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聖夜は戦いの果てに

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 第4章 団長バーサスGA!(団長LOVE編)


「んー、団長居ないですねぇー」
 昇降口近くの自動販売機に寄りかかってコーラを飲みながら、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は途方に暮れていた。うんちょう タン(うんちょう・たん)はコーンポタージュを、皇甫 嵩(こうほ・すう)は緑茶を飲んでいる。
「もう、探すところないですぅー」
 各教室に音楽室、美術室、校長室、家庭科室、柔道場に体育館、進路指導室に図書室。実習施設とはいえ、ここはシャンバラ教導団本部と何ら遜色ない設備を持っていた。その全ての部屋を探したつもりだったが、『謎の主催者(ほぼ100パーセント団長)』は見つからない。
「帰っちゃったんですかねぇー」
「あの団長が一度決めたことを覆すわけがありません。必ずどこかに居るはずでございます」
「そうでござる。まだ探していない場所に必ずおわしましょうぞ。諦めないで探すでござる。彼を見習って」
「あれは見習いたくないですぅー」
 うんちょうが指差した先には、同じ目的【団長LOVE】ということで協力しているサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)がいる。
「団長〜ドコですカ〜?」
サミュエルは、自販機の横にあるゴミ箱をひっくり返して、缶をぶちまけながら団長を探していた。床は、飲みかけのジュース類が零れてすごくキタナいことになっている。どんなびっくり人間でも、こんな所には隠れないだろう。
うんちょうは飲み終わった缶を持って立ち上がり、捨てるところがないので結局窓枠に缶を乗せる。そして、身体に異変を感じた時――ひらめいた。
「! いや、まだ探していないところがあるでござる」
「どこでしょう?」
「厠でござる」
『……………………』
 伽羅と嵩は顔を見合わせ、沈黙した。
「そうか」
 納得したように頷いたのは、嵩だった。
「何言ってるんですぅー! 団長はトイレなんて行きませんー! うん……むぐっ」
「それ以上は放送禁止でございます! 言ったらこのリアクションがまるごとボツになります!」
 嵩が伽羅の口を塞ぐ。しばらく伽羅はもごもごしていたが、やがて諦めたのか力を抜いた。
「でもぉー」
「それがしが見てくるでござる」
「あ、ではそれがしも……」
 手始めに近くのトイレに向かう2人を、伽羅は膨れ面で見送りかけ…………立ち上がった。
「私も行きますぅー。ほら、あなたも来るんですよぉー」
「ハイ?」
 結局、4人はぞろぞろ仲良くトイレに向かった。

 ジャーーーーーー……
 ドアの閉まった個室から、水の流れる音が聞こえる。その後、ジィイーーーーーっというチャックの閉まる音。
(なんだ、ゆる族の人じゃないですかぁー。うん……むぐっ!)
(だから! それ以上は放送禁止だと言っているじゃございませんか!)
(でなくても年若い乙女が口に出して良い言葉ではないでござる)
(ゆる族ってドウやってするんダろうネエ。ウン……)
(だから!)
 そこで、個室のドアがゆっくりと開いた。中から出てきたのは――
 トナカイの着ぐるみだった。
 いろいろな意味でほっとする一同。しかし。
「何だね伽羅君。ここは男用だぞ。女性が入って良い場所ではない。出て行きたまえ」
『……………………』
「だぁぁぁぁぁんちょぉぉぉおぉぉおおおおおぉぉぉ!! 俺だぁぁぁぁ! 結っk」
「断る!」
 トナカイに走り寄ったサミュエルを、団長は拳の一発で撃沈させた。着ぐるみだろうが、やはり団長は強い。
 一方、伽羅は。
「うぅーーーん……団長がう○こ…………」
「ああああああああなんてことをおおおおおおお!」

