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リアクション
(3)シャンバラ教導団スペース
シャンバラ教導団スペースには献血用の車とパイプ椅子、という無機質な空間にスタッフが常駐していた。教導団衛生課の夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)と姿の見えないデュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)が輸血用の血液を確保するべく働いている。
「多発する紛争などで減っていく輸血用血液を確保する為、ご協力お願いします!!」
そんな声が聞こえたのか、男女の2人組が近づいてきた。日比谷 皐月(ひびや・さつき)と雨宮 七日(あめみや・なのか)である。七日は献血という言葉にぴくりと反応すると、あるうわさを思い出しさっと視線を彩蓮のほうへ向けると目当ての物を見つける。
「皐月、あれ……」
つい、と指差した先には協力者へのお礼が書いてある移動型ホワイトボードがあった。
「ん?」
皐月は先ほどから少々機嫌の悪い七日をどう扱っていいか迷っていたので、彼女のほうから話しかけてくれたものは極力のってみたいと思っていたようだ。
■採決後には下記のお礼を差し上げています
A案 スマイル
B案 簡易茶屋で使える金券(団子と交換)
C案 散弾掃射
「……なんだ、ありゃ?」
「B案の簡易茶屋とは隣のスペースでしょう。皐月、私は甘い物が食べたいので血を売ってきなさい」
「なんで七日はやらないんだよ!」
「全く、貴方は本当に愚図ですね、皐月。200ミリリットルの全血献血は16歳以上で体重が男性45キロ、女性40キロが必要。私はそのどちらの条件も満たしておらず、かつ、家で本でも読んでいたかったところを付き合っています」
ぐぐ……!!
別に、団子くらい買えばいいじゃねーか。そう思いつつも半引き篭もりの彼女を無理やり連れ出したのは事実なので協力することにした。人助けはいいことだ、うん……。
「あのぉ、献血いいか?」
パイプ椅子に腰かけながら皐月が彩蓮を呼ぶと、何も見えなかったところからカチャカチャした音がして、ふわぁりと記名が必要な書類とペンが飛んでくる。機材の消毒をしていたパートナーを助けるために、デュランダルが気を利かせたようだ。
「はーい、お2人ですか?」
「いや、オレだけ」
「献血、デートついでによる人も意外と多いんですよ」
デート、という言葉を聞くと七日の無表情に冷たさが走った。皐月は献血を済ませると、血が出ている場所にガーゼを当てながら立ち上がり茶屋のほうを向いた。
「よーっと、終わったな。じゃあ、Bのチ……」
「Cで」
「はい、C案ご指名です!」
ピシッと命令口調で七日が言いきると、皐月の背後でジャキン! と嫌な金属音が鳴った。
「ちょおおおお、まあああああああ!!!!!」
献血スペースの隣では佐野 亮司(さの・りょうじ)と向山 綾乃(むこうやま・あやの)の和風簡易茶屋が開かれていた。この敷地は本来学校スペースだ。蒼学など学校としての参加がなかった団体が存在したのと、彩蓮が献血後のチケット配布に協力してくれる団体を募集していたということで認められたらしい。椅子や荷物の準備が終わり、亮司は釣銭を確認しながら客を待っていた。
「亮司!」
声の先には方向感覚の鈍いレイディスがパンフレットの地図を、こっちの店がここだから〜と言いつつ、くるくると回しながら歩いてきた。
「レイ、よく来れたな」
奥にいる綾乃に団子を頼むと、綾乃は3人分のお茶と団子を持って一緒に出てきた。料理は彼女が担当しているが、まだ歓迎会がはじまって時間がたってないので客足はまばらである。少し話をするくらいなら問題はなかった。
「パンフレット見たら、在校生だけと楽しみたくなってな!」
団子にぱくつきながらほくほくした表情で報告してくる友人を、亮司は熱い茶をすすりながら眺めている。
「へー、どこ行ったんだ?」
「キャバクラ!」
……。
ぶーーーーーー!!!!!!!
