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魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

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魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

リアクション


◇第二章 混沌◇

 カッ、カポン、カポン、カポポン……
 白い廊下に控える六名の『白い人』たちは不気味なタップダンスを行っていた。誰も見ていないのに……だが、これが【カオスヒーリング】の面々である。
「そろそろ、俺たちの出番みたいだぜ。準備しな。ヒヒッ、早速、このダガーで患部を切り裂いてやるか」
 赤月 速人(あかつき・はやと)は素人の映画監督に演技を求められた暗殺者さながらの表情でダガーを舐めあげると演舞場を睨みつける。すると、それに呼応するように【ワラワボーイ】のエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)、そのパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)、さらに新入りのアレクス・イクス(あれくす・いくす)は頷いた。
「進行方向に障害物! 邪魔だどけ!!」
 そして、速人らは負傷者までの突破口を作るぜとばかりに一直線に走り出す。
「どけどけ急患が出た。邪魔者はひき殺すぞ!!」
 ボグッ!! グシャアアァァァッ!! ゴキキキキッ!! 何かが砕け散ったような音がしたが止まってはいられない。その横で赤いリボンのプレゼントボックスに入った長毛白猫の可愛いぬいぐるみのアレクスが、箱に付いたキャタピラでリアカーと並走していく。キュラキュラキュラキュラッ!
「ギャアアアアアアァァァァーーー、轢かれたァァッ!! 赤と白の悪魔にィッ!!」
 後ろでこの世の終わりのような悲鳴が聞こえたが気のせいであろう。リヤカーの左右には【ヒールあります】【リタイア受け付けます】と書いてあるので避けれない奴等が悪い。
「着いたぜ、相棒!!」
 そして、現場に辿り着くと速人は思い切り急ブレーキをかけた。すると、その拍子に足の露出を気にしながら、女の子っぽく荷台の上で正座していた蒼が飛び出してしまったではないか!!?
「ふわああぁぁぁ!!!? 嘘ぉっ!!? 壁が、壁が迫ってくるよぉぅ!!!」
 蒼はパタパタと手を羽ばたかせながら祈った。宗教画の天使が着ているような神々しい衣装で……だが、祈りなど無力! 壁に描かれたのは巨大な大の字。ピューと噴き出す赤ワインのような血液が白い天使を朱に染めていく。
「にゃにゃぁ〜、そ、蒼くんがぁぁぁっ!!?」
 アレクスはあまりの出来事に声をあげて、手を合わせながら救いを求めた。

「ほっとけ、まずは急患の救助が先だ!!」
 神は無情である。そして、血に染まりゆく自分の服は成果の証だぜとばかりに、速人は血塗れの患者達をジャイアントスィングでリアカーに投げ入れたのだ。千切っては投げ外れ、千切っては大きく外れ、千切っては……ブチッ……多少の犠牲は気にしない。リアカーには一人乗っているではないか!?
 だが、このまま黙っているアレクスではない。後ろにはエメがいるにゃう。
「早く、蒼くんを助けるにゃう!」
 アレクスの心の叫びは通じるのか!? いや、パートナーのピンチとあれば、いち早く助けるのが当然であろう。ココで動かねばいつ動く。勿論、宗教画の天使のような衣装のエメは額に人差し指を当て目を瞑り、0.0一秒ほど考えた末にマジメな顔をして叫んだのだ。
「速人君の言うとおりです! 我々は急患を助けるべきでしょう(キリッ)」
「はにゃにゃにゃにゃう!!!?」
「それにこのままの方が……面白そう……ではありませんか。後でローラースケートを使って舞台清掃するつもりなので、その時に片付けましょう……ゲフッ、ゲフンッ」
(その小声部分は何にゃう!!?)
 阿修羅のような態度で視線を反らすエメに最初は戸惑っていたアレクスであったが、血に染まり無様にお尻を突き出しながら倒れこむ蒼の姿が彼岸花(!?)のように見え、不謹慎にも笑ってしまったのも事実である。怪我人を救いに来たのに、一瞬にして怪我人の仲間入りをしている蒼にだ。
「プッ、クスクス……そ、そういえば、この場に笑顔が足りないにゃうね。蒼くんも頑張って、立ち上がって天使アピールするにゃう。『面白い』のが一番にゃうよ」
「うぅぅ……そ、そんな……アレクス……くん……たす……け……ガハッ!!?」
 吐血し絶命(死んでない)する可哀想な蒼をよそに、アレクスはエメと一緒に倒れている人の意識を確認しながら、リアカーにポイポイ詰め込みながら場外へ搬送していく。キュラキュラキュラキュラッ!

