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リアクション
第4章 ルリマーレン家別荘跡地に何建てる?
ヴァイシャリーの住宅街にあるルリマーレン宅には、百合園女学院に通うミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の友人達が集まっていた。
怪盗舞士に狙われていた別荘を壊しちゃおうと家族に提案したのは、ミルミだった。
家族は不安ながらも、執事のラザン・ハルザナクを伴わせ、ミルミに任せたのだが……。
長い時間がかかったが、なんだか途中支離滅裂な知らせを受けはしたが、一応解体工事は成功したと報告を受け、ミルミの評価は上がっていた。解体工事を手伝った仲間達も大歓迎で迎え入れられた。
……寧ろこれはあの別荘でのアリエナイ事件を、巧みな話術を用いて報告をしミルミの株を上げるという偉業を成し遂げたラザンの執事としての腕を褒めるべきだろう。
白百合団の方へは団員から正確な報告がいっているようだが。
「お疲れ様、無事でよかったっ!」
蒼空学園の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、応接室でミルミと再開すると、がばっと彼女に飛びついた。
「怪我はない? こことかここは痛くない?」
頭をなでなで、頬をぺたぺた。そしてむぎゅーっとむにゅーっと抱きしめる。
「アルコリアちゃんっ☆ ミルミ大丈夫、大丈夫だよ〜っ」
ミルミはきゃはははっとくすぐったそうに笑いながら、ぎゅっと抱きしめ返す。
「うん、大丈夫ならいいの。いいのよー」
アルコリアは片手で抱きしめながら、ミルミのツインテールの髪を撫でて、頭を撫でて、頬に手を滑らせていく。
「うううう……っ」
その後で、パートナーのシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)はうろうろと応接室を歩き回っていた。
「いや、うろうろするのも変だ」
変だと分かってはいるのだが、会議には入り込めそうもないし、護衛をするように言われてはいるけれど、護衛する必要もなさそうだし。なんだか、居場所がない居場所がないのに、いなければならない。そんな状況だった。
アルコリアには男はつっぱねても構わないが、女性の相手はしっかりするように言いつけられている。
「といってもルリマーレン家のメイドはいるし、特に話すこともないし、敵がいるわけでもないし……」
「まあ、シーマ殿も落ち着いて、本でも読まれたらどうかな?」
アルコリアのもう1人のパートナードラゴニュートのランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)は、窓際で本を読んでいた。
273の長身では、玄関から入ることも、皆に混じってソファーに座ることも困難だったため、窓から入って有事の際には駆けつけられるよう窓際に腰掛けている。
「なかなかこの恋愛小説は面白いのう」
「恋愛……そういうものはちょっと。ううっ、誰と何を話していいやら、あードラゴンと戦う方が何倍もマシだ……」
シーマは呟きながら、とりあえず恋愛小説に熱中しているランゴバルトの傍に待機して場を見守ることにする。
「あううっ、こんなに強くぎゅっされたら、ミルミ潰れちゃうよ〜」
「んもう、ミルミちゃんの可愛らしさったら、食べてしまいたいくらい♪ そうそう、別荘跡地にはお菓子屋さんがあればいいですね。うふふー♪」
「ゴホッ。そろそろよろしいですかな」
アルコリアの弄りが続く中、教導団のミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が咳払いをした。
「まずは、鏖殺寺院を警戒するあまり、初期調査に予期せぬ遺憾な取り違えがあったことを謝罪申し上げます」
「申し訳ありません」
ゲルデラー、そしてアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)がミルミに謝罪をする。
「誠意が足らん! 頭を下げろ頭を」
ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)は、2人の態度に叱咤する。
「事を大きくする原因になったこととを真摯に反省いたしております」
「諸事情により中座せざるを得なくなり、報告書の作成に協力ができなかったことについても申し訳ありませんでした」
ゲルデラーとアマーリエが頭を下げた。
「うん、特に問題ないよ」
ミルミはアルコリアの膝の上で可愛がられながら言う。
「ミルミ、家族に褒められたし! ラザンが上手く話してくれたからね。不良に占拠されていた別荘をちゃんと壊して、地下に封印されていた羽の生えた子供達をハロウィン前に解放したし」
「……なるほど」
ゲルデラーはちらりとミルミの後に控えているラザンを見た。
ラザンは軽く苦笑しながら、茶の準備を始める。
「それにしても、なんでそんなにボロボロなの? 階段からおっこちたの?」
ミルミは、ロドリーゴの姿に首を傾げる。
髪の毛はまだ毛先がカール状態。
足にはギブス。腕にも首にも厚く包帯が巻かれていた。
「余にもよくは解らんが。仲間内でも大きな誤解があったようでな」
ゲルデラーを睨むが、ゲルデラーはラザンから茶を受け取り悠然と飲んでいた。
「ふーん。早く治るといいね。その頭。いっそ、スキンヘッドにしちゃったらどうかと思うよ? それとも完璧なアフロの方がいい?」
「……どちらも勘弁願いたい」
ロドリーゴも茶を受け取ると、ミルミから目を反らしてずずっと飲んだ。その話題にはこれ以上触れられたくない。