「りょ、亮司さん。波羅蜜多実業高等学校の出し物ですよ?」
盛大に茶を吹いたのちに、3秒後に死ぬ人のごとく咳をしている亮司を見て綾乃は慌てている。背中を優しくたたきながら、ごめんなさいとレイディスに謝りながらも綾乃は興味深そうに話の続きを求めた。
「キャバクラってどんなところでしたか?」
「そうだなー、綺麗で大人っぽいお姉さんとちっちゃくてかわいい女の子がいたな〜」
「楽しそうですね、ふふ」
「……ごほっ」
友人の未来が心配になりつつも、その後は和やかに談笑していた。
「会場にお集まりのお客様にお知らせですぅ。もうすぐ特設スペースでの部活紹介スピーチと、イルミン武術部の出し物が始まりますのでどうぞお集まりください」
「お、もうこんな時間か。うまかったよ、いくら?」
「レイ、お前いくつだっけ?」
「ん? 17だけど」
「じゃあ、血液200ミリリットルだな」
献血スペースを見ながらにやりと笑った。サングラスに隠れて表情は見えにくいがその姿はまるで……。
「闇商人! 俺は内臓は売らない!」
「だから闇商人いうなと」
さっと体を抱くようなポーズをとったレイディスに、亮司はおいおいとつっこみポーズをとる。そんな様子を綾乃はニコニコと見つめていた。
久世 沙幸(くぜ・さゆき)と藍玉 美海(あいだま・みうみ)は無線で連絡を受け、騒ぎが起きている献血スペースに向かった。なんでも銃声がしたとかで、念のため確認にいっているのだ。
「美海ねーさま!」
「どうやら、あの方たちのようですわね」
皐月が姿の見えないデュランダルに追いかけまわされており、騒ぎが関係ないように普段通りに過ごしている彩蓮と団子を食べている七日が見えた。
「ホラホラ、そこの蒼学生! いったい何をやってるのかな?」
沙幸が近づくと散弾銃はぴたっと止んだ。途中から来た人には皐月が暴れまわっているようにも見えたかもしれない。
「もう、あそこで喧嘩始めちゃって……。新入生がひいちゃってるじゃないっ。これは厳重注意ね」
「ちょ! 今日は何でこうなるんだよ……」
日比谷はうおー! と吠えると、七日に向かってもう行こうぜ? とため息交じりに提案する。走り回った皐月はがっつりした、主食になるものが食べたかった。
「皐月。手を、繋ぎましょうか」
「へ?」
「……人が多くて逸れてしまいそうです」
その手を皐月がどうしたかは七日しか知らない。
美海は新入生なのだろうか、初々しさの残る牧瀬 美空(まきせ・みそら)が転んでいるのを見つけて近づいて行った。
「あら、どうしたの?」
美空は腕章と蒼学の制服を見るを見ると安心したように笑顔を向ける。
「あの、魔法関係の出し物はありませんか?」
どうやらイルミンスールの学校スペースがなくて困っていたらしい。沙幸は後輩の前で少し張り切っている。
「えっとね。イルミンスール武術部の出し物がもうすぐ始まるよ!」
「ご案内して差し上げますわ」
「あ、ありがとうございますっ」
沙幸は今回のトラブルを無線で報告すると、後輩の女の子の手をひいて特設ステージまでつれていこうとした。
「魔法に興味があるのかしら?」
「はい、いろいろ教えてください」
共通の話題を見つけた名前の似ている2人はなかなか会話が盛り上がっているようだ。そこに大急ぎで走っている武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が少し沙幸にぶつかってしまった。
「わりぃ! 急いでるんだ!」
バランスを崩しそうになった沙幸を美海がそっと支える。
「あら、私の沙幸さんに何をするのかしら……」
先ほどまで魔法の話に少しついていけなかった沙幸だが、慕っている人が自分を見ていてくれているのが分かって嬉しくなってしまった。
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