葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

フロンティア ヴュー 3/3

リアクション公開中!

フロンティア ヴュー 3/3

リアクション

 
 
 
「――そう。護るべき国を失ってしまったの」

                                         「そう。記憶が無いのね」

「ならば、わたしを護り、わたしの為に生き、わたしの剣となりなさい」

                                         「これからは、わたしの為に在り、わたしの運命となりなさい」

「貴方はわたしの剣。わたしの盾。そしてわたしの勝利。
 わたしは貴方に、わたしの国を与えましょう。わたしの国を護りなさい」



――それが、叶えられることかどうかなど、問題ではなかったのだ

此処が最早エリュシオンでは無いことなど、伝えるつもりもなかった
彼女は変わらずかの国を護る存在であり、変わらずかの国の皇帝であった

彼女はその言葉に、一片の偽りも乗せなかった


ただ、それだけで






第17章 Souvenir


 ルーナサズは、産出した龍鉱石をそのまま他地方へ輸出しているので、鍛冶工業が特に盛んなわけでもない。
 だが、それでも龍鉱石を扱う街であるので、職人通りというものがあった。
 警邏という名の観光がてら、今日も町を歩きながら、大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)はきょろきょろと店を捜して、細工屋の看板を見つけた。

「砂時計?」
「龍鉱石を砕いた粉を砂にして、作れませんか」
「ふむ」
 小さな店を営む細工師は、丈二の注文に顎を撫でる。
「……使い方が罰当たりだわ」
 パートナーのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が口を尖らせた。
「いや、やってみよう。難しそうだが」
 難しそうだからこそ、細工師は奮起したようだ。
「龍鉱石を粉にするなんて発想はなかったな。
 で、時間はどれくらいにするんだ?
 早めに欲しいなら、長い時間にはできないぞ。龍鉱石を砕くのは、えらく手間がかかるからな」
「では、三分でお願いするのであります」
 ヒルダはちらりと丈二を見る。
 ……カップヌードル用? とは訊ねなかった。

 
 後日。
 都築少佐へのお土産に、と、銀色に輝く砂の流れ落ちる、美しい細工の施された砂時計を、二人はテオフィロスに手渡した。
 けれどヒルダは、ただこれを都築に渡して終わりにして欲しいと思ってはいない。
 土産などは、ただの口実なのだ。
「テオフィロスは、今回のこと、どんな風に少佐と話すの?」
 事務的なこと以外で、二人はどんなことを話すのだろうか。それがヒルダは気になる。
「“報告”みたいな感じじゃなくて……
 お互いに何をやっていて危なかったのか危なくなかったのか、どんなことがあったのか、そういうことを、語り合うべきだって、思うの」
「……」
 テオフィロスは、手の中の砂時計を見つめる。
「……そう、だな。ヒルダの言う通りかもしれぬ」
 積極的に雑談をしあうような関係ではなかった。
 険悪ということもなく、間がもたないようなこともなかったので、特にそれで問題があると思ったことはなかったが、確かに、このままでは何も進まないのかもしれない。
 ヒルダが自分達に求めているものが何なのか、それはテオフィロスにも解る。
 護り護られるパートナー同士に必要なものは、義務ではなく、信頼だと。



「テオフィロス殿」
 近衛騎士が、テオフィロス達の姿を見つけて走り寄った。
「恐れ入ります。イルヴリーヒ様の元へお出でいただけますか」
「了解した」
 テオフィロスは、すぐさまに身を翻して歩き出す。
 丈二とヒルダは顔を見合わせた。