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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

「合コンなんかで友達をつくろうなんて、オレには信じられないぜ。どいつもこいつも、何かたくらんでいそうなやつばかりじゃないか」
「まあまあ」
 ざし、と箸で刺したエビフライを口に放り込みつつ、文句を垂れる雷堂 光司(らいどう・こうじ)を、麻野 樹(まの・いつき)が優しげな笑顔で、やんわりとなだめていた。
 二人とも畳に腰を下ろしていてもわかるほど高い身長と、がっちりとした体つきの持ち主だ。
 二人がしゃべっているのは、ヒカリたちより出口に近いバイキング・スペースだ。
 その周囲に集まった10人ほどの学生たちは、現時点で、ほかのどの卓よりも和気藹々と打ち解けている。
「だいたい、んなアドレスつきのPR用紙を作ってくるとこからしてわっかんねえよ」
 名刺大の四角い紙を樹に見せつつ、光司はちょっと声を落として続ける。
「そんなに恋人が欲しいのか? その、俺のほかに?」
 ふっ、と樹はまた優しげに微笑んで、それには答えずに、足元のかばんをあさった。
 大きな手で、ずいぶん小さく見える名刺の束を取り出すと、それを光司に差し出す。
「じゃあ、はい」
「んだよ? 俺はお前のアドレスなんかとっくに知って……うん?」
 受け取った名刺をじっと確認する光司。そこには光司の名前と、光司のアドレスが記載されていた。
「光司はそういうの作ってくるタイプじゃないからねえ」
「え……これ、俺のために?」
 樹はニコニコしながら頷いた。
「今日は一緒に楽しもう。パラミタで、他校の生徒と友達になる機会なんてそうないよ?」
「……ん、まあ、お前がそう言うなら。……文句言うのは、もうやめるわ」
 名刺の束をぎゅっと握ったまま、不意と顔をそらして、光司はまんざらでもなさそうに言った。
「んっ」
 小さくうなりながら、日沙木 万里也(ひさき・まりや)は身を乗り出して、机の奥のほうに置かれたから揚げに箸を伸ばしていた。けれどカチカチ揺れる端の先は、茶色のから揚げにかすりはするけれども、なかなかつかめない。
「あ、これ?」
 すっと、横から伸びてきた箸が、いとも簡単にから揚げを紙皿に移した。差し出された樹の大きな手から、万里也は紙皿を受け取る。
「あ、ありがとです! いいなあ、樹くん。背が高いと手も長いんですね」
 華奢な手で紙皿を持った、小柄な万里也は、女の子と見まがうような線の細い顔を、柔らかに微笑ませた。
「小さいほうがかわいくていいじゃないか。モテそうでうらやましいねぇ」
「まっさかあ、ぜんぜんですよ。この見た目のせいでこっぴどくフられたことありますもん。樹くんこそ、パラミタに来る前はモテモテだったんじゃないですか?」
「いやあ、俺は、もうぜんぜん」
 樹の横で、一杯に伸ばされた箸がまたかちかち、と震えていた。
 はっと気づいた樹が、その箸が求めているらしき赤身の握りを皿にとって、机の向かいに座っている広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)に差し出してやる。
 ファイリアは、無邪気な顔でぱっと微笑んで、紙皿を受け取った。
「ありがと! 樹くん!」
「あ、ねえねえ広瀬さん。広瀬さんは、パラミタに来る前は何してたんですか?」
 万里也は、机から身を乗り出してそう聞いて、
「なぜそんなことを聞くの? あなた」
 ファイリアの隣にいたウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)の、鋭い視線にすごまれた。
「人の過去について無遠慮に聞くのは、賢明とはいえないと思うわ」
「あー、もうウィノナちゃん、そうツンケンしないの! えと、ごめんね万里也ちゃん」
 突如邪険に扱われ、きょとんとしていた万里也に、ファイリアは微笑んで謝った。
「パラミタに来る前だけど、ファイはあんまりいいことはなかったですよ。学校にも行ったことなかったし、ほんとのお父さんやお母さんと暮らしたこともないし」
「あ……そっか。その、無遠慮に聞いて、ごめんなさい」
 ふるふる、とセミロングの銀髪を揺らしながら、ファイリアは首を横に振った。
「だからね、ファイは今とても楽しいですよ。こんなにたくさんの、おんなじくらいの歳の人と、たくさんお話できて。ねえ、万里也ちゃんはもう、ファイのお友達ですか?」
「え。あ。そんな、もちろんです!」
 ぶんぶんぶん、と万里也が頷き、ファイリアが、花が咲くようにぱっと笑った。
「広瀬のスタンスはいいな。この合コンの本質だ」
 ファイリアの隣で、にみ てる(にみ・てる)が微笑んだ。
