聞きはしないし、確かに、自分の実力を試してみるのは、面白そうではある。 魔鎧の四谷 七乃(しや・ななの)を装備し、対戦相手は、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。 「えへへ、きんちょーしますね、マスター!」 そう言った七乃の声は、むしろわくわくしている。 そうだな、と大助は答えた。 「さて、乾坤一擲頑張りますか!」 試合開始と同時に、吹雪のパートナー、機晶姫の鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が、六連ミサイルポッドを一気に射出した。 ドカドカと、舞台上に爆音が上がる。 「うお!」 先手を取られて、大助が怯んだ。 二十二号は、更に、加速ブースターとダッシュローラーで、一気に突っ込んで行く。 「ふっ! 接近戦なら願ってもないぜ!」 大助は、立て直して迎え撃った。 「もう一人はっ?」 グリムゲーテは、爆煙の中で、吹雪の姿を見失う。 二十二号の背後で、ベルフラマントを被った吹雪が銃を構えた。 大助とグリムは、トゥルー・グリッドの攻撃を受ける。 「くっ……まだまだ! この程度じゃ倒れてあげられないわ!」 グリムゲーテは地を踏みしめた。 「……調子に乗るのも、ここまでだぜ!」 初手から一気に畳み掛けられた。大助は反撃に出る。 「力を貸せ、ブラックブランド!!」 吹雪は射撃の後、次のタイミングを測る為に後退したが、二十二号は接近戦体勢のままだ。 大助は二十二号に殴りかかる。 応戦するも、その拳の前に、二十二号は倒れた。 「……負けました」 大の字に伸びた二十二号の側に立ち、吹雪は肩を竦めて負けを認める。 「勝者、四谷大助!」 審判の手が上がった。 「オレの相手は軍人さんかい。おー、怖そうな相手やな〜」 一回戦第3試合。 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、舞台に上がって、大げさに体を竦ませた。 一人での参加である。 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、じろりと裕輝を見た。 「ふざけないでもらおう」 「別にふざけてへんよ。 ま、軍人さんの掲げる正義なんぞ、ハリボテみたいなもんやとは思うけどなあ」 裕輝はへらり、と笑う。 格闘タイプの彼は、目立った武器を持たなかったので、一層侮っているように見えた。 険悪な雰囲気が流れる。 ひらひらと手を振りながら、審判のトオルは、うーん、と、開始を言うタイミングを測っている。 「何や、怒ったんか? でも、人は無力ならどんなに大層な大儀信念持っとっても意味あらへんし、意思がなけりゃ力もふるわれへん。 だからと言って、崇高で素晴らしい理由があっても、力は正義ではないし、力を振るぅても、それが悪とはいわんやろ」 「馬鹿げた譫言だ」 洋は裕輝を睨みつけた。 「そぉ?」 にまり、と裕輝は笑う。 「正義も悪も、どっちも結局自分の主義主張を押し通したいだけやろ。 それが多数か少数かのハナシ」 狂気と凶気。殺意と害意と悪意と敵意。全てを滲ませて、裕輝は笑った。 「で? なして闘うんや」 「あー……。そろそろその辺で。始めるぞ〜」 「いつでもええで」 遮る審判に、裕輝は返す。 「んじゃ、始め!」 開始と同時に、洋はラスターハンドガンによる弾幕援護を張る。 「作戦開始だ! 洋孝、プラン通りやれ! こっちはこっちで隙にやらせてもらう!」 「はいはいー。ではプラン通りいくよー」 パートナーの未来人、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)が軽快に答える。が。 「何っ!?」 洋の銃弾を避けながら、裕輝がひょいっと舞台を降りた。 「何のつもりだ!」 「いやぁ? おたく強そうで勝てなさそうやから、無駄にあがくのやめとこうかな思うて」 「ふざけるな! 心にもないことを!」 「一回戦勝利おめでとう〜。次も頑張ってな〜」 へらへら笑って、裕輝は去って行く。 審判が肩を竦めた。 「……場外にしとくか? それとも不戦勝?」 |
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