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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

「瀬蓮ちゃん、がんばるですよ!」
「きっと大丈夫やから、な?」
 巫女装束に身を包んだ、小学生と見まごうほど小柄な橘 柚子(たちばな・ゆず)と、同じくらい小柄で、健康的な肌の色をしたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、瀬蓮の手をぎゅっと握って、渡り廊下を駆けていく。
 咳き込み、ふらつく瀬蓮の身体は、柚子と、ヴァーナーと、後ろから背を押すセリナ、三人に支えられて何とか走れている状態だ。
「ごめんなさい……けほっ、わたしのせいで、みんなにこんな迷惑を……」
「迷惑なんかじゃないわ。瀬蓮ちゃんと一緒にいたから、私、今日いろんな人に会えたんよ」
「ボクもです! 自分とおんなじくらいの背丈の人と知り合えるなんて、ボクにとってはすっごく珍しいことなんですから!」
 瀬蓮の手を引きながら、柚子とヴァーナーも、小さな手をきゅっと絡めている。仲の良い小学生のような二人を見て、瀬蓮の表情がふっと和らいだ。
「何とかなりますよ、瀬蓮ちゃん。きっと何とかなります。私たちが何とかします」
 後ろから、セリナも優しく声をかける。
 時折、爆音と共に飛び込んでくるバイクは、
「せっかく面白くなってきた所であろう、余計な水を差すでない」
 和服の袖を麻紐でぎゅっと縛った司が、ドスを握ったむき出しの細腕で、飛び込んできたバイクにふっと触れる。
 それだけで、数百キロもあるはずのバイクは軽々投げ飛ばされて、宙を舞った。
 続いて突進してくる二台のバイク。運転手の構えた釘バットが、司を両脇から叩きのめさんと迫る。
『アララララーーーーライ!』
「やかましいわ」
 司は振り出された釘バットに手を添えて、軽くひねる。運転手二人はシートの上で一回転して、そのまま地面に転げ落ちた。
 主を失った二台のバイクが、あさっての方向へ駆け抜けていく。
「ハーレック! さすがにこれほどキリがないと、わたくしも疲れるぞ。作戦はないのか」
 汗の玉ひとつ浮かんでいない涼やかな顔のまま、司は楽しげに言う。
「私たちも迎撃、手伝います」
 野々とエルシアも司の隣に並び、襲撃者の突っ込んでくる方向……玄関方面に向かって身構えた。柚子とヴァーナー、セリナとハーレックも、続々聞こえてくるエンジン音に身構えて……
「……禁猟区に反応! 後ろです!」
 唐突に、セリナが叫んだ。玄関方面とは真反対、中庭の奥から、突っ込んでくるダウンヒル・バイク。
 とっさに光条兵器を抜き放ったセリナへ向けて、国頭 武尊(くにがみ・たける)はバイクの上からアサルト・カービンを乱射した。ひるんだセリナをすり抜けて、武尊は瀬蓮の首根っこをがしっとつかみ、抱き上げて、そのまま急速ターン、料亭の外へ走り去る。
 瀬蓮を離すまいとぎゅっと手を握り続け、けれど力及ばず放り出された柚子とヴァーナーを、野々とエルシアが抱きとめた。
「クソッ、やられた!」
「バイクで逃げられては、箒でも追えんな」
 呆然と、走り去っていくバイクを見送るハーレックめがけて、爆音と共にスパイクバイクが突っ込んできた。
「ハァア――――レェエエック!」
 はっと身構えたハーレックの傍らに、バイクは急停止する。
「なんかよくわかんねーけど儲け話だろう!? 俺にも一枚噛ませろよ!」
「南鮪か? いいところに来てくれました」
 こげ茶のモヒカンを揺らした南 鮪(みなみ・まぐろ)は、バイクのエンジンをふかしたまま、国頭の走り去ったあたりを眺め見た。
「合コンに出遅れたんで、襲撃に参加してたんだがなァ、国頭がこそこそ隠れてんのが見えて、あとつけたらこの有様って訳よ! ヤツが連れ去ったのは何だ? お嬢様か? 営利誘拐か?」
「訳は後で話します、私のペイ(給料)を半分渡します。文句はないでしょう。追って!」
「ヒャッハー! 太っ腹だねェ!」
 ハーレックが飛び乗るや否や、スパイクバイクは爆音を響かせて走り去った。
 その様子を、野々たちは呆然と見送って、
「……いま、何が?」
「知らぬ。だが、面白そうなのは確かだ」
 黒い瞳を猫のように光らせ、司は空飛ぶ箒に飛び乗った。
「さて、箒でどこまで追えるかの」
 ふわり、浮き上がりかけた竹箒を、小さな二つの手がつかんだ。柚子とヴァーナーだ。
「司おねえちゃん、連れて行って」
「私らが手ぇ離さんかったら、瀬蓮ちゃんかて今頃……」
 瞳に涙を浮かべたちびっこ二人に見据えられ、さすがの司もたじろいだ。
「……やれやれ、追いつけるかもわからんぞ?」
 司はため息ひとつ吐き、ぐいっと二人の首根っこをつかんで、箒にまたがらせた。
「司さん!」
 叫ぶように言った野々を、
「もう乗せんぞー」
 司が一蹴した。
「そうじゃありません。セリナさんが怪我してますから、私たちはここで」
「そうか」
「ですからその……瀬蓮ちゃんを、お願いします」
「心に留めておこう」
 短く言って、司を乗せた箒は矢のように飛び去った。

