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7.幽霊退治

 話は戻って、学食の厨房。

 今まさに攻撃態勢に入ろうとする幽霊に対して、
「待って! 幽霊さん、私の話を聞いて!」
「俺も!」
 2名の勇敢な【交渉役】が立った。
 舞と雪ノ下 悪食丸(ゆきのした・あくじきまる)である。
 舞と同じ【百合園女学院推理研究会蒼空学園支部(仮名)】の朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、説得が終わるまでシイナが無茶な行動に出ないよう見張っている。
 岩造は空気を察し、攻撃隊に待機するよう呼び掛ける。
 悪食丸は前に出て、舞を背にかばった。
「ここは、俺に任せてくれ! 【血盟戦隊ジャスティスブラッド】のレッドとして、何とかしてみせるから!」
 そして幽霊に向き直って、懸命に説得する。
「なあ? お前『地縛霊』なのか? 
 場所に憑依してても代わり映えしないだろ?
 俺に取り憑けよ、俺の守護霊でもやってくれ! 
 退屈はさせないぜ」
「えーっ! 取り付くなら女の子の方がいいよおーっ!」
 幽霊は駄々をこねる。
 好みがあるらしい。
「で、では! 私ではどうなの?」と舞。
「1人で悩まないで下さい。
 1人で解決出来ないことも皆で力を合わせればきっと解決出来ます。
 それが例え、誰の守護霊になりたいのか? という好みの問題であっても。
 さあ、皆で一緒に考えましょう!」
 手を差し伸べる。
「取り付きたいのは、30歳以上限定だよ」
 幽霊は「熟女」好きらしい……。
「待って下さい! 僕では駄目ですか?」
 出てきたのは、3人目の【交渉役】元退魔師のウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だ。
「私の専門家としての勘で言い切ります!」
 スウッと目を細めて。
「キミは、話し合うつもりはないのでしょう? 戦うことで、何かのメッセージを伝えたいのでは……」
 その言葉は、最後まで言い終わることは出来なかった。
「ぶううううっ! 時間切れ。今回も交渉決裂うっ!」
 テイク、オフッ!
 幽霊は大きく筋肉を膨らませて、非行姿勢に入る。
 だが台詞が言い終わらないうちに、岩造は献立表を抜き去り、食堂へと駆け出していた。
「逃げても無駄だよーん」
 ニイッと笑い、幽霊壁を蹴りその反動で食堂へと飛び出す。
 
 しかし、今度は勝手が違った。
 
 食堂に彼が降り立った途端、幽霊は岩造をはじめとする【龍雷連隊】、そして「幽霊退治」に駆けつけてきた【護衛隊】らの総勢16名に囲まれてしまったのだ。
 シリウス、セイ、ミランダ、フェイト、カガチ、真、岩造、静麻、クリュティ、魅音、レイナ、ウィング、リアトリス、悪食丸、エミィーリア、空の各自は、火術、光術、爆炎波、星輝銃、光条兵器の攻撃で畳み掛ける。
 ヘルゲイトはパワーブレスとヒール、ディオネアはヒールと医術で支援する。
 リアトリスから指示を受けたスプリングロンドは、安全地帯を見つけて移動させる。
 皐月味方の防御に徹している。
 幽霊はもはや虫の息だ。
「お、俺も逃げないぜ!」
 幽霊の恐怖に足を震わせながら、シリウスはやはり炎術をベタに叩き込む。
 千鳥足となり、幽霊の動きは止まる。
 あと一息のようだ。
「あなたは、あなたの世界にお帰りなさい!」
 エミィーリアは攻撃隊を擁護しつつ、炎術を鞭状にして投げる。
 それはしなやかな炎の鞭となって、彼の体に絡みつく。
 片手を上げ、もがき苦しむ幽霊。
 彼はしばし悶えた後、煙の如く消える。
 
 かくして幽霊は退治されてしまった。
 
「あっけない……これで良かったのでしょうか?」
 自身の退魔師としての経験から、ウィングは眉をひそめる。
 悪食丸は武器を収めつつ「南無阿弥陀仏」と合掌している。
 
 ◆ ◆ ◆
 
 その後幽霊が残した3アイテムを拾い、テーブル席について一行は議論をはじめた。
 
「寄贈品のギターの文字に、卒業生の冒険小説に、戦死した生徒の定食名が載った献立表、か」
「ギターの文字は『勇気』。冒険に必要なものは『勇気』。戦いに必要なのも『勇気』……」
「そして、蒼空学園のモットーは『開拓者精神』。これも『勇気』が必要だな」
 あらかた出尽くしたところで、シイナが総論を述べる。
「つまり、『単なる季節外れの肝試し」と言う訳ではなかった、ということか」
「何か理由があって、ここにいらっしゃったのだと思います……」
 俯きつつ、けなげに意見するのはユキノ。
「あたしは、その……心残りがあるのなら、ええと、それを叶えて差し上げれば良いと。思っていたのでございますが……」
 彼女を眺めて春美も頷いた。
「春美も……その、ユキノさんと同意見かな? 幽霊さんは悪さをしに出てきたのではなくて、何か伝えたいことがあるのではないかな、て……」
 言い終わらないうちに、ぼうっと食堂全体が昼のように明るくなった。
 片手をかざし、一同は目を細める。

 光は真昼のように周囲を照らしていた。
 何か喜んでいるかのような、穏やかな光だ。
「光……ひょっとして、幽霊さん?」
 春美の声で、一同はハッとして席から立った。
「そんな! 春美やユキノの話は、正解だったってことなの?」
 ブリジットが信じられないとばかりに呟く。
「だって、この光は……どう考えたって悪霊のものではないわよね……」
「行こう!」
 誰かの声を皮切りに、一同は慌てて光の中心――「霊体」に向かって歩を進める。

 ◆ ◆ ◆

「あの……」
 戸惑いつつも、最初に金色の「霊体」に向かって語りかけたのは春美だった。
「さっきも言ってたの。あなたは、その……悪さをしに出てきたのではないのでしょう?」
「霊体」を取り巻く光は嬉しそうに一瞬輝きを増す。
 次に語りかけたのは亜夢。
「いい幽霊さんなんだよね? 本当は」
 光はやはり嬉しそうに一瞬輝きを増す。
 次に語りかけたのはセイ。
「そうだよな? だから擦り傷程度の被害しか与えなかったんだろ? お前」
 光はやはり嬉しそうに一瞬輝きを増す。
 次に語りかけたのは悪食丸。
「正義の味方としての直感だ! おまえは悪霊なんかじゃない!」
 光はやはり嬉しそうに一瞬輝きを増す。
 次に語りかけたのは舞。
「【百合園女学院推理研究会蒼空学園支部(仮名)】の名にかけて! あなたは何かを伝えようとしたんでしょう? そうよ! きっとそうに違いないわ!」
 光はやはり嬉しそうに一瞬輝きを増す。
 最後に語りかけたのは、ウィングだった。
「キミは何か、大切なこと――『勇気』が必要だということ。でもそれは『力』ではないのだ、ということ。それを伝えたかったのではないのですか? どなたか、とても大切な方に……」
 光が輝きを増す。
 そのとたん、一同の脳裏にこれまでの探検が走馬灯のように駆け巡った。
『君達の、これまでの【勇気】を称えるよ。勇者達殿――』
 少年の声だ。
 と、光は急速に収束。
 光の玉となって、弾丸のごとく庭園方面へと向かう。

「待って!」
 シイナが走りはじめた。
 とても必死な、そして彼女らしくない泣きそうな形相で。
 一同は首を傾げつつも、非常口を開け、光の玉を追い掛けていく……。