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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「敵を艦内に入れるな。一体残らず排除するぞ」
 フリングホルニ甲板に出たデュランドール・ロンバスが、艦内にいた白兵戦のできる者たちを率いて言った。
 すでに、独自に迎撃に出た者たちもいて、甲板のあちこちではイコン戦の間で白兵戦が行われている。
 うっかりすると味方のイコンとタンガロア・クローンとの戦いに巻き込まれてしまう実に危ない戦場ではあったが、コントラクターたちは恐れもせずに戦いを繰り広げていった。
 味方イコンもそのへんは心得ていて、白兵戦が始まった所にタンガロア・クローンを近づけないようにたちふるまっている。
 ただし、敵機晶姫の発生源が、タンガロア・クローンの機体のあちこちから突き出ている結晶柱の大きな物が脱落して中から出てくるというもののため、大小の戦いが接近してしまうのはもとからしょうがなかった。
「まったく、マトリョーシカか。ミサイルの中から敵イコン、角の中から随伴兵。あの敵機晶姫たちも結晶体に被われているが、あそこからまた小さな敵が現れるんじゃないだろうなあ」
 歩兵部隊の中核をなすパワードスーツ隊として、フィアーカー・バルに身をつつんで戦うテノーリオ・メイベアがぼやいた。
『皆無とは言えないので注意は必要ですが、それであれば遺跡での戦いですでに私たちのイコンが寄生されているはずです。敵イレイザー・スポーンがどの程度の寄生能力を持っているか分かりませんが、ユニーク化していることからヴィマーナとタンガロアとあのタイプの機晶姫のみに寄生対象を限定した物と思われますね』
 前線指揮車として使用しているフィアーカーから、魯粛子敬が言った。
「とにかく、フリングホルニを傷つけずに、敵を排除するぞ」
「了解よ。私は、トマスほど甘くはないから……」
 容赦なくギロチンアームで敵機晶姫を文字通り粉微塵に粉砕しながらミカエラ・ウォーレンシュタットが答えた。
 さすがに、ここは白兵戦に特化したパワードスーツの独壇場とも言えた。フィアーカー・バルの白兵戦武装を縦横に使って、敵機晶姫だけを粉砕していく。
 甲板の上には、破壊された機晶姫のパーツと共に、イレイザー・スポーンの残骸とも言える銀砂があちこちにうずたかく積みあがっていた。
「悪い子にはお仕置きだよ!」
 魔法少女の姿となった秋月葵が、手にした魔砲ステッキの柄のスリットに稲妻の札をスッとスライドさせた。
『トルニトス・テューフォーン。プライパラーティオ』
「リベロ!」
 秋月葵が魔砲ステッキを高く突きあげると、頭上に現れた雷球から、周囲の敵機晶姫にむかって雷光が激しく迸った。
「ほら、イコンなんかなくったって、すっごく役にたっているんだから」
 誰にむかってなのか、秋月葵が独りごつ。
「次は、これだよ」
 そう言うと、続いて雪の結晶と魔方陣の描かれたカードをステッキの龍の顎の形をしたスリットに滑らせた。カードの魔方陣が読みとられ、秋月葵としての魔法の準備態勢が整う。この辺のプロセスは、必要ないと言えば必要はないのだが、一応魔法少女としてのたしなみである。
『グラキエース・テューフォーン。プライパラーティオ』
「リベロ!」
 今度は、ブリザードが敵機晶姫たちを凍らせた。
 
    ★    ★    ★
 
「少しはフィスにも活躍してもらわないと困るんだから」
「分かってるわよ」
 リカイン・フェルマータに言われて、シルフィスティ・ロスヴァイセがレーザーブレードで敵機晶姫を突き倒しながら言った。フローラルスカートを大胆に翻して、次の獲物を探す。
「どけー!」
 オペレータとして閉じこもっていた鬱憤を晴らすかのように、リカイン・フェルマータが咆哮した。オペレータとしての仕事は、シーサイド・ムーンに任せてきたから心配はないだろう。レゾナント・ハイを高めつつ、七神官の盾で敵にチャージして弾き飛ばしていく。イコンリフトには、絶対に近づけない構えだ。
 そこへ、E.L.A.E.N.A.I.の間隙を突いて、タンガロア・クローンが飛び込んできた。
「抜かれます!」
 イグナ・スプリントが叫ぶ。
「させてはいけません!」
