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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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「確認来ました。侵入可能です」
 高嶋梓、コルセア・レキシントンからの連絡を受けて報告する。
「輸送艦各艦を侵入させてください」
 富永佐那が、艦船リストをチェックしながら告げた。
 ブルタ・バルチャと国頭武尊を乗せた輸送艇が進入を開始する。カーゴには、ヘルタースケルターとDS級空飛ぶ円盤が搭載されている。
 輸送艇は、一隻でイコン二機を運べるほどの大きさである。
 佐野和輝、アニス・パラス、ドクター・ハデス、聖剣勇者カリバーンは、ブラックバードと聖剣勇者エクス・カリバーンを搭載した輸送艇でそれに続いた。
 レン・オズワルド、トマス・ファーニナル、魯粛子敬、テノーリオ・メイベア、ミカエラ・ウォーレンシュタット、夜刀神甚五郎、ブリジット・コイル、ホリイ・パワーズ、阿部勇、それに、イコン輸送車両フィアーカーを乗せた輸送艇が、バロウズを曳航しながらそれに続いた。さすがに、応龍は輸送艦のカーゴにも収まりきらない。
「輸送艦、全艦ゲートに突入しました」
 高嶋梓が、レーダーから船影が消えたのを確認して報告した。
「よし、次は俺たちの番だな。土佐、微速前進」
「土佐、微速前進させます」
 湊川亮一の命令を、高嶋梓が復唱した。
 ゲート警備のプラヴァー・ギャラクシーが船体がゲートに接触しないように見守る中、土佐がゆっくりとゲートに入っていった。
「さすがに、時間がかかりますね」
 常闇夜月が、HMS・テメレーアのブリッジで、ちょっと待ち疲れたように言った。
「操艦は、艦が巨大であればあるほど繊細な物だからな。大きければ大雑把でいいというわけではない。この艦を、ミリ単位で動かせるようになってこそ、一人前だぞ」
 腕組みしたまま土佐の様子を観察しながらホレーショ・ネルソンが答えた。何かあれば自艦の進入にフィードバックするために観察を怠らない。
 やがて、長く連なった土佐がゲート内にすべて姿を消した。
「では、行くとしようか、艦長」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが、ホレーショ・ネルソンをうながす。
「機関、出力上げ! テメレーア、微速前進。これより、ゲートに突入し、ヴィムクティ回廊をニルヴァーナへとむかう!」
 ホレーショ・ネルソンが、高らかに命令した。
 
    ★    ★    ★
 
「さてと、無事回廊に入ったみたいだから、修理再開ね」
 船体が落ち着いたのを見計らって、イーリャ・アカーシがイコンデッキで作業を再開した。
「でも、少しゆれない?」
 手元が狂うのは嫌だと、ジヴァ・アカーシが言った。
「なんでも、今はこのイコンデッキをワイヤーで引っぱっているだけだとか。不安定なんじゃない?」
「切れたりしないでしょうねえ」
 ちょっと心配そうに、ジヴァ・アカーシがイーリャ・アカーシに言った。
「ワイヤーと言っても、艦船用のはもの凄く太いから」
 メートル単位のナノファイバー製ワイヤーが数本使われているのだから、そうそうは切れないだろう。
「にしても、ゆれるというのは、何かの流れがあるのかな」
「ええと……。回廊の中は、薄い大気成分があるみたいよ。多分、何度もゲートを開いているうちに、双方のゲートからある程度の大気が流れ込んだのではないかという説があるみたい。窒息はしないみたいだけれど、あまり外に出たいとも思わないわね」
 端末から情報を検索しながら、イーリャ・アカーシが答えた。
 本来の回廊は宇宙空間のように真空であったと考えられているが、飛空艇の出入りと共に大気が流れ込んだとされている。現在は0.5気圧ほどにはなっているようだが、全体に渡っての調査が行われたわけではないので詳細は不明だ。気圧が均一であるとは限らない。説としては、現在の回廊の再使用以前に、過去の使用時にすでに大気が流れ込んだのではないかというものもある。
 
    ★    ★    ★
 
 数時間に渡る航海の後に、やがて前方に光る点が見えてきた。
 恒星にも見える光は、トンネルとしては出口から射す光ということにもなるのだろうか。それをつつみ込むようにしてゲートの巨大な回転するリングが見える。
「ゲートからの信号を確認。外に出られるわよ」
 先頭を進んでいた伊勢のブリッジで、コルセア・レキシントンが確認する。
「ようし、外に出るであります」
 葛城吹雪の命令で、伊勢が回廊内にあるニルヴァーナ側ゲートの光の中へとゆっくりと進入していった。
 対して、こちらは再廻の大地にあるニルヴァーナゲートである。
 今、ゲートリング内の漆黒の空間から、伊勢の艦首がゆっくりと姿を現し始めた。境界面が、奇妙な光沢を放ちながら複雑に波打つ。
 やがて、伊勢が完全にゲートを抜けた。
「艦内チェックであります」
「外壁損傷なし。エンジン出力良好。センサー、異常なし。その他諸々、オールグリーン」
 葛城吹雪に言われて、鋼鉄二十二号が素早く艦内チェックをすませた。
「では、本艦は、すぐに水上の町アイールにむかうであります。そこで、大幅改修を行うであります」
「えっ、ちょっと、それ聞いていないんですけれど」
 盛りあがる葛城吹雪に、コルセア・レキシントンがちょっと驚いて聞き返した。
「ふふふふふ……。計画はばっちりであります。結果は楽しみになのであります。さあ、出発であります!」
 改修には時間がかかるため、ぐずぐずしてはいられないと、葛城吹雪は全速力でアイールへとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
 伊勢がゲートを去った後から、後続艦が続々とニルヴァーナに現出していった。
 貨物艇が、ゲートに隣接する空港に整然と着陸していく。搭載されていたイコンが、パイロットたちの手によって次々に下ろされていった。
 土佐からイコンで外に出るなり、斎賀昌毅がフレスヴェルグを上空へと飛翔させた。
「本隊の到着と共に奇襲されでもしたら、洒落にならないからな」
 ゲートは、再廻の大地にポツンと存在している。周囲の見通しはいいので索敵には適しているが、遮蔽状態の敵艦は簡単にはレーダーの網にはかかってくれないだろうから、警戒しすぎるということはないだろう。