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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「森上部の樹木の状態はどうですか?」
 ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が、観測士ブラギに聞いた。
「痕跡は明確ですので、進行方向も容易に辿ることができます」
 イルミンスールの森の樹木の外縁に刻まれた一本の筋を指し示しながら、観測士ブラギが地図を広げて報告した。
 シグルドリーヴァの船尾楼にある船室からでも、それははっきりと見てとれる。明らかに、大型の飛空艇のような物が木の上をかすめながら航行していった痕跡が残っているのだ。
「こんな飛び方をするなんて、森をなんだと思っているのかしら」
 かなり憤りながら、ノート・シュヴェルトライテが言った。
 木々の高さにもよるが、進路上にあった樹木は、先端がほとんどへし折られてしまっている。こんな飛び方をする飛行物体は、レーダーを避けようとしていることが明白であった。だが、教導団やツァンダ・空京周辺ならばいざ知らず、イルミンスール魔法学校を知る者であれば、こんな馬鹿なことはしない。機械的なセンサーよりも、生体的なセンサーが発達しているイルミンスール魔法学校では、要所に仕掛けられた禁猟区のかかったタリスマンなどにより、森自体に悪意をもっている者が近づけば自動的に探知されるようになっている。低空飛行などは逆効果だ。
「とはいっても、痕跡はあるのに肝心の飛空艇を見た者がいないというのは、おかしいよね」
 副長である風森 望(かぜもり・のぞみ)が、通信士ゲフィオンにもっと情報を集めるように言った。これだけ盛大な跡を残しておきながら、その犯人が目撃されていないと言うことは、飛空艇自体が遮蔽処理されているのかもしれない。
「えっ、イルミン経由で、蒼空学園から情報が入っているって?」
 通信士ゲフィオンに言われて、なんで蒼空学園からと、風森望が首をかしげた。
「前方、イコン発見」
 砲撃手ハールが、索敵用のスコープを覗いたまま報告した。
 船窓から見ると、人型をしたイコンが同じように飛空艇の残した跡を調べている。周囲には、箒に乗った女の子が二人いる。おそらくは、同じ目的で森を調べに来たイルミンスール魔法学校の者だろう。
「照会終わりました、認識番号ICN0004087、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)所有のE.L.A.E.N.A.I.です」
 通信士ゲフィオンが、イコンの照会を終える。
「ちょうどいいわ、情報を交換しましょう。こちらにも、新しい情報が入ったことだし」
 蒼空学園から届いたエステル・シャンフロウの依頼文に目を通して、風森望がノート・シュヴェルトライテに言った。
「いいですわ。シグルドリーヴァ前進、前方のイコンを回収する」
「微速前進、ヨーソロー!」
 ノート・シュヴェルトライテに命じられて、操舵手ギュルヴィがシグルドリーヴァをE.L.A.E.N.A.I.に寄せた。
「情報交換がしたい?」
「ええ、そう言っていますわ」
 シグルドリーヴァからの通信を受けて、サブパイロット席のユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が非不未予異無亡病近遠に告げた。
「そうですね、この傷跡がなんであるのかまだ分かってはいませんし。いいでしょう。アルティアさんたちにも伝えてください」
 非不未予異無亡病近遠は、外にいるアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)にも伝えるようにユーリカ・アスゲージに言った。
 E.L.A.E.N.A.I.を飛行形態に変更させると、非不未予異無亡病近遠はシグルドリーヴァの上甲板の上に着艦させた。ほとんど無理矢理の着艦なので機体が甲板からはみ出してはいるが、これは致し方ないと言ったところだ。
「この傷跡をつけたのは、エリュシオン帝国から侵入してきた反逆者だと言うことですか」
 風森望からエステル・シャンフロウの依頼文の全文を聞いて、イグナ・スプリントがちょっと顔を顰めた。なんだか、話が一気にきな臭くなってきた。
「帝国の問題なのに、こちらの国に持ち込まないでほしいなあ」
 迷惑そうに非不未予異無亡病近遠が言った。
「情報では、アトラスの傷跡の南西にイコンと大型飛空艇が集結しているそうよ。その戦力で、敵大型飛空艇をやっつけるんだって」
 地図を前にして、風森望が説明した。
「たった一隻を、そんなにたくさんでやっつけるのでございますか?」
 ちょっと大げさすぎて、弱い者いじめみたいな気がしてアルティア・シールアムが言った。
「オーバーキルかどうかは、敵戦力が不明のうちは判断しかねますわね。それとも、他に思惑があるかですが……。いずれにしても、騎士としては、傭兵に身を落とすというのはどうも……」
 ノート・シュヴェルトライテは、あまり乗り気ではないようだ。帝国の傭兵として戦うのは、どうもプライドが許さないらしい。
「かといって、このまま傍観者を決め込むのは面白くないだろう」
 イグナ・スプリントが言った。否応もなく、敵はシャンバラに入り込んでいるのだ。放っておくことはできない。
「帝国としては、腕試しのようなものなのかも。地位の保持とは、面倒くさいものだから」
 風森望が小声で言った。
「そこにむかいましょう。乗りかかった船よ」
 風森望の決断に、ノート・シュヴェルトライテ他のブリッジクルーが肩をすくめる。
「あなたたちは、どういたします?」
「もちろん、放ってはおけませんからね。分かりました、戦いましょう
 ノート・シュヴェルトライテに聞かれて、非不未予異無亡病近遠が答えた。
「ボクはE.L.A.E.N.A.I.でむかいます。二人を頼めますか」
 非不未予異無亡病近遠が、イグナ・スプリントとアルティア・シールアムをさして、ノート・シュヴェルトライテに言った。
「よろしいでしょう」
 ノート・シュヴェルトライテが、二人の乗船を認めた。
「イコン発進後、最短距離で合流ポイントを目指します。シグルドリーヴァ、エンゲージ」
 ノート・シュヴェルトライテが、操舵手に命じた。
 E.L.A.E.N.A.I.がホバリングして甲板を離れると、先行して合流ポイントを目指す。
 イルミンスールの森を抜けると、遠く右手、シャンバラ大荒野には恐竜騎士団が展開していた。どうやら、これを見て、敵は南に転進したらしい。途中から合流ポイントへ直進したシグルドリーヴァは、敵艦を迂回して追い越す形になるだろうか。
「高度をとりつつ、索敵を行う」
 イルミンスールの森の状況を考えると、敵は地面すれすれを航行している可能性が高い。途中、シャンバラ大荒野に砂嵐が発生していて、遠方の視界が悪くなった。
「不自然ですね」
 観測士ブラギが注意をうながす。レーダーにも、目視にも敵影は確認されないが、砂漠でもないのに大規模な砂嵐というのも怪しすぎる。
「おそらく、あの中に敵艦が隠れているわね。イルミンスールに報告。本艦は合流を急ぐ。全艦、最大船速!」
 ノート・シュヴェルトライテが、操舵手ギュルヴィに命じた。
「最大船速、ヨーソロー!」