「でね、別荘があった場所には、ミルミとお手伝いしてくれた人達が楽しめるようなものを建ててもいいって言われてるの〜」
ミルミがアルコリアに撫でられながら、目を輝かせて皆に言った。
「その件ですか……。私は百合園主催で他校の生徒を招くようなイベントや会議に使えるホールなんかが建つと良いかなーって思います」
イルミンスールのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が言うと、パートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)とジンギス・カーン(じんぎす・かーん)も一緒に頷いた。
「今回の別荘解体みたいに、色んな学校の奴等が集まれたら面白いしな」
「百合園は男性が入れないっていう決まりがあるから、その点でも利用価値があるといいよね」
「うん、ホールは便利だよね」
3人の言葉にミルミは頷いた。
「我は、6校で使用する施設を建てることを推そう。今回の件やヴァイシャリーで起こったらしい事件をきっかけに百合園とパラ実の関係が悪化したりはしないようにな。運営にもパラ実生を一枚咬ませてみたらどうだ?」
そう提案をしたのは薔薇学の藍澤 黎(あいざわ・れい)だ。
「別荘にいた不良やパラ実生は周囲に迷惑をかけたようではあるが、彼等にも彼等なりの筋が存在し、パラ実生にも賢明な人材は多いと思われる。聞けば白百合団の副団長が四天王になったという話。折り合いをつけることが出来るのではないか?」
「6校……うーん、6校」
ミルミはアルコリアの膝の上で考えこむ。
黎は別荘の不良達数人と直接会話をし、彼等の境遇について聞いていた。そして、色々あってあの別荘に流れ着いた彼らに必要なのは居場所だと感じていた。
「俺もその案に賛成だ。まあ……色々あったが。瓦礫をきちんと除去し、念入りに清掃と害虫駆除を行なった後なら、不良達を呼んでも大丈夫だろう。無論、不良だけの住みかにはならないよう、管理者は別に必要だが……。そうだな、合宿所とかはどうだ?」
「そうですね。道場も設けて、その四天王の演説や試合などを定期的に行なってガス抜きをすれば、パラ実生も多少は大人しくしているかもしれません」
イルミンスールの姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)、蒼空学園の志位 大地(しい・だいち)は、6校で使用できる施設として合宿所を提案する。
「なんだかアフロヘアーが流行っていたみたいだから、アフロ、モヒカンを専門とする床屋を設けてやるといいかもな」
「それと、あの事件を忘れさせないためにも、ドーナツ屋は必須だと思います」
「それは、やめていただきたい……こちら側にとってもトラウマだろう」
星次郎と大地の言葉に、まだアフロが抜けきらないロドリーゴが控え目に意見する。
「いやしかし、パラ実生は頭の中身はないのに、頭の形には気を使う者が多いようだからな。床屋は必須だろう」
「女性は甘いものに目がありません。百合園生のためにもドーナツ屋は必要かと思います」
「そうですわよね。はいどうぞ」
少女が箱の蓋をあけて、まずはロドリーゴに差し出す。
中には大量のドーナツが入っている。
すっと顔を上げたロドリーゴは、荒巻 さけ(あらまき・さけ)の輝く微笑みを見た。
「とーってもおいしいですわよ。空京のミス・スウェンソンのドーナツ屋、ミスドのドーナッツですわ」
突如場が静まった。
「皆さん、召し上がって下さいね」
さけが回していくドーナツを誰も拒否できなかった。
「ん、とね、もぐっ」
アルコリアにドーナツを口に入れられながら、ミルミが喋り出す。
「あそこは、ミルミの家の敷地だから、ミルミの家にとっていいものじゃないとダメって言われちゃうと思う。お店とかを開くのも大丈夫だと思うんだけど、他の学校と共同で使うものとかだと、それだけじゃミルミん家が損しかしないからダメなんじゃないかなぁ〜もぐもぐ」
「それじゃ、また別荘建てたらどう? ミルミさん家が使わない時は貸し出すとかしてさ〜。予約制になっちゃうかもだけど、誰でも利用できる別荘に普通に造りかえるのが一番だと思う! ぶっちゃけ自分が使いたいんだけどね」
蒼空学園の弥隼 愛(みはや・めぐみ)はそう提案をし、笑みを浮かべる。
「私もそれがいいと思います」
パートナーのミラ・ミラルド(みら・みらるど)は愛の怪しい笑みに軽く眉を顰めるも、意見には賛成した。
「おっと執事さん、ミラのお茶のお代わりお願い。外は寒いから、暖まっておかないとね〜」
ミラのティーカップが空なっていることに気付き、愛がラザンにお代わりを頼む。
「ミラも頑張ったんだから、ガンガン意見言っていいんだよ」
愛に微笑みかけられ、ミラは少し赤くなる。
今日の彼女はとても優しい。そして、自分を気遣ってくれるのだ。
「以前の構造ではお手洗いが少なかったようですので、個室も多くして、各階に洗面所やお手洗いを設けると良いかもしれません」
ミラは照れ隠しのように、そう意見を出した。
「個室は必要だよね。二人部屋が特に必要かな。夜が楽しめるように、寝室はゴージャスにしたいなぁ……ふふふっ」
愛は怪しい含み笑いを漏らす。
「お待たせいたしました」
ラザンが紅茶をミラの前に置いた。
「あ、こっちのクッキーも美味しいよ、ミラ」
愛がクッキーを皿にとって、ミラに渡す。
「ありがとうございます」
優しくしてくれる愛にミラはなんだかドキマギしながら、クッキーを口に運ぶ。
「貸し出すのか〜。それなら大丈夫かな? 管理する人は必要だけど〜もぐもぐ」
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