 しかし、患者達のその先に待っていたのは『白衣の天使が人を助けると誰がいいました?』と言葉を発する佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)らである。最初はのんびりと負傷者を治療していたが、だんだんその状況に慣れてきて、めんどくさく、いやいや、彼の名誉を重んじるなら……どうでもいいのだ。
 負傷者の足をもってメンバーに投げて、新しい負傷者を受け取る。そんな、新しい遊びに目覚めた彼は速人と負傷者を投げる美しさを競うようになった。その動作はまるで踊るよう……そして、血祭りの女神に乾杯するかのように、弥十郎は真っ赤になった白衣を拭いながら爽やかに言う。
「あぁ、たくさん仕事したなぁ。のほほん、のほほん、今日も空が青いね。みんな、こんな風に空が眺められればよいのに……」
 はあぁ、何と言う、カオスな決め台詞!?
 もちろん、その暴走を許さないのは彼のパートナーの仁科 響(にしな・ひびき)だった。好き勝手な台詞を吐く佐々木を止めるため、響は近くにあったスケボーで観客席から滑走する。……早い……その速度は風の如く、空に舞い上がるはワシの如く。そして、そのまま佐々木の背中に必殺のドロップキックを炸裂させていく。
「佐々木ィッ!! 違う意味で頑張りすぎた。眠れ!!!!」
「のほほ〜〜〜ん!!!?」
「ふぅ、白衣をまとった妖精が空を舞うか……しかし、佐々木だけ退場させるのも悪いな」
 響はエメらに頭を下げると彼に伴って退場した。残されたのは血塗られた三匹の悪鬼たち。この場はまさに【カオス】であったと言えよう。
 【佐々木 弥十郎】、【仁科 響】、【片倉 蒼】 リタイア。

「C・h・e・e・r・s! Cheers! ファイトォーーー!!」
 消えていく選手達。すると、それらを応援するように大声が聞こえてきた。黒いガクランに身を包み、鉢巻を締めて応援していたのは樹月 刀真(きづき・とうま)だった。まるで、ダンスに負けないパフォーマンスで応援でする彼を支えているのはパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)である。
「………………」
 月夜は黙々と太鼓を叩き、黙々とヒールを使用する。これなら応援に疲れる心配もなさそうだ。
「元気の無いダンスでしたら、俺達の応援が食ってしまいますよ?」
(……刀真は主役を狙っている……)
 無口な月夜は目を光らせた(ギラリッ)。
 しかし、本当の所は無邪気に笑っている刀真に安心しているようにも見える。彼は両親を魔物に殺され、その復讐の為に生きていたのだが、今の彼にそんな面影は見当たらない。彼は彼なりに学園生活を楽しむ術を見つけたのだろう。
「フレー・フレー・秋桜! ファイトー! ファイトー! シャドウダンサーズ!!」
「それは……ダメ」
「ピラフとチャーハンの違いはバターか胡麻油の差だけしか無いとおもーう!!」
「それも……ダメ」
「ヒーリングカオス無茶するなーーー!!」
「それは……OK」
「漫才かよっ!!?」
 刀真は応援にツッコミを入れる月夜の頭をハリセンで叩いた。無口ながらに刀真を見守る月夜も彼の元気な姿に嬉しそうだ。