 ※

「なんてことだ……」
 リムジンから転げ出た真田真之は、燃え盛る料亭を呆然と見上げた。
「妙な看板で道を間違えたかと思えば、今度は料亭が燃えているなんて……誰か、私と高原瀬蓮のお見合いを妨害したいやつがいるのか!?」
「真之様、この先へはいけそうにありませんね」
 リムジンの運転席で、長い前髪で右目を隠した、白スーツの男性が言った。
「これは運命ですね、仕方がありません」
 すっと運転席から手を伸ばすと、スーツの男は真之を車内に引っ張り込み、その上に覆いかぶさる。
「え……え? お前、いつもの運転手じゃないな!?」
「ええ、今日臨時で運転手になりました、明智珠輝と申します」
 明智 珠輝(あけち・たまき)は、押し倒した真之のあごにすっと指を這わすと、と息がかかるほど近くまで、顔を寄せた。
「もう、どうあがいてもお見合いには間に合いません。ならばもう、いっそお見合いのことなど忘れて、この私と……」
「う、うわわわっ!」
 ばたんっ、とドアの閉まる音がして、はっと、珠輝は後部座席を見た。
 ゴシックロリータファッションに、車の天井に着くほど長いとんがり帽子をかぶった桐生 円(きりゅう・まどか)と、のんびりとした糸目のオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、当たり前のように後部座席に収まっていた。
「き、君たちは誰だ!?」
「ボクたちはSPです。えーっと、プロの」
 苦しいでまかせを吐いて、円はきっと真之を見据えた。
「同じく、プロのお見合い世話人から連絡がありました。高原瀬蓮がさらわれたと」
「……なんだって?」
「車なら追いつきます。追っかけてください。それとも、お見合い相手を助けるナイトを、気取る度胸もないですか? ペド野郎」
「そこのロリコンお兄さん?」
 ふっと、車内に青い光が差した。
 光条兵器の光である。ただし、特大の。
 車の進路に立ちはだかった美羽が、刃渡り2メートルはあろうかという光条兵器を構えていた。
 その巨大さに比例して、あふれるコバルトブルーの光も、ほかの光条兵器をしのぐ。
「……予定は変更ですね。キミ、そこのヘンタイ運転手」
 円は、珠輝に自分の携帯を差し出した。
「ハーレックというヤツが、また電話をかけてきます、そいつの言うとおりの場所へ、そのペドを連れて行ってください」
「見返りは?」
「着くまで二人で、存分にドライブを楽しめばいいじゃないですか」
「乗った!」
 珠輝はきらりと目を輝かせて、真之を助手席に、シートベルトでぐるぐるに拘束した。
「ふふふ、さァて、時間制限があるのは残念ですが……しばらく楽しみましょうね、二人っきりで」
 真之の苦情をすべて無視して、円は車から降りた。オリヴィアもそれに続く。
「なんのつもり?」
「キミをここで止めるつもりです」
 言うなり、円は美羽に向かっアサルトカービンを乱射した。同時に、リムジンが後輪をぎゃりぎゃり空転させながら走り去る。
「ちっ」
 美羽は飛んでくる弾丸を、盾のように構えた光条兵器でやり過ごした。
「手伝ってくれませんか、オリヴィア?」
 弾幕を絶やさないまま、円が言って。
「跪いて泣きながらお願いしてくれたら手伝うよー?」
「……そんな暇は貰えそうにないですね」
 アサルトカービンの弾が切れた瞬間、美羽は光条兵器を投げ捨てて走り出した。一瞬で円との間合いを詰め、
「はっ!」
 鋭い蹴りを一閃させる。
 あごを捉えるはずだった一撃は、しかし、円がしゃがみこんだせいで、とんがり帽子をふっ飛ばしただけに終わる。
「一体何が目的なんですか、パンツ丸見え女」
 美羽の蹴り避けながら、円が聞いた。
「お見合いを破談にするために決まってるでしょ! 無理やお見合いさせるなんて、かわいそうで見てらんないわ!」
「……ボクたちは、お見合いをうまく運ばせるために動いてます」
「ほらね! そうやって瀬蓮ちゃんの気持ちも考えずに……」
「お互いがちゃんと向き合って、話をして、その結果、答えを出してほしいと思うから」
「……うそつけ!」
 フェイントを混ぜた美羽のローキックが、円のひざを捕らえた。小さな身体が、こてん、すっころぶ。
 そこへ、美羽のかかと落としが迫って、
「すとーーーっぷ!」
 がしいっ、と、ベアトリーチェが美羽を後ろから羽交い絞めにして、止めた。
「ビーチェ! 邪魔しないで!」
「でも、でも、でも! あの人の言っていることが本当なら、止めちゃダメです!」
ベアトリーチェが、美羽の背中越しに、円をひた、と見据えた。
「……本当に、瀬蓮さんが納得できる形で、このお見合いを終わらせるつもりなんですか?」
 円はこくんと頷く。
「乱暴はナシで?」
「乱暴もナシ、です。信じてくれていいですよ。今頃、ハーレックって言うヤクザガールが、全部を丸く治めに向かってるから」

