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魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

リアクション公開中!

魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

リアクション


◇第一章 真紅◇

 ――真っ赤な絨毯と四方から照らされるライト、そして、冷ややかな舞台がその場にいる者達の精神を高揚させる。集まった人数は実に三百名以上。十字に見える白い階段、高い天井、見下ろすように作られた舞台上では演技者らが立ちすくんでいた。周囲には大勢の観客。アルコールを嗜む者、食事を楽しむ者。しかし、まだ観客の興味は薄い。この空間を熱気で覆い尽くすのは生徒達の努力次第なのだ。
 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ……

「ピラフとチャーハンの違いとは何だぁ〜!? ハイ! ハイ! ハイ!!」
 すると、何で誰も動かないのとばかりに動き出すチームがあった。テンションは最初からMAX。メンバーの一人が死んでも気にしない(死んでない)。
「さぁどんどんいくよー スピードあげて 難しかったらぶっぱなせ♪」
 軽快なラップのリズム。これぞ【ピラフとチャーハンの違いが解らないの会】である。
「優雅にぃ〜、楽しくぅ〜、美しくぅ〜!!」
 オリヴィア・レベンクロンがゆっくりと腕をグルグルと回しながら道を開くと、桐生 円(きりゅう・まどか)の正確なポージングの後を追うように初島 伽耶(ういしま・かや)らが踊りだす。そして、手拍子に合わせる様にアルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)はアサルトカービンを撃ちながら周りを煽る! 煽る! 煽るゥ!!
「Shoot! Down! If ya’ll rake’em with mech−gun that’s sure! (打ち倒せ!もしお前が機関銃を掃射すれば……)」
 舞台を温めるのは『あたしら』の仕事とばかりにチームのダンスは続く。上下左右に手を重ね合わせ、コマ送りのように動く。動く。円と比べると伽耶たちの動きやリズムは幾ばくか劣るが、乗せると怖いのが【じょしこーせー】と言うものだ。
「あたしだって撃てるのさ! あたしだって乗れるのさ! あたしだって、ドガガガガッ!!!」
 音楽に合わせて観客に弾を撃ち込みながら快感を味わう伽耶。アドリブを混ぜるとダンスが進化していく。いや、させていく。すると、観客から大きな歓声があがった。勿論、言っておくが使用されている武器に殺傷性はない。血祭りと言っても殺し合いではないのだから……

 すると、それに負けじと動き出すのが生徒達だ。
「ほな行こか〜」
 そう声をあげたのは青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)だった。どれくらいドジョウと仲良くなったのだろうか? 彼はドジョウと友達なのかとも思えるほどの見事なドジョウすくいをブレイクダンスをしながら行う。融合……まさにドジョウすくいとブレイクダンスが合体した『ドジョウブレイク』である。
 安来節ロックはオラが魂の叫び、タバコはオラが激しく嫌い、十三日の金曜日はオラが誕生日。そして、彼は鉄製のザルに小型の爆弾を詰め込み逆立ちすると叫んだ。
「これがオラのドジョウエアトラックスやっ!」
 少し体を傾けた状態から手で跳ねあげて、空中で一回転しながら同時に爆弾を撒き散らす。なんと言う危険なオラオラ技であろうか!? さすがは女、子供は死んでも殴らないが悪い事すればお尻ペンペンする男である。

「ふふふっ、ズバァリッ! 桜井 静香を指名……!!」
 ここにはいない人物を指名しながら登場したのは【間違った耽美主義の追求者】である明智 珠輝(あけち・たまき)だ。その後ろで、なんで僕はこんなことしているんだと頭を抱えているのは、彼のパートナーのリア・ヴェリー(りあ・べりー)である。リアは普通の棒と薔薇の棘付きの煌びやかな棒。そして、中央に火を着火する為のファイヤー棒を準備し、それを珠輝がリンボーダンスすると言うのである。
「ポポガ、ダンス、初めて。ダンス、激しい。ダンス、血祭り。ポポガ、理解!」
 ポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)はニコニコと珠輝を見つめていた。獣のようなワイルドさとガッチリとした体格、ゴビ砂漠でも一年間生活が出来そうな野性味を持つのは屈強メイドアリスだ。この三名が【凛棒】チームである。
「私たちのダンススタイルは、リンボーダンス! 紹介いたしましょう! 棒を持つ担当1、ツンデレ王子様、リア・ヴェリー! 棒を持つ担当2、天然屈強メイドアリス、ポポガ・バビ!! パフォーマンスは私、明智珠輝です。ふふ!!!」
 珠輝は黒いマントと白褌一丁と言う姿だった。外見はイケメンなのに立派な露出狂である。そして、己の身体を『つ』の字に曲げると一つ、二つとしなやかに麗しく流れる川のようにリンボーダンスを行う。最後はもちろん火炎の棒である。
「ふふふっ、ズバァリッ! 桜井 静香を指名……!!」
 炎が彼の身体を炙る頃、彼は絶頂を迎えてようとしていた。立派な変態である。しかし……

