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フロンティア ヴュー 3/3

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第20章 Frontier view
 
 
 空の遺跡にぱらみいの存在があったことは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)を多少なりと戸惑わせていた。
「世界樹の剣を持って行くことに、少し心が痛むわ。
 それがあれば確かに助かるけど、剣を借りたらぱらみいは此処に一人になってしまうのかしら。
 寂しくないのかしら。
 起きてると寂しい、だから寝ているの?」
「いや、ぱらみいはパラミタだ。
 活動に必要なエネルギーが足りない、つまりパラミタが疲弊している証に思えるが」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はぱらみいの所に行くと、
「診察させて欲しい」
と言った。
「診察? 何するの?」
 ダリルは、ことんと首を傾げたぱらみいを手招く。

「こちらに来て服を脱いで」

 ざわっ! と周囲にどよめきが走った。
「ちょ! 皆何誤解してるかな!」
 反応の凄さに、ルカルカが慌てる。
「……いや、会ったばっかの幼女の服をいきなり脱がせようとしたら、とりあえず警戒するだろ、普通」
 匿名 某(とくな・なにがし)が、若干引き気味の表情で、周囲の言葉を代表した。
「……俺は医者だ。健康診断をしようとしただけだ。
 過眠の原因を調べようと」
 ダリルが苦りきった表情で言う。
「健康診断? わたしどこも悪くないよ?」
 不思議そうに言うぱらみいに、ちくちくと周囲から不愉快かつ不名誉な視線を感じつつ、ダリルは、まずは問診をすることにした。
「眠いのは、いつからだ?
 きっかけや、何処か身体に異変を感じるなどは?」
 ぱちぱち、と、ぱらみいは瞬く。
「うーん、ずっと前……ずーっと前……よくわかんない」
 考えた末、「最初から」とぱらみいは答えた。
「最初から?」
 うん、と頷くぱらみいの表情がふにゃ、と和らぐ。
「わたし大きくなったら、布団と結婚する〜」
「………………」
「………………」
 ダリルとルカルカは、無言で顔を見合わせる。
「いや、地祇だろ? 大きくならないと思うけど」
 つーか今が何歳だよ。
 某のパートナー、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が律儀に突っ込みを入れ、ダリルは深く溜息を吐いた。
「成程、健康体のようだ」



 仲間達が、遺跡内を、聖剣を捜して回っている。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、地面に座って大きく盛り上がった世界樹の根に寄りかかり、うとうととしているぱらみいの頭をこつこつ叩いた。
「なあなあ、この世界樹の名前って何ていうの?」
「世界樹の名前?」
「イルミンスールとかユグドラシルとか、地上の世界樹は皆名前があるんだし、この世界樹にもあるだろ? マナとか」
 ううん、とぱらみいは首を横に振る。
「このコが世界樹だった頃はね、このコしかいなかったの。
 だから、世界樹、って言ったら、このコのことだったんだよ」
 だから、名前は必要なかったのだ。ぱらみいは世界樹を見上げた。
「……うん、名前、あったらよかったね。マナとか」
 うん、とぱらみいは頷く。
「いい名前ね。マナちゃん」
 愛おしそうに、ぱらみいは世界樹に呼びかける。
「え、ホントにその名前にすんの?」
「きっと、マナちゃんも喜ぶよ」
 うん、と頷いたぱらみいに、アキラはぼりぼり頭をかいて、まあいいや、と呟いた。
「あともうひとつ。俺の宝物を見せてやる」
「宝物?」
「ガラクタから秘宝まで、俺は山程宝物を持ってる。そのひとつ」
 胸を張ってそう言ったアキラは、取り出した『アトラスの灯』を、ほれ、とぱらみいの手に載せた。
「アトラスも、この世界樹みたいに、うちらにパラミタのことを託してくれたんだぜ。
 これはその証。
 だからアトラスは、完全に死んだわけじゃないんだって俺は思う」
 うん、と、それを見つめて、ぱらみいは頷く。
「さて、次だ!」
「次?」
「これをウラノスドラゴンにも見せて来る! できれば高いところで!
 お宝も、高いところにあるって相場が決まってるんだ!」
 目指すは世界樹のてっぺんである。
「登るの? 一ヶ月くらいかかるよ?」
「誰がまともに登るかバカモン。飛んで行くに決まってるだろ」
 ぱらみいも来るか、と誘うと、寝てる〜、と言う。
 アキラはパートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)とミャンルー部隊と共に、ウラノスと聖剣を求めて世界樹のてっぺんを目指した。