 ※

「くそ、もっと速度が出ないのか、こいつは!」
「お前だって知ってるだろうが! スパイクバイクはそう早くねぇ!」
 疾走する武尊のバイクは、ハーレックたちの視界からぐんぐん遠ざかっていく。
「まずい……どこへ行くのかもわからないのに、見失ったら……」
「そこにいるの、お見合い会場にいた人!?」
 突如、頭上から降ってきた声に、はっとハーレックは顔を上げた。
 ハーレックたちより少し上、電線に引っかからない程度の高さを、空飛ぶ箒が飛んでいる。
「あなたは?」
「ひまわり組のクラーク波音だよ! 上空で偵察していたら、瀬蓮ちゃんがさらわれたのが見えたから、追ってきたの。あたしがもっと上から、最短ルートであんたたちを誘導しようか?」
「ありがたい! わたしはハーレックです! ガートルード・ハーレック!」
 波音は、箒に下げたランプに火を入れて、空高くへと舞い上がった。日の落ちかけた夜空に、ランプの明かりがぽつんと浮かび、バイクを先導する。
「鮪! わたしがナビしますから、そのとおりに走って!」
「交通ルールを守れって以外の命令だったら、なんでも聞いてやるよ、ヒャッハー!」

 ※

 風吹き荒れる高台の上。
 暗視スコープを乗せたアサルト・カービンを、比島 真紀(ひしま・まき)は伏せ撃ち(プローン)で構えた。
 隣ではサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、同じく伏せた状態で、双眼鏡をのぞいている。
「御剣カズマの情報は、確かなのか?」
「現在進行形で国頭を追ってる、クラークからの情報でありますよ。確実でないはずがない」
「なるほど。進行方向さえわかっていれば」
「先回りして待ち伏せ(アンブッシュ)するのはたやすい。戦場を思い出すでありますな」
 ふっと、七倍に望遠された真紀の視界に、疾走する武尊のバイクが移った。
「距離500。そんな短銃身のカービンで当てられるか?」
「無理でありますな」
 言いつつ、真紀はトリガーに指を触れさせた。
「――並の腕では」

 疾走していた武尊のバイク、その前輪が、突如破裂した。
「何!?」
 スピンしたバイクから投げ出される武尊。とっさに、武尊は瀬蓮をぎゅっと抱きこみ、自分の身体を盾にして、地面と衝突する衝撃から守った。
 ぱあん、と、一瞬送れて、乾いた銃声が響き渡る。

「任務完了」
 ぽつりと言って、しかし真紀は、立ち上がる気配がない。
「お見事……どうした?」
 先に頭を上げたサイモンが、怪訝そうに真紀を見た。
「……この高台は、高すぎて」
「うん?」
「腰が抜けました」
 ため息ひとつして、サイモンは真紀を抱き上げる。
「高所恐怖症だったか……ほんとに、一緒に戦った戦場を思い出すなぁ」
 少しばかり楽しげに、サイモンは笑った。

 ※

「い、つつつ……」
 身体を起こした武尊の前に、ハーレックが立ちはだかった。鮪、波音、少し遅れ司、柚子、ヴァーナー、次々武尊を包囲していく。
 武尊は、瀬蓮を背中に隠して、集まった面々をにらみつけた。
「……手前ら、恥ずかしくはねぇのか?」
「何がです?」
「とぼけんな。お見合いっつったら、人の一生決めるかも知れねえことだろうが。それを、周りが勝手に決めちまっていいのかよ!?」
「だから、高原さんを逃がそうとしたと?」
「ああ、そうだよ」
「……勝手かどうか、決めるのは高原さんです」
「どうやってだよ」
「条件も、人も、いま、すべてそろいました」
 背後で車の停止する音がして、真田真之が、瀬蓮のほうへ歩み寄ってきた。
「わたしはこう思うんです」
 ハーレックは、真之に道を譲りながら、武尊に、もしくは瀬蓮に、言った。
「たとえ無理やりでも、偶然つながった縁ではないですか。顔も合わせる前に切ってしまうのは、あまりに、もったいない」
 真之は、瀬蓮の目の前で立ち止まった。
 瀬蓮は立ち上がって、まっすぐに、真之を見た。
「……えと、真之さん」
 声を裏返しながらも、瀬蓮ははっきり、声を出す。
「いきなり結婚とか、やっぱり、考えられません。……だから」
 きっと、瀬蓮は真之を見据えた。
「文通から、お願いしてもいいですか?」
「……」
 真之は、一瞬あっけに取られて、
「……はい、お願いします」
 それから、柔らかに微笑んで見せた。