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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【両国の絆】第一話「誘拐」

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【舞台裏――断片:1――】


 
 それは、事件発生から幾らか前に遡る。

 先日の事件以後、身体に後遺症等がないかの検査の為、という名目でイルミンスールを訪れていたクローディス・ルレンシア(くろーでぃす・るれんしあ)の元へ、小さな少女を連れたシャンバラ教導団大尉氏無 春臣が訪ねて来たのだ。
「その子か?」
「うん」
 氏無が頷く中、少女がぴたりとクローディスの足下にくっついてぎゅっと袖口を掴んだ。色素の無い真っ白な髪に、色味があるかないかの薄いブルーの目をした、小柄で細身の少女だ。肌の白さも手足の細さもそうだが、造作が人間らしくない、人形が動き出したかのような不安を与える容姿のその少女を複雑に眺め、氏無は硬い掌で僅かに頭を撫でた。そのまま言葉を飲み込んでしまう氏無の代わりに、クローディスがため息と共に苦笑して、少女の肩にそっと触れる。
「この子を連れて行けばいいんだろう?」
 その言葉に頷きながら「ごめんよ」と氏無は小さく言った。
「既に後手に回ってる以上、相手に動いて貰うしか、手の内を見る機会がない。その為に……キミには危険な橋を渡ってもらうことになる」
「判ってる。こればっかりは、代わってもらう誰かもいないしな」
 頷いたクローディスは苦笑を深めた。氏無が言う危険のひとつは、彼女のパートナーであり守護者であるツライッツ・ディクス(つらいっつ・でぃくす)の不在のことだ。彼の不在は別の理由からではあるが、目的のためにいないでいてくれたほうが助かる、とクローディスにだけは告げてある。勿論その代わりに氏無のパートナーである壱姫がフォローにつくことにはなっているし、ディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)もいるのだ。それでも尚、苦い顔の氏無の頭を、クローディスは軽く小突いた。
 目を瞬かせる氏無に、クローディスは「馬鹿だな」と笑った。
「何を自分の問題だ、みたいな顔をしてる? ……これは、私たち全員の問題だ」
 その言葉に一瞬、虚をつかれたように目を瞬かせて、氏無は表情を緩めると「そうか、そうだね、そうだった」と頷いて、その視線を遠く、彼方に向けるようにして細めた。

「未来ってやつはいつでも、若い子の作るもんだ……ボクのできることはせいぜい、後始末だけだったね」