「やっほー!」
 頂上に辿り着き、とりあえず皆で叫んでから、アキラは『アトラスの灯』を取り出し、空に向かってブンブン振って見せる。
「見えてるかー。
 アトラスはなー、死んじゃったわけじゃないと思うー」
 ふわ、と何か温かい気配を感じた気がした。
 キョロキョロと見渡してみるが、何も居ない。
 まあいいか、とアキラはてっぺんから周りの風景を眺める。
「……マナ。お前はここからずっとパラミタを見守ってくれてたんだなぁ」
 世界樹に、そう語りかける。
 此処には聖剣は無いようだったが、気にしない。
 アキラはミャンルー達と、世界樹の上でのんびり昼寝する。
 ああ、やっぱりぱらみいも誘えばよかった……と、気持ちよくまどろみながら思った。



「しょうがないな。さっさと聖剣を見つけて、とっとと用事を済ませて帰るんだから」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、聖剣を捜すために此処に来たのではなく、トゥレンを捜して此処まで来ていた。
 そのトゥレンが聖剣を見つけるまでは帰らない、と言うのだから、美羽も聖剣探しに協力することにする。
 一刻も早く用事を済ませて、トゥレンをイルダーナの所に連れ帰る。
 それが美羽とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がイルダーナ達とした約束だ。

 美羽は、宮殿用飛行翼で上空から遺跡内部を見渡す。
 トレジャーセンスを使ってみた。
「……」
 じっとそれを見つめて、美羽は、まさか、と呟いた。
 トレジャーセンスの反応のする先には、世界樹が聳え立っている。



 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は欲求不満顔で、リカインの後ろを歩いている。
 無人の遺跡で、警戒のしようが無いじゃないとぶつぶつ文句を言っているが、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はとりあえず聞こえないフリをした。
 何かあって欲しいと願っているわけでもなく単純に暴れたいだけなのだろうが、君子危うきに近寄らず、だ。
 勿論危うきはシルフィスティのことである。
「普通にパラミタの上空にあるのなら、今迄見つからなかったのって不思議だわ。
 どういう場所なのかしら、此処は……」
 シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)を頭に乗せて、リカインは、見かけたぱらみいが抱き枕のように毛玉を抱えているのを見て苦笑する。
 あれは、自分のパートナー、ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)だ。いつの間に。
「君、一体いつから寝ているの?」
 横からつつくと、ころん、と転がって、まだ起きない。
「こら」
「むー。何?」
「寝すぎよ。パラミタは君でしょ?
 ここしばらくのパラミタ事情、ちゃんと理解してる?」
 言われて、ぱらみいはリカインを見上げた。
「おねえさん、誰?」
「地球人よ。契約者なの」
 色々なことが起きている。シャンバラでも、エリュシオンでも、カナンでも、その他の国々、そしてニルヴァーナでも。
 それらを全て説明するには、とてもこの時間、この場では足りない。
 契約者の台頭、シャンバラの女王復活やその交代、闇龍などの話を、ワールドばにっくのキャラクター達による寸劇で、かいつまんで説明してから、リカインは、面白そうにその寸劇を眺めているぱらみいをじっと見た。
「聖剣だけじゃなくて、君も、今のパラミタに来てみない?」
「え?」
「やっぱり、伝え聞くのと実際に見るのとでは、随分違うと思うわ」
 アトラスの死を、その後釜のドージェをあっさり「知った」ぱらみいには、余計なお世話かもしれない。
 けれど、とリカインは思う。
「決して忘れない、もういない人がいるわ。
 ……ぱらみい君は? 此処の世界樹は?」
 きっとまだ誰かが憶えていて、そしてそんな彼等にもまた、憶えている誰かがいるのではないかと、そう思うから。
「天地人」
 ぱらみいの抱える毛玉が、不意に呟く。
「天にウラヌス地にアトラス、人には世界樹。
 今は地にドージェただひとつ、世界を負うはまことに過酷。
 天の助けを、人の想いを、未来のために」
 ぱらみいは、首を傾げてリカインを見た。
「何て言ったの?」
「気にしないで」
 この毛玉の言うことは、詩的すぎてちょっと誰にも解らないの。
 困ったように溜息を吐いたリカインに、ぱらみいはくすくすと笑う。
 笑って、そして、何かを考え込む様子を見せた。