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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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 再廻の大地の北端を越え、さらに北に行った場所に繊月の湖と呼ばれる大きな塩湖がある。この湖の南端に作られた町が水上の町アイールである。
 まだまだ発展途上ではあるが、ヴァイシャリーにも似た古風な観光都市風の発達を遂げている。
 そこにある550m級巨大浮船渠キート・ヴァーンナにHMS・テメレーアと伊勢が停泊していた。ゲートをくぐるために施した変形を元に戻す作業を急ピッチで行っている。
『主砲、交換終わったわよ』
 HMS・レゾリューションで作業を行っていたローザマリア・クライツァールが、ブリッジで各部の状況をモニタしているグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーに報告した。
「順調のようですな。ローザとフィーグムンドには、引き続き装甲の交換した部分の再確認を指示してください。艦底部連絡救命艇の再接続の方はどうなっておりましょうか」
 ホレーショ・ネルソンが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーに訊ねた。
「じきに終わるはずであるが、問い合わせてみようか」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが言った。
「それでしたら、わたくしが確認してみます。やらせてくださいませ。それよりも、先ほどの通信の方が気にかかりますが……」
 常闇夜月が、ついさっき再廻の大地のゲート空港から中継基地をへてもたらされた情報を気にかけた。
「もちろん、それは考慮している。テメレーアは、修理完了次第、西にあるというその遺跡に直行する。じきに旗艦隊がそちらへむけて出発するのであれば、ゲートにむかう意味はないであろうからな。遅れるようであれば、可能な作業は移動中に回すつもりだ。遺跡に到着次第、集結した艦艇でH部隊としてのフォーメーションを組み直す。会敵に時間を要する帆船での戦いと違って、現代戦は時間が重要であるからな」
 現代戦、それも飛空艇という今までにない乗り物を使っての独自の戦い方を行ってくる敵を思って、ホレーショ・ネルソンが答えた。
 
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『ということで急いでください。ところで、貴仁はどこに行ってしまったのでございますか?』
「ええと、多分買い物だよ……」
 常闇夜月に催促された鬼龍黒羽が、ゲシュヴィントヒルフェのコックピットでおずおずと答えた。買い出しとは名ばかりで、はっきり言って鬼龍貴仁はサボりである。
 まあ、お菓子の一つでも買ってきてくれれば、少しは鬼龍貴仁も役にたつのにぐらいにしか鬼龍黒羽と鬼龍白羽は思っていないわけではあるが。
『まったく、おいていってしまいましょうか。とにかく急いでくださいませ』
 言い渡すと、常闇夜月が通信を切った。
「てへっ、怒られちった。夜月くん、ちょっと張り切りすぎ」
「まあ、勉強中だから。とにかく、さっさとこの作業を終わりにするわよ。後、貴仁を呼び出して。ホントにおいてくわよと脅かしといてね」
「シュヴェルツェ・シュヴェルトでも残しておく?」
 鬼龍貴仁のことをちょっとだけ心配して、鬼龍黒羽が鬼龍白羽に聞いた。
 
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「エンジンが動くようになったら、すぐに出発するでありますよ」
 連絡を受けた葛城吹雪の方も、改装途中の伊勢で発進する態勢を整えようとしていた。
「ちょっと、まだ改装途中でしょ?」
 旧タイプの伊勢から、今回の伊勢への大幅な改修を思ってコルセア・レキシントンが突っ込んだ。
「時間がないであります。改修だけで出番が終わったら、悲しいであります」
「それはそうだけど、今回の改修については、ちょっと疑惑があるんだけれど……」
「疑問ではないのでありますか?」
 ちょっと冷や汗を浮かべながら、葛城吹雪がコルセア・レキシントンに答えた。
「やけに手際がいいじゃない」
 なにしろ、大幅改装であるのに、アイールではすべての準備が整っていて、驚くべき短時間で作業が終わりつつある。
 今まで通常の仕様であった主砲が、三門ともすべて収納式に改変されている。それによって甲板がすべてイコン用に使えるようになっていた。さらに、左右にイコンカタパルトを増設し、文字通りの戦闘空母という仕様に変わっていた。さらに、大きいのは艦首に艦載用大型荷電粒子砲を取りつけたことだ。これによって、伊勢の火力は以前の倍に匹敵するものとなっていた。
「それは褒め言葉として……」
「でも、なんで通路の幅が半分になったわけ? これじゃ、鋼鉄が横歩きじゃないと移動できないじゃない。もちろん、かち合ったらそれまでよ。だいたい、なんで居住区を削ってまで、イコン格納庫やコンデンサーを増設するのよ。もう、コンデンサーなんか入れる場所ないでしょうに」
「それは、炊事場とシャワー室を削ることで」
「なあにそれ、信じられない。外につけなさいよ、外に!」
「それじゃあ、一発しか撃てなく……」
 コルセア・レキシントンにアームロックをかけられて、葛城吹雪がそれ以上言葉を発せなくなった。
「あのー、この設計図だと、我が中央システムに呑み込まれるデザインに……。でも、機晶制御ユニットなんてどこにも、あの……」
 一所懸命鋼鉄二十二号が話に入ろうとしたが無駄であった。
 そのころ、外の作業現場では……。
「ええと。次はここを壊せばいいのじゃな」
 外で作業していたお手伝いのジョージ・ピテクスがシャワールームに狙いを定めているところであった。
「よいやっさ!」
 容赦なく、ジョージ・ピテクスはシャワールームに作業用アームを突っ込んだ。
 
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「うー、ずいぶんと手間取っちゃったんだもん」
 入ったときと同じく、再廻の大地のゲート警備のイコンの協力を最大限もらって、やっと巡洋戦艦アルザスがニルヴァーナへと到着した。すでに、フリングホルニ以下の艦艇やイコンは遺跡に出発してからかなりの時間が経っている。
「艦内チェック急げよ。それから、アンテナの再設置急げ」
 フランソワ・ポール・ブリュイが、乗組員に命令した。艦内チェックを示すコンソールには、ところどころにエラーシグナルがついている。
「やはり、少し無理がたたりましたかな」
 今回の出撃は、もともと巡洋戦艦アルザスの試験航海も兼ねていたのだが、どうやらまだいろいろと問題があるようだ。
『こちら、アストロラーベ号。フリングホルニ艦隊とのネットワークに接続完了。現在艦隊は、西にある遺跡にむかっている模様』
 そこへ、アストロラーベ号のフラン・ロレーヌから連絡が入った。
「どうしますかな」
 フランソワ・ポール・ブリュイが黒乃音子に訊ねる。
「当然むかうよ。ここまで来て何もしないんじゃ格好つかないもんね。引き続き、アストロラーベ号には曳航を頼んで。その間に、なんとしてもアルザスを戦闘可能状態に持っていくんだよ」
「分かりました。機関、チェック急げよ。最優先だ!!」
 黒乃音子に一礼すると、フランソワ・ポール・ブリュイが命令を発した。
 
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「このまま、遺跡までむかうそうだよ」
「分かりました。アストロラーベ号、最大船速。フリングホルニとの合流点に急ぐ。フリングホルニにも電信を送れ。我、到着セリ」
 フラン・ロレーヌに答えると、フルリオー・ド・ラングルは巡洋戦艦アルザスを曳航したままアストロラーベ号を遺跡へと発進させた。