「縁は人と人とを結ぶだけじゃない、人をその場へ繋ぎ止める。たとえ過去がどうだろうと、人種や国籍がどうだろうと、人間でさえなかろうと、アドレス帳に友達の連絡先が載っている限り、自分は生きていてもいいんだ、と、そう思える。……なんて、ほとんど爺さんばあさんの受け売りだけどな」
 中学生のようにあどけない童顔に、大人びた表情を浮かべて、てるは言った。
「私も、てると出会って、はじめて「ああ、私はここにいていいんだ」って思えたの。私たちとの出会いも、ファイリアちゃんにとってそういう意味のあるものになったら、すごくうれしいって私は思うな」
 てるの隣に座ったグレーテル・アーノルド(ぐれーてる・あーのるど)が、出るところの出た妖艶な見た目に似合わぬ、あどけない声でてるの言葉を継いだ。
「え、へへ。ファイなんか照れるですよ。あのね、パラミタに来てから、ファイのケータイ、アドレスでいっぱいになったですよ。だから、えへへ、ファイはここにいてもいいのかなーって、そう思えたりするのです」
「アドレスなど一件もなくたって、ファイはここにいていいんです。私が保証します」
 つんとした口調で、ウィノナがきっぱりと言い切った。
「それを言うなら、この場にいる全員が、縁に呼ばれた連中だろ」
 言いつつ、フェリックス・ビジョルド(ふぇりっくす・びじょるど)は、照れくさげに、魚の煮物をほぐす手元に目を落とした。
「途方もない奇跡のような確率で、めぐり合ったパートナーと、契約を結んで、そうして、やってきた連中ばかりじゃないか、パラミタにいるのは。地球とパラミタ、それ自体が、なんかでっかい縁で結ばれた二つの世界なんだと、なんだ、俺はそう思うな」
 ほう、と感心した声を上げたのは、茶色い髪をパンキッシュに仕立てた永夷 零(ながい・ぜろ)だ。
「その考え方はいいな。武士道に通ずる」
 不良じみた外見からはおおよそ似合わないせりふを、零はまじめな声で言う。
「知らない人と出会う、知らないことを知る。それ自体が、自分の成長にもつながる。これもまた武士道の精神だ」
「おー、ブシドー! 零くん、武士なんですか? ファイ。はじめて武士の人見ました。なんかかっこいーですね」
「……いや、その」
「ゼロ、顔がにやけています」
 むに、と、ちいさな手で、ルナ・テュリン(るな・てゅりん)がゼロの頬をつねった。
「まさか。冗談だろ。俺は今日、あくまで武士として成長するためにここへ来て……」
「ゼロ」
 ミントグリーンのくりくりした瞳が、ひた、とゼロを見据える。
「ボクとの出会いは、ゼロの「ブシドー」にとって、有意義な縁でしたか?」
 うっ、と一瞬押し黙り、それからふい、と、仏頂面で目をそらして、零は答える。
「ンなもん、当たり前だ」
「そうですか」
 静かな声で、かみ締めるように、ルナは三度、そうですかと繰り返した。
「そう言われると安心するものですね。……ボクにとって、出会いは必ずしも幸せなものではございませんから」
「……前のマスターのことは忘れろ。今のパートナーは俺なんだからな」
 ぽん、とゼロが頭に手を置くと、ルナはふっと目を細めて、はい、と頷いた。
「む。いいにおいがする」
 ぼさぼさの茶色い髪、寝起きのようなのんびりした目で、千葉 ふふふよ(ちば・ふふふよ)が唐突にそう言った。そして唐突に、隣にいたウィノナのほうへふんふんと鼻を向ける。
「な、なんですか!?」
 びくっと飛び上がり、あわてたように、ウィノナは後ずさった。
「さっきからみてたけどさー、ウィノナさん。そんなにそわそわもじもじしているくらいだったら、僕からみんなに言ってあげようかー?」
「な、何の話です!? ぜんぜんわかりません!」
「あ、ウィノナちゃん! それ!」
 ファイリアが唐突に叫んで、ウィノナの足元に隠されていた大きなビニール袋を持ち上げた。
「ウィノナちゃんの手作りクッキー! 焼いてきてくれたんだ!」
 はっとウィノナが振り返るもときすでに遅し、ファイリアはみんなの前で、色とりどりのクッキーでパンパンになったビニール袋を掲げていた。
「ち、違いますファイ! いいからしまってください! こんなおいしい料理ばかりのところで、素人が焼いたクッキーなんて……」
「そう? 僕はねぇ、この会場で一番おいしそうなにおいを嗅ぎつけてきたんだけどな」
 ふにゃ、とやわらかく微笑んだふふふよを、ウィノナはきっとにらみつけた。
「う、うるさいですね! なんなんですかあなたは、一歩間違えばただのヘンタイですよ!?」
「おーいしい!」
 ウィノナのクッキーを一口かじった万里也が、叫ぶように言った。
 それに触発されたように、てるや零、ルナやビショルドも、広げられた袋から次々クッキーを口に運んでいく。
「あのクッキーも、どうやらここにいていいみたいだ」
 ふふふよの微笑みから、ウィノナはぷいっと顔をそらした。怒ったような横顔は、どこかうれしそうでもあった。