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願いを還す星祭

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願いを還す星祭

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星の祭 祭の前 「恋する乙女と――」

――世界樹イルミンスール中層 イルミンスール魔法学校 展望台 深夜

「七夕に かしつる糸のうちはへて 年の緒長く こひやわたらん」
 一人の少女が星空を見上げていた。
「なんてね」
 少女は恥らうように頬を染め手に持った笹竹を指先で弄びながらくるくると踊りはじめる。笹竹に飾られた短冊が星空に赤い軌跡を描く。
 そして、もう一人――。優雅に踊る少女に静かに近付いていく幼い少女。その足取りには躊躇いも容赦もない。踊る少女は気付かない。自分の世界に溺れ周りが視えない。
「――それはなんですかぁ?」
 幼い少女が凛と言葉を放つ。
 ――時間が止まった。静かに響き溶けるように消える言葉の残滓。
踊っていた少女は電池が切れたかのように停止し奇妙なオブジェと化していた。
「ぐ、が、ぎ」
 錆付いた機械人形の如き異音を発しながら少女はぎこちなく首を動かし声の主を探す。
そして――少女はその幼い少女を見つけてしまう。
――エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がニヤニヤしていた。



 紅汀は誤魔化すように咳払いをして眼鏡を直し居住まいを正した。
「こんばんは。校長先生」
「それはなんですかぁ?」
 自分の痴態ではなく笹竹に興味を示したエリザベートに汀は安心しながらもどこか釈然としない。
とりあえず、汀はあれやこれやを誤魔化しつつ、己の尊厳を守るためにワルプルギスの質問に答えはじめる。
「え、ああ、これは七夕に使う笹竹です」
「タナバタ?」
「日本の風習です。叶えたい願いを短冊に書いて竹の葉に飾るんです」
「タンザク?」
「あ、えーっと、呪符? のようなものです」
「ふむぅ〜、それは面白そうですねぇ〜」
 それだけ聞くと満足したのか、エリザベートは何事も無かったかのように汀を残して行ってしまった。汀は深い溜息をつきながら胸を撫で下ろすが、まだ安心はできない。エリザベートの背中は笑っていたから。
 「――嫌な予感がするわ」