「おいっ、珠輝!! 危ない!!」
 しかし、そこにグレートソードを振り下ろしてきてのはベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)だ。その一撃は見事に彼の急所に命中し、珠輝は転げまわる。
「アチチッ、ギャアアアアァスッ!!!」
 火炎ダンスに集中していたリアとポポガと文字通りファイヤーダンスとなった珠輝をよそにベアはダンスに戻った。ネタ系に走ってるチームに妨害程度でのアタックを希望していた彼はちょっとやりすぎてしまったと思い反省した。すまん。
「や、やりすぎちまったかな?」
「クスッ、そんなのいつも通りだし、それがルールでしょ。それよりも……」
 パートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)はベアの頬を撫ぜるように肌をよせると、長い髪を振り乱すようにして身体を反らした。彼女の手に持ったフェザースピアは鳥の羽の如く繊細に動き、サラサラの漆黒の髪から覗く白いリボンが演舞場を反射するがごとく映える。ベアは暫し見惚れたように足を止めていたがやがて、頭を左右に振り自らの剣舞に戻った。スポットライトに白銀のグレートソードを反射させる剣の舞である。白と白が見事に融合された戦いの舞でもあった。
「よっしゃ! マナ! 熱いプラトニックを連中に見せ付けるぞ!」
「はずかしいことゆうな!」
「まぁ、席が座れなければ昼行灯になるけどな」
「何言ってるの、いつも通りプラス思考で行こ!」
 そこはいつも通りの彼らと言えよう。

「あっ、大きなメダル発見!!? ラッキー!!」
 すでに大会は始まっているのだが、嘉川 炬(かがわ・かがり)は勇者的思考から壺やタンスを調べていた。勇者にとっては、他人の家の物は俺の物。お前の物は俺の物。俺の物は俺の物。すなわち、バットを買ったから試しに殴らせろの理論である。
「プルルルル……(カガリ、始まってるぞ! 早く、ズラかろう)」
 その後ろでパートナーのドット 君(どっと・くん)が妙な効果音を出しながら騒いでいた。警備員に見つかったらお縄をプレゼントされてしまうからだ。仕方がないので演技場に向かった炬はそこで頭を悩ませた。
「それにしても何のダンスで参加しましょうかね〜? ……よし、やっぱ、派手なファイアーダンスで行きましょう!!」
 驚くべき事に彼女はダンスの練習も曲目も考えていなかった。しかも、鞄からおもむろにたくさんの油の入った瓶を取り出すとあたりにばら撒き火を付けた。もちろん、これは先ほどゲットしたモノである。これぞ、勇者クオリティ!
「ファイヤー!!!!」
 どうやら、ファイアーダンスの意味をはき違えているようだがインパクトは大である。燃え〜ろや燃えろ〜よ。他を巻き込む如く燃え続けろ。そして、そこに可哀想な人がいた。その人の名前は明智珠輝である。
「アチチッ、ギャアアアアァスッ!!!」
「やったぁ〜。何だか知らないけど勝っちゃった! ラッキー!!」
「プルルルル……(やった!)」
 勇者、恐るべし。
 【凛棒】 リタイア。

 ……その様子を片隅で見守っていた麻野 樹(まの・いつき)は悲しみのあまり、声をあげざる得なかった。
「なんか、色々な人とぉ〜、かぶってるよぉ〜!?」
 衣装は自慢の筋肉が目立つ様に緑の褌でのファイヤーダンスだったが、同じ演目が続きすぎると正直マイナスである。しかし、しょうがない。他に策など考えてないし、ダブルアクションも怖い。だから、彼はダンスを始めた。何本かの松明を回転させながら筋肉の躍動を魅せる樹。ディフェンスシフトを使い、尻をキュッと引き締め、力こぶを移動させる。
「折角なら楽しまないとね。今回は一人参加だけどぉ、全力で頑張るよぉ♪ 俺の全力でぇ!」
 そう、彼の一番の魅了は鍛え抜かれた筋肉。鍛えられた上腕二頭筋。それを生かす為にあくまで漢らしく肉体的に美しく……
「キャアアアアアァァァーーー!!?」
 女子達の悲鳴も気にしない……ダンスの過激さに褌が外れたらご愛敬なのである。