「おっしゃあぁぁぁぁっ!! 踊りがはじまるです!!!」
 ピシャンッと、自らの頬を叩き、気合を入れたのは【島国同盟】の志位 大地(しい・だいち)だ。チーム人数は五人で衣装は大地のパートナーシーラ・カンス(しーら・かんす)が作った衣装である。
 大地、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん) は英国紳士風のフォーマルスーツ。
 シーラ、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)シルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー) はミニのゴシックドレスだ。
 だが、ここでとんでもない事が二つ発覚した。チーム名は「島国同盟」で登録する筈が、【先生!この人悪いこと考えてます】のウィルは勝手に【ウィルネスト様とその下僕たち】で登録していたのだ(フルボッコ必死)。しかも、大地の方はウィルの火術グセを利用して、できれば事前にトラッパースキルを活かした火薬、可燃ガス等の設置をあちこちにしておいた。驚かせるつもりでウィルには黙っておいたらしい。
 別にそれらがいけないとは言ってない。問題はチームワークが必要なダンスバトルなのに伝達が上手く言ってないという事だ。
「俺の歌を思う存分聞けェー!?」
 ウィルネストの選んだ曲は和風アレンジのロックで格好良かった。片手にマイク、ダンスの合間に各一人ずつ歌を歌うのも素敵。体育0という素晴らしい能力(?)なので呪いのダンスにしか見えないがオリジナリティには溢れている……が、どこかがチグハグに見えた。足並みが揃っていないとも言うべきだろうか。近づく連中に敵味方お構いなしに妨害用にサラダ油・バナナの皮・石鹸液を撒き散らすシルヴィットも動きはバラバラであるし……。
「あい、イルミンスールいちの美少女シルヴィたんの登場ですよーっ!?」
 しかも、ウィルネストの歌を遮るように声を張り上げたのだ。
「キャッ!?」
 そして、大地に手ほどきを受けたという合気で戦闘するシーラがシルヴィットの投げたバナナの皮で転んでしまう。
「にゃっはは! ボクたちにたてつくからそーなるんですよ!」
「ちょ、ちょっと、私は味方よ!?」
「そんなのボクしりませーん。プッププップー!」
「あぁ〜ん、何とかしてよ。大地!?」
「ウオォォォッ、ブチ殺してやるぜ!! ギャハハハハッ!!!」
 だが、シーラの願いは届かない。サラダ油で転んだ大地も眼鏡が外れてしまったらしく暴走していた。彼の二重人格のスイッチは伊達眼鏡で、外れるとドSで鬼畜な愉快犯タイプに変わるのだ。そこにトラッパースキルで仕掛けた火薬が爆発する。そそり立つ巨大な火柱は崩壊の合図であろうか。
 ……残念な事にこの騒ぎを終息できるであろう常識家のヨヤは辺りの惨状に気付いていないようだ。
「き、キラっ? こ、こうかな? き、キラっ?」
 ウィルネストに演技指導された自分の決めポーズに必死になっていた。恐るべしは【先生!この人悪いこと考えてます】のウィルネストである。このカオスな流れを引き寄せてしまう彼の潜在能力に!?
「イルミンに俺ありと謳われた、紅蓮の暴走魔ここに参上!(惨状)」
 その決め台詞のごとく、この場は悪夢と化していた。

「……ふぅ」
 周りの様子を静かに見守っていたのは【銀狼隊】のクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とパートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)アメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)らである。すでに何人もの連中を血祭りにあげており、かなりのポイントを稼いだので一服していたらしい。だが、休息を長くとるのも彼らしくない。
「……やれやれ……皆、派手にやってるな……よし、行くぞ……ユニ! 銀閃華を! 行くぞ、アメリア!」
「分かりました! ……銀の炎が、この世の全てを照らし出す……銀光の華よ、開け! 銀光の煌き、銀閃華! クルードさん! 引き抜いてください!」
「私も合わせる! 大空を、自由に羽ばたけ! 【ウィング・バースト】!」
 クルードが動き出すとユニとアメリアもそれに追従した。彼の扱う剣はライトブレード。柄からビーム状の光刃を作り出す超テクノロジーの剣である。そして、その横をアメリアがバーストダッシュで高速移動していく。
 クルードの作戦ではアメリアと左右対称に動き、敵を倒す予定だった。クルードの黒い光とアメリアの白い光で……しかし、残念ながら長きに渡って眠っていたアメリアの能力はまだ回復しきってないらしい。彼女はバーストダッシュによって、もたらされるベクトル制御を上手く操れていなかった。
 しかも、その直後、下品な男の攻撃が待っていた。
「へへへっ、血祭りいただき!!」
(クッ、身体さえ! 能力さえ戻っていれば! こんな雑魚なんかに!!?)
 アメリアは目を瞑った。だが、直後に聞こえてきたのは男の声である。
「聖なる光よ! その威光で、全てを照らせ! 【バニッシュ】!」
「ぎゃああああぁぁぁっ!!」
「……私だって、後ろから見てるだけじゃありませんよ! あんまり格闘術は得意じゃないんですけど、ね!」
 ユニのバニッシュがアメリアを救ったのだ。
「……これで最後だ! 【銀狼雷閃光】!」
 そして、止めを刺したのはクルードだ。それを不服そうに見ていたのはアメリアであろう。アメリアは服に付いた汚れを払うと言った。
「べ、別に助けてくれなんて言ってないでしょ!!?」
「……俺も……別に助けたとは言ってない……行くぞ、ユニ、アメリア!!」
「はい、クルードさん!」
「フンッ、仕方がないわね」
 黒い光をサポートする白い光が次第に交じり合って銀色に映える。その先も彼らは戦い続けるのだ。