 気を取り直して。
「それで? 私に何の用だね。今日、君達はイベントに出席しているのだろう?」
 廊下を歩きながら、トナカイ――団長――金 鋭峰(じん・るいふぉん)が訊く。
 伽羅は以前に掲示板からひっぺがした紙を開いて、団長に見せた。
「これはどう考えても団長の文章ですぅー。未熟者ですが、一手御指南をお願いしますぅー」
「ふむ。ばれてしまったのなら仕方がない。相手をしようか」
 団長は手近な剣道場の引き戸を開けると、中に入る。というかここを目指していたとしか思えない。そのまま全員、戦闘態勢に入るかと思ったが、たんこぶを作ったサミュエルが素朴な口調で団長に言った。
「ドウして、トナカイの着グルミデスカー?」
 訊きたくても訊けなかったことを、と伽羅達は内心で拍手喝采する。
「特に他意は無い。クリスマスイベントの日にクリスマスらしい格好をしたまでだ。何か問題があるか?」
「イ、イイエ!」
 団長は、暁の剣をすらりと出して、伽羅とサミュエルに言う。
「まずは、2人で決着をつけたまえ。勝利した者と剣を交えるとしよう」
 伽羅達の間に緊張が走る。
「お待ちください」
 そこに割って入ったのは、嵩だった。
「そのようなルールは掲示されておらなんだ筈にござります。団長おん自ら前言を翻すようなことがあっては、爾後団員は困りまするぞ」
 まさかの直諫に、場の緊張は益々高まる。
 団長と嵩は、数秒間睨み合いを続けた。
「――わかった」
 団長は改めて、暁の剣と紋章の盾を構えた。
「では、2人まとめて相手をしよう」
伽羅も、雅刀と紋章の盾を構える。
「本当は団長にすぐプレゼントしたいケド、ルールなので手合わせお願いシマス」
サミュエルは、ライトブレードはあえて出さずに紋章の盾のみを構えた。団長に怪我をしてほしくなかったためである。
 うんちょうと嵩が黙って身を引き、後ろに控える。
 おそろいの盾を構えた3人は、気合と共に戦闘を開始した。
 団長の剣戟を伽羅が受け止め、吹っ飛ばされる。そこに、サミュエルが盾を捨てて組み付き、団長の動きを止めようとする。しかし、凄まじい覇気に煽られ、サミュエルは腕を離した。それでも何とか体勢を崩させようと、彼はトナカイの角を掴んだ。着ぐるみの頭がはずれ、団長の鬼気迫る顔が現れる。
「! 団長! 俺と結っk……」
 本能のままに団長の唇を狙うサミュエル。目をハートにした彼に迫られ、別の意味で危険を感じた団長はサミュエルに回し蹴りを手加減なしで見舞う。
 ほぼ同時に。
「サミュエルさん、抜け駆けですぅー!」
 雅刀の柄を、伽羅に思いっきり叩き込まれた。顔に。
「っーーーーーーーーー!」
 そのまま床の上を滑り、サミュエルは後頭部を壁に激突させて動かなくなる。
「きゅう」
「団長っ! 行くですよぉーーーーー!」
 刀を返し、団長の胴を狙って刃を振るう。団長はそれを盾で防ぎ、剣を突きつけた。紙一重で避けた伽羅の頬に赤い線が走った。
 怯むことなく攻撃を仕掛け、剣と刀が火花を散らす。
「義姉者、楽しそうでござるなあ」
「ええ、今日は参加して良かったでございますね」
「貴公にはいないでござるか? その……想い人というやつは」
「おりましたよ。まあ、はるか昔の話でございますが」
 その時、伽羅の刀の剣圧が、トナカイの着ぐるみに直撃する。着ぐるみが裂けてめくれ、中身が覗く。タンクトップの下の肌に残る大きな傷が、伽羅の目に入った。
「あっ……!」
 彼女が動揺した隙を突き、団長が剣を閃かせた。剣先は、伽羅の眉間を刺す直前で止まる。
「…………」
 驚きで目を見開き――
「参りました、ご講評をお願いしますぅ」
「――うむ。剣の技は上がっているが、精神鍛錬がまだ足りんな。戦場では一瞬の油断が命取りになる」
「精進しますぅー。ルールですから受け取ってくださぁい」
 伽羅は、可愛くラッピングした巾着袋を差し出した。中には、高級刀お手入れセットが入っている。
 団長は表情を緩め、受け取った。
「ありがたく使わせてもらおう」
「だぁんちょぉおぅ〜」
 2人の足元で、半死半生のサミュエルがプレゼントを渡そうとしている。携帯どこでも密書セット(あぶり出しインク筆ペン)である。団長は、ものすごく嫌そうな顔をした。
「ルールですカラ受け取ってクダサイー」
「…………あとで捨てておこう」
「そんナぁー。でも、団長大好きデス……」