リアクション
○ ○ ○ ○ ルリマーレン家別荘跡地では、今日もボランティアによる跡地の整備が行なわれていた。 地上の瓦礫の撤去はほぼ終わっているのだが、地下に落下した分の撤去が難航していた。 「思えば、色々ありましたね……」 「色々あった」 蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)がしみじみと言い、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がこくりと頷く。 「ゴキブリ使って暴れたり、全裸になって暴れたり」 そして、月夜は握り拳を固める。 「そう! 変熊、次は勝つ!」 刀真が言った途端、月夜の右ストレートが刀真の腹に決る。 「ごふ……っ」 膝をつき、頭を垂れた刀真はそのまま懺悔をする。 「ウィルネスト、ケイ、他の巻き添えになった皆にも、G関係では迷惑をかけしました」 こくりと月夜は頷く。 「歩は……別荘突入の後は平気だったかな?」 共に突入した歩のことを思い浮かべる。 「そして、呼雪達のお陰で命拾いした。有難う」 仲間への感謝の言葉を述べながら、よろよろと刀真は立ち上がる。 「いや……ホントに俺、アホな事しかやってないな〜」 「うん、恥ずかしい事ばかり」 刀真の言葉に、間をおかず、月夜が厳しい言葉を投げる。 苦笑した後、刀真は更地に戻りつつある周囲を見回した。 「さて、あの不良達はどうやらほぼ回収されたようですね。あとは地下をどうするか決めるだけですね。地下に『何か』あったという話ですし、掘り返して行ってみますか。途中で誰かが見つかったら助けるのもやぶさかではありません」 「地下に行くの? 人は埋まって無いよ」 地下に向かう刀真に、急ぎ足で月夜は追いつく。 万が一Gを発掘してしまっても、倒すべき相手はもう誰もいないので大丈夫なはずだ。刀真はもう変なことはしないはずだ……おそらくたぶんきっと……。 「瓦礫、沢山。小人さん、手伝ってくれる?」 月夜は小人の鞄から、小人を呼んで片付けを手伝ってもらうことにする。 地下の瓦礫の奥、妖精のような姿の種族が眠っていた場所には、唐草模様のほっかむりを被った男が立っていた。 「…………」 しばらくして、サンプルを独り占めしようと意気揚々と訪れた青 野武(せい・やぶ)が声を上げる。 「なにぃ、何もないだと!?」 「それはそうですな。すべて飛び立ってしまいましたから」 驚く青にシラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)が当たり前というように真顔で言う。 瓦礫の先にあったのは何もない空間だった。 無機質で厚い壁だけが広がっている。 「それなら侵入前に一言言うて欲しかったぞ」 「いやてっきり残留遺物の調査だとばかり……違ったのですか?」 そう真顔で返すシラノだが、青に付き合い彼もほっかむりを被っている。ほっかむりを被る時点で青の勘違いに気付きそうなものだが、気付かない辺り、類は友を呼ぶというか……。 「ええーい、ならばせめて遺留品なりとも拾って帰るぞ」 青は執念でその空洞の中を調べる。 屈んで歩き回り、這うほどに床に顔を近づけて、砂粒ほどの欠片も逃さぬよう。 シラノも青に付き合って、隅々まで調べていく、が。 「何もないー!」 どんなに調べようと何一つ見つからなかった。 「床には何もありませんでしたが、壁の模様は独得ですな」 「ん?」 シラノの言葉に、青は壁に目を向ける。 瓦礫が積まれている場所とは反対側。つまり奥の壁に薄っすらと模様が記されている。 「魔法陣のようじゃの」 触れてみても何も起こらず、それは単なる模様のようにも見えた。 一方。もう1人の青に連れられてきたほっかむりを被った人物、黒 金烏(こく・きんう)も、周辺調査を行いブラヌ・ラスダーなる人物を確保に成功していた。 なんとも表しがたい地獄のドーナッツの残骸の中にいた彼を発掘し、仲間達を含め治療を施した後、黒は勧誘を始めたのだった。 「ふむ、諸君、なかなか良い体をしていますな……教導団に入りませんか? 三食付で給与も出ますぞ。体も鍛えられますし、学も付きます。礼儀も身について就職にも有利」 なんだか日本でも聞くような勧誘文句だ。しかしブラヌ達はうめき声を時折上げているだけで、彼らの意識はこっちの世界に戻ってはこない。完全に現実逃避してしまっている。 「教導団もいいですが、今すぐ学校を卒業して保父になってはいかがでしょう。はい、保父です。ボブじゃないです」 軽快な声を発し、女性が近付いてくる。 途端、その声に皆の顔が苦痛に満ちる。 