「うおおおおおおぉぉっ!!?」
 さらに一際大きな歓声が響き渡ってきた。その何かを期待させるような男の声。卑怯……卑怯だが、男なら騒がずにはいられない。なんと、【秋桜&シャドウダンサーズ】の秋葉 つかさ(あきば・つかさ)ヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)の服を同じチームでボンテージ姿の桜井 雪華(さくらい・せつか)が脱がす! さらに脱がす! さらにさらに脱がしていく!
 分厚かったドレス、着物、蒼学制服、メイド服、スクール水着、超極小マイクロビキニへと六変化!!!? ほとんど、全裸になったつかさとヘルゲイトは好奇の目で晒され、周囲は下品な口笛と拍手で喝采になる。ぷるるんと弾けたプリンのような柔肌にピンクのビキニ、Tバック以上の食い込みはまさにありえない行為だ。
「踊り子さんにはふれないでいただけないでござる! 撮影禁止でござる!!」
「踊り子さんには手を触れないでください!」
 その周りを護るように椿 薫(つばき・かおる)黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が踊っていた……が、どうでもいい。秋桜の花びらを舞い散らせ、お嬢様を守る執事の如く防戦しながらタンゴのリズムで華麗に踊る……別にどうでもいい。
「秋葉さん、踊って頂けますか?」
 弥涼 総司(いすず・そうじ)もつかさを守るように立ち、ブルーローズブーケを手渡す……小細工は邪魔である(全否定!?)。悲しい事に観客の興味は女体の神秘だけなのだ。だからこそ、薫やにゃん丸、総司で女性陣が見えなくなるとブーイングが巻き起こる。
 踊りはワルツから、日舞、ヒップホップ、ベリーダンスへと服が破れるたびにエロく激しくなっていった。
「あぁ〜ん、もっと視てくださいませぇ!」
 妖艶なつかさの声が観客を刺激する。観客たちは己のエッフェル塔を抑えるのに精一杯であった。無論、にゃん丸や総司もである。
「ニンニンニンニン、何をやっているでござるかぁ!!?」
 薫は己の東京タワーの悪行など気にせずに彼らを叱りつけた。まったくもって、男でござる。
「七変化とは聞いてたんやけど……これ……は……」
 ヘルゲイトは恥ずかしかった。しかし、ここで逃げ出しては雪華はともかく他のメンバーが困るだろうと思い、泣く泣く踊るしかない。
「さぁ、そろそろ、最後のお楽しみよ♪」
 つかさが投げキッスのポーズを取ると、雪華はドキドキしながら二人の水着に手をかけた。ほとんどピンク色の突起物が見える寸前のマイクロ水着に女体同士が絡みつくと言うこの状況はかなりヤバイ。蒼空学園的にヤバイ。何と言うかヤバすぎる。

「ピイイイイイイイイィッ!! ツァンダポルノ禁止法発動!!!」
 その暴走についに教育的指導で蒼空学園の兵士達が動いた。罪状はもちろん『ツァンダポルノ禁止法』である。行き過ぎたエロスを規制するこの法律が【秋桜&シャドウダンサーズ】に襲い掛かったのだ。
「食らえ、水鳥は優雅に見えても、水面下では激しく水をかいている!」
 リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)は急いで【隠れ身】を使用し、兵士達の足元に【トラッパー】で大量のトリモチを仕掛けていった。
「ニンニンニンニン! 柔肌を最後まで見守るでござる!! うわわ、殿中でござるぅぅ〜!?」
「黒脛巾 にゃん丸、命に代えてもここは通さん!! ギエエエェェ〜、にゃん丸、一生の不覚!!」
「面白けりゃ後はどうでもいいんだよ!! グボアッ!? あ、あの時、オレ参上しなければぁぁぁ!!!?」
 四人の勇者が兵隊の前に立ち塞がるが、敵は蒼空学園直属の親衛隊。勝てるわけがなかった。そして……
「あぁ〜ん、そんなぁ〜!!!」
 ここで、旋風を巻き起こした彼女らは捕縛させられてしまったのだ。あと少しだったのに残念でござったのに……ニンニン。
 【秋桜&シャドウダンサーズ】 リタイア