 非不未予異無亡病近遠がE.L.A.E.N.A.I.を反転させた。そのモーションのままに、流れるようにユーリカ・アスゲージがダブルビームサーベルを抜き放つ。光の剣が、タンガロア・クローンの両腕を切り落とした。
「下がってください」
 アルティア・シールアムが、そばにいた酒杜 陽一(さかもり・よういち)たちにむかって叫んだ。
 落下してくする結晶を盾で防ぎつつ、リカイン・フェルマータが後退する。
「こんなものぉ!」
 セイル・ウィルテンバーグが、金剛嘴烏・殺戮乃宴で破片を打ち飛ばした。だが、大小の破片をすべて打ち返せるはずもない。
「セイルちゃん、危ない!」
 西表アリカが、絆の力で素早くセイル・ウィルテンバーグをかかえて避難する。
「吹っ飛べ!」
 深紅のマフラーを素早く振った酒杜陽一が、落ちてくる途中のタンガロア・クローンの右腕を絡め取った。そのままそれを掴むと、棍棒のように大きく振り回して両腕のなくなったタンガロア・クローンを殴り倒す。
 倒れ込んできたタンガロア・クローンを清泉北都のアシュラムが甲板の外に押しやった。
「大丈夫、セイルちゃん、ちょっと怪我した?」
 西表アリカが心配して声をかけたが、セイル・ウィルテンバーグの方はこの程度はへっちゃらのようだ。
「ペンタ、見てやってくれ」
 ペンギンアヴァターラ・ヘルムのペンタに言いつけると、酒杜陽一がさらに別のイコンを殴りに走りだした。
 言いつけ通りに、ペチペチとやってきたペンタが、セイル・ウィルテンバーグの傷を治療する。ペット用の治療キットだが、かすり傷程度なら問題はないだろう。
「くそう、やっと鋼鉄の白狼騎士団の出番だと思ったら、なんで小型飛空艇が動かないんだ!?」
 敵機晶姫やイコンを蹴散らして、一気に敵母艦へ乗り込もうとしていたセフィー・グローリィアたちだったが、肝心の小型飛空艇のフローターが謎の出力不足を起こしてまったく飛び立たなかった。
「今は、目の前の敵を掃討する方が先です」
 エリザベータ・ブリュメールが高周波ブレードを抜き放った。カタパルト内へ下りてこようとする機晶姫のランスを叩き折って、返す刀で下から斬り上げる。
「雇い主に死なれたら、こっちが困るからな」
 オルフィナ・ランディが、飛ばない小型飛空艇をバーストダッシュで加速して敵にぶつけ、敵をいったん下がらせてセフィー・グローリィアの射界を作りだす。それを利用して、セフィー・グローリィアが機関銃で敵機晶姫を薙ぎ払った。
 激しい抵抗を避けるように、敵機晶姫が回り込もうとする。とたん、何かに捕らわれて動きが止まった。
「イス! 今じゃ!」
 ルーンを唱えた鵜飼 衛(うかい・まもる)が、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)に言った。
 停止のルーンを踏んだ敵機晶姫の足許に魔方陣が浮かびあがり、I(イス)のルーンが浮かびあがる。
「ありがたくいただくけんのお」
 機甲魔剣アロンダイトを豪快に振って、メイスン・ドットハックが敵を薙ぎ払った。そこへ、別の機晶姫が、回り込んで攻撃しようとしてくる。その足が、再び鵜飼衛のインビジブルトラップに引っ掛かって止まった。
「正面からメイスン様に挑まぬような敵は、わたくしが排除いたしますわ」
 魔銃ケルベロスとパンドラガンから、タルタロスとラグナロクの魔弾を交互に撃ち放ちながら、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が、メイスン・ドットハックの援護をした。
 敵機晶姫は、メイスン・ドットハックとルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』の連係攻撃を避けるように動くと、鵜飼衛のインビジブルトラップに引っ掛かる。巧みに誘導されているのだが、分かったからといって簡単に罠を避けられるわけでもない。
 正面突破以外を試みる敵機晶姫は、次々に鵜飼衛たちに狩られていった。
 せっかくフリングホルニの甲板にまで進入したものの、攻めあぐねているうちに敵イコンと機晶姫は排除されつつあった。後続艦隊が壊滅した今、先ほどのようなチャンスが簡単に生まれるとは限らない。
 押し戻された敵機晶姫たちが、甲板中央に集まって態勢を立てなおそうとした。その上にドスンと、何か巨大な黄色い物が落ちてきた。ジャイアントピヨだ。
「あれ? ピヨのおやつ補充しに戻ったんだけど、何か踏んだ?」
 あまり状況を理解せずに、アキラ・セイルーンが言った。