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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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――監獄島、隔離区域。

「……撒いたか?」
「どうやらそのようだな」
「少なくとも見える範囲には誰もいませんな」
 辺りを警戒していたシグルズとアルツールの言葉に、大きく垂が「あー、どうなるかと思ったぜ……」と安堵の息を吐く。
 垂、ラルク、そしてアルツール達は今、とある監房に隠れていた。

     * * *

――垂とナオシがタタリに襲われた直後まで話は遡る。
『余を忘れては困るな、俗物共』
 その言葉の直後、ナオシは吹き飛ばされミサキガラスの足元に転がった。背後から一撃を受けた様で、背中に大きく血が滲んでいた。
 転がったナオシの首を吊るす様に、ミサキガラスが持ち上げる。
『ふむ、もう少し愉しめると思ったのだがな』
 垂の横を通り抜ける様にして、まるでミイラの様に全身を呪符で覆った男――タタリがミサキガラスとナオシに歩み寄る。
『まあ良い』
 そう言ってタタリは大きく口を開く。鋸の様な、鮫の様な歯を覗かせると、そのままぐったりと吊るされたナオシに食らいつこうとする。
「クソッタレぇッ!」
 食らいつかれる瞬間、ナオシは身を捩り避けようとする。が、避けきれず脇腹の一部を抉られる。
『おお、足掻くか。足掻けるのか。こいつはいい。もっと余を楽しませろ』
 痛みに声にならない呻き声を上げるナオシと対照的に、まるで子供の様に楽しそうにタタリが言う。
 垂は助けようと【我は射つ光の閃刃】を放とうとするが、その手を止める。光の刃を放つこの技により、ナオシまでも攻撃しかねない。
「……ならばこいつはどうだ!」
 そこで垂は【天使のレクイエム】を奏でる。だが邪魔だと言わんばかりの視線をタタリが垂に向けるだけであった。どうやら効果が無いようである。
『五月蝿いぞ俗物。余の邪魔をするな』
 そう言うとタタリが再度大きく口を開き、ナオシの身体に噛みつく。タタリのサメの様な鋭い歯が食い込んでいく度、ナオシの口から苦悶の声が漏れた。

「だったらコイツを食らえ!」

 その時、眩い光を浴びせられた。【神の目】の光であった。
 眩い光に、ミサキガラスもタタリもナオシを手放し怯む様な動きを見せる。
「……ん?」
 垂の目に、光を浴びたミサキガラスとタタリの姿が見えた。その姿は――
「おい何ボサッとしてんだ!」
 怒鳴り声で垂がハッとなり目を向ける。そこにはナオシに駆け寄るラルクの姿があった。先程の【神の目】はラルクが放った物だろう。
「しっかりしろ! 立てるか!?」
 ラルクの言葉にナオシは反応せず、ただぐったりとしているだけである。軽く舌打ちし、ラルクが肩に担ぎあげる。だが、ミサキガラスもタタリも体勢を立て直していた。

「見ましたか、お二方。どうやら奴ら、【神の目】は効くようですな」
「ああ、光に弱いっていうのは間違いではないようだ」

 その状況を見ていたアルツールの言葉に、シグルズが頷く。
「で、だ。この状況、見捨てて逃げるわけにもいくまい」
 仲達の言葉にシグルズは頷くと、武器代わりに持ったベッドの脚を構える。
「【神の目】は効いた。さて、これはどうだ!?」
 シグルズが放ったのは、【ライトブリンガー】であった。その光の一撃が、タタリに当たる。その身が揺らぎ、ゆっくりと振り返る。
『……余の邪魔をするか』
 憎悪に満ちた邪悪な視線でタタリがシグルズを睨み付ける。
「ええ、邪魔させていただきます」
 シグルズの後ろから、アルツールが【神の目】を放つ。その光から庇うようにしてタタリは手を顔の前にかざす。そしてミサキガラスも動きを止めた。
「貴公ら、今だぞ!」
 仲達の言葉を合図に、ラルクがナオシを抱えて垂と共にアルツール達の元へ駆け寄る。
『俗物如きが……』
 地の底から響いてきそうな、憎悪に満ちた声がタタリの口から発せられる。
「何かスゲー怒ってるけど、やばくね?」
 垂の言葉にアルツールが「効いてはいるみたいなのだがなぁ」と呟く。
「貴公ら、ここの地図みたいなの手に入れてないか?」
 仲達が垂とラルクに問いかける。垂は首を横に振るが、ラルクは「自作だけどよ」とマッピングしたメモを仲達に手渡す。
「……ふむ、ならここを目指す」
 仲達がラルクのメモの図を読むと、道筋を指でなぞって見せる。エレベーターにも近い監房への道だ。
「俺はこいつを担いでいくからな。援護は任せた」
 ラルクがそう言うと、垂、アルツール、シグルズが頷く。そしてそれが合図となり、ラルク達は走り出した。
 だがタタリやミサキガラスも黙って逃がす訳がない。殺意を隠そうともせず追いかけてくる。
「今度は遠慮の必要ねぇな!」
 追いかけてきたタタリとミサキガラスに【我は射つ光の閃刃】を垂が放つ。光の刃が追っ手に突き刺さり、動きを止める。
 それでも尚体勢を立て直すと追い続け、タタリとミサキガラスが距離を詰めてくる。手を伸ばせば届きそうな距離で、シグルズが振り返る。
「これでも食らうがいい!」
 放ったのは【則天去私】だった。吹き飛ばされたタタリとミサキガラスは大きく離される。
 至近距離で食らい、中々体勢を立て直す事が出来ない。
『――ああ、逃げられた。逃げられた』
 立ち上がり、姿が見えなくなった事に気付いたタタリが、愉しそうに笑みを浮かべた。

     * * *

「よっこいしょっと……おい、大丈夫か?」
 ラルクが担いでいたナオシを下ろす。気を失っているのか、返事がない。
「まだ大丈夫だろうが傷が深いな……あんまり時間がかかるとヤバいぞ」
 ナオシの傷を見てラルクが呟く。鋭利で細かい歯でついた傷からは、尚血が流れている。
「……そういや、あのタタリって奴、一体何者なんだ?」
 垂が思い返す様に呟く。
「何者、とは?」
 その言葉にアルツールが反応した。
「いやさ、さっき逃げる時【神の目】の光でアイツ照らされたんだけどよ、その時のアイツの影が、なんつーかさ、蛇……っていうよりありゃ龍だな。そうだ、龍のような物に見えた。後あのミサキガラスってのも変な影だったな。あれは人の形してたけど、男だか女だかよく解らない影だった」
「ふむ……そういえば言われてみれば……」
 アルツールが顎に手を当て、思い当たった様に唸る。
 その時、通信機が震える。ナオシの持っている通信機であった。
 一瞬ためらいがあったが、ラルクが通信機を手に取り、二言三言言葉を交わす。そして終えると、皆に向き直った。
「あっちの方から連絡だ。エレベーターが動くってよ」