「お土産です。目が覚めますよ」 女性――あの荒巻 さけ(あらまき・さけ)のパートナーである蒼空学園の日野 晶(ひの・あきら)が、箱からなにやら取り出して、少年達の目の前に近づけた。 「うっ、ぎゃああああああああああああーーーーッ」 突如叫び声を上げたかと思うと、少年達はカクリと意識を失っていく。ブラヌを除いて。 「うぐぐぐっ、くそ……っ」 「こんな状況下でもクソという言葉が出てくるとは。やはりなかなか見所がありそうですね。こちらは給料の前払いということで差し上げます」 晶はどさりとドーナツが大量に入った箱をブラヌの目の前に下ろした。 まるでそれは、逃げられないぞという脅しのようでもあった。 突如ガシッとブラヌは黒の腕を掴む。 「き、教導団に入りてぇ……」 半泣き声だったという。 「それじゃ、休憩にしようか」 ドーナツ組みから少し離れた位置で、イルミンスールの和原 樹(なぎはら・いつき)は大きな鍋をかき回し、器の中によそっていった。 「豚汁っすね!」 色々あって……すっかり大人しくなった一部の不良がわらわらと集まってくる。 「サツマイモと豚肉と味噌だけだけどね。どうぞ」 「いただきます」 礼を言う者。 何も言わずに受け取る者。 ふて腐れぎみで、しぶしぶといったようにしたがっている者。 様々だけれど……。瓦礫の除去作業を手伝ってくれる不良達がいた。 「ふう……こっちも、順調だ。あとは地下だけだな」 分別を担当していた樹のパートナーフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が汗を拭いながら戻る。 「確かに順調だけどよぉ、アニキさっきも休憩とってたじゃん。なんか遠くの方で」 「あ、あれは休憩をとっていたのではない。止むを得ない事情があったんだ」 むっとしながら、フォルクスは言うもその事情はプライドにかけて話すことはできなかった。 しかし、不良の大半は察しているし、樹も勿論わかっていた。 ……そうGが出たのだ。 最初の時とは違い、腰を抜かすことも暴走することもなく、逃げるというスキルを覚えたあたり、フォルクスも成長したな、と樹は密かに微笑んだ。……と、不良の1人と目があって、なんとなく一緒に笑い合う。 「随分と片付いたな。皆が居てくれたお陰で」 樹の言葉に不良達は複雑な表情を見せる。 「建築の人手も募るようだし、このまま働けばいいだろう。こうして食事も出る」 豚汁を受け取りながら、フォルクスが言った。 「ま、考えてやらあ」 比較的陽気な不良がそう言うと、他の不良達は返事代わりに豚汁を一斉に食べ始める。 「俺も戴くとするか」 樹は自分の分もよそり、不良達の中に入って豚汁を戴くことにする。 「温まるな〜」 声を上げると、頷く少年達がいる。 そんな少年達の姿に、樹とフォルクスは顔をあわせて頷きあった。 明日にはもっと仲良くなれているだろう。 「建造物を立てた後、植え替えや移動が出来るように植えていきましょう」 蒼空学園のリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、取り寄せた花の種、苗を持って、別荘跡地に花を植えていた。 「花の成長を見にきたと言えば次来る時の理由にもなるし」 「楽しみだねぇ。お花の成長もだけど、妖精の子供達の成長も〜」 そう言葉を発したのは、エルと蒼だった。 「エル神様も同じことを考えていたのですね」 近くで作業しながら、リュースが微笑んだ。 地球にいる家族が花屋を営んでおり、パラミタにこなければリュースも花屋になっていたはずだった。 「悲惨な大虐殺が起こった場所だからこそ、心休まる場になれればと思いまして」 呟きながら器用に、丁寧に、苗を一本一本植えていく。 エルの方はリュースほど花には拘っていなかったけれど、蒼とともに、花壇の土を耕し、花の種を植えていく。 「……ん? でも、大量虐殺なんて起こってないよぉ〜?」 リュースの言葉を不思議に思い、蒼はリュースに目を向けるが、リュースは作業に没頭しており彼の耳には届かなかった。 「もう二度とこの場所が荒らされたり、悲しむ人々が出ませんように」 リュースは勿忘草の苗を植えた。 冬を越して、きっと春には綺麗な花を咲かせてくれるだろう。 この場所で大量の死者が出たのは5000年前の話。 大虐殺はリュースの思い込みだったけれど、もしかしたら彼の心には、この場所に眠るずっと昔の人々の悲しみと思いが届いていたのかもしれない。 |
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