「フレー、フレー、フレー、フレー!!」
 【スナイパー】でシャンバラ教導団の比島 真紀(ひしま・まき)は見事な応援を行っていた。指先と背筋をキチンと伸ばし、足並みをそろえた、その動きは軍人そのもの、彼女のパートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)もそれに追随している。特殊部隊で訓練を受けたため、思考の基本が軍人そのもの。だから、少々世間ずれした応援であるが、そんな事は気にしない。
 しかし、周りには外見が若く綺麗な真紀にちょっかいをかけようと言う輩が存在した。もちろん、危険すぎる行為である。彼女は軍人。素早く腰に手が動くとアサルトカービンから煙が吹いた。床に大きな穴が開いたのだ。
「わわわわっ!?」
「……貴殿にやるべきことあるように、自分にもあるのだ。散れ!!」
「ご、ごめんなさ〜い!!!」
「やれやれ、相変わらず怖いねぇ」
 サイモンが頬を擦る横で、真紀は応援を続けていた。

 ――黒縁眼鏡が漢伊達。背中には『夫婦滝登り鯉』の刺青……が、今回の舞台衣装はダークスーツにサングラス。大草 義純(おおくさ・よしずみ)はここにいた。彼は曲に合わせて左右に動き、懐からハンドガンを取り出して撃ちまくる。そして、自分の近くの何人もの漢を血祭りにあげてきた(無論、殺したわけではない)。
 だが、中にはとんでもない奴がいる訳で……
「祭りじゃ、祭りじゃあッ!!」
 『祭り』と書かれた鉢巻と黒の六尺褌という衣装でダンスバトルに参加していたのは【お祭り男】の光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)だ。彼は無差別にステゴロ(素手の喧嘩)という名のダンスを参加者に仕掛けていく爆弾男である。すでに敵味方かどちらかわからない血でベットリと汚れていた。
「手ごたえのねぇ奴らばかりじゃのう。……っう事で、俺の今日の相手はあんたじゃッ!」
 睨みつけられて、義純の背筋がゾクッとした。目の前の手負いの男は血祭りを心から楽しんでいる。女、子供には手をかけていないものの奴は猛り狂う獣と言うに相応しい。だが、義純もただの冒険者ではない。直線的に動く翔一朗の急所にハンドガンの弾を命中させたのだ。しかし、残念な事にこれは殺し合いではないので本物の銃ではない。そして、翔一朗は素早く義純の懐に飛び込んでくる。
(……ッ、勝てないッ!!?)
 そこに鬼がいた。避わすことは出来ないと思った義純は仕方なく上着の裏に仕込んだ発火装置と血袋の仕掛けを作動させたのだ。
「これが俺のドラゴンアーツじゃあぁぁぁッ!!!」
 同時にとんでもない衝撃が全身を貫く。それはドラゴン特有の怪力と身のこなしを組み合わせた武術である。強烈なダメージ。そして、激しい光と音が炸裂すると義純は血を吐きながらあおむけに倒れこんだ。もう、ほとんど動く事は出来ない。義純は最後の力を振り絞り、片手を空に伸ばし、口から血を吐いて一言呟いたのだ。
「……悪ぃの、わしはここまでじゃけぇ(ガクッ)」
 それが最後の言葉となった。彼は星になったのだろう。あれはカシオペア座の方角だろうか? 翔一朗は義純の最後を見届けると鼻を親指で拭いながら言葉を吐く。
「戦争ならあんたの勝ちじゃったが勝ったのは俺じゃ。次は戦場でやろう。同じ広島県人としてな! さぁ、次に俺と喧嘩をしてくれる言うンは、何処のどいつじゃあッ!!」
 光臣 翔一朗は腕を豪快に回しながら戦場に戻っていく。その顔は満足そうだったと言う。
 【大草 義純】 リタイア。