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リアクション
(8)薔薇の学舎スペース+
珍しく制服姿で参加した変熊 仮面(へんくま・かめん)は新入生を白馬に乗せたりと、薔薇学生徒らしい働きを見せていた。しかし、馬はどこでもトイレにしてしまうし、乗馬経験のない男子生徒の世話をしているうちにムラムラ……じゃなかった、飽きてしまったようだった。
「こんな物は薔薇学ではないっ!」
変熊は乗馬体験のチラシと自分の服をバリバリと破き、白馬は巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)が美味しく食べてしまった。花屋から大量のバラを買い付け、彼はその前衛的なセンスで薔薇学のブースを自分色に染め上げていく。裏方スタッフの虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は薔薇学スペースに荷物の確認に来たのだが、資料にない巨大な……オブジェ? を見つけた。
「何だあれは……?」
ででーん! と、身長18メートルの巨大なゆる族が鎮座しているのはまだいい。本当はいろいろ問題があるが、まだいい。
「はい、はい〜。おひねりはこちらじゃ〜」
薔薇学スペースには自分が入れそうな大きさの巨大な箱が作られており、その前側にはなぜかカーテンが吊るされていた。その紐の先はイオマンテが持っているように見えた。涼はそれが勝手に作られたものだと見当はついたが、面白そうなので少し離れたところから眺めていることにする。
「あんな出し物もあるのか……」
涼が本部に報告すべきか迷っていたところ、カーテンが開き中からスケスケのレースをまとった変熊があられもないポーズをとっているのが見えた!! 口には一輪のバラをくわえ、アラビア風の音楽でカーテンが閉じて開いてを繰り返すごとにバリエーション豊かに、多彩な表現力で、はい、これでもか☆ と額縁ショーを繰り広げてゆく。
「……おぉ」
「おぉ!?」
涼が自分と同じように感嘆の声を上げるものを探すと、浅葱がネギを持って額縁ショーを見つめていた。
「そこの姉ちゃん! 寄っとき〜ポロリもあるけんの〜!」
イオマンテはブリジットとはぐれてしまった舞をおいでおいでと手招きした。
「あ、大きなヌイグルミさんですね♪」
ある日、歓迎会の中でクマさんに出会ってしまった舞は、花咲く薔薇の道を通ってイオマンテに向かっていった。
「おっ! そこの嬢ちゃん! 特等席御案内じゃ!」
イオマンテは舞を特等席に座らせた。浅葱は涼のスタッフ腕章を見ると『あの女の子、どうにかしてください!』と叫び自分は変熊に向かって突進していった。涼も確かにやりすぎだと感じたのか、カーテンが開かれると同時に舞を両手で目隠ししてやる。
「あ、あれ? どちら様ですか?」
「スタッフだ。放送事故があったので、しばらくこのまま後ろを向いてくれ」
舞は訳が分からなかったものの、言われたとおりに後ろを向いて涼に安全な道を誘導されながら帰って行った。
女性の黄色い声を期待していた変熊は怒りに震えていた。
「ええい、ご両親が泣いているぞ!!」
「こ、このままじゃ……ヤられる!」
さらに間の悪いことに新たな問題児もやってきてしまった彼の名は……。
「あ……、兄者。ど変態明智が来た……」
「ええぃ、うろたえるな!」
「ふ、ふふ。変熊さん……! 愛ッッ!」
遠くから薔薇学スペースの様子を見ていた明智 珠輝(あけち・たまき)が全裸にリボンを巻いて助けに来た。彼はおそらく紳士のTPOで、変熊に合わせた服装を考えたのだろう。状況が悪くなるばかりの浅葱の所持している武器はネギが1本のみ……。彼はこの野菜をアルティマ・トゥーレで冷気を放つ氷結の攻撃属性を持った即席の武器に仕立て上げた。
「うおおおおおおおお!!!!!!!!!」
浅葱は渾身の力を込めてネギを相手に突き刺してゆく!! 珠輝が変熊を庇ったように見えた気もしたが、攻撃が当たった感触だけ確かめると今度は全力で逃走した。どこにネギが刺さったかは定かではないが、薔薇の香りが漂うスペースには2人の美青年がレースとリボンをまとっただけの姿で夕日に照らされていた。
薔薇学スペースにほど近い場所に、スタッフの判断によって設置された謎の団体が出展していた。その名は……愛!部。部活を名乗りながら非営利組織という濃いめのコミュニティだった。樹月 刀真(きづき・とうま)は愛!部に売り子として参加し、ポエムや写真集の販売を行っている。
「は〜い、今この愛のポエムを買ってくれた方には追加料金でこの可愛い娘の朗読が聞けちゃうよ〜」
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は食費で本を買い込み、家計に穴をあけてしまったため助っ人として参加することになってしまった。顔を赤らめてうつむきがちに、唇を震わせながら朗読をする。
「更に! この写真集を買ってくれた方にはポエムを交互に読む事で睦言を交わしている気になれちゃうサ〜ビスが!?」
『おいで』と抱き寄せる貴方の手は優しくて
『うん』と答える私は幸せに包まれる
『好きだ』と呟く貴方の胸で、私はそっと目を閉じる
貴方の手が頬に触れて、私はそのまま顔を上げる
「そして私たちは……コレ凄くはずかしい!!」
刀真をバシバシと叩いて抗議をする月夜を軽くいなしながらも、にっこりと営業スマイルを向ける。
「うん、その恥じらいの表情が男性客を中心に馬鹿受け」
「うっ……だってあの本売ってなくて、高いけどあの場で買わないと次いつ買えるか分からなかったし」
「俺達の明日の食事の為にも頑張って下さい…君が本を買う為に使い込んだ分だけ」
ポエムが聞こえたのか騒がしいから目立ったのか、神楽坂が花梨を連れて愛!部のスペースにやってきた。刀真と月夜に軽く頭を下げる。レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)に差し入れの手作りプリンを持ってきたようだ。
「こんにちは、レイスがいつもお世話になっております」
「来てくれたのか?」
「やほ〜レイスちゃん、珍しいね〜真面目なのは」
奥から在庫の整理をしていたレイスがちらりと花梨を見る。花梨の服や香水に気付いたのか、オーバーリアクションで驚いて見せた。
「馬子にも衣装だな」
「大きなお世話〜」
花梨は顔は笑ったまま、刀真達に見えない角度でゲシゲシ!! と足で踏んでいる。
「部長さんはいらっしゃいませんか?」
神楽坂が尋ねると、レイスは苦笑いして首を横に振った。
「部長は〜、もうしばらく帰らないだろうな」
見ると他の部員たちも苦笑している。聞かないほうがいいことなのだろうと判断したが、せっかくここまで来たのだからもう少し待たせてもらおうと思った。
「ねえねえ、薔薇学スペース行こうよ!」
「か、花梨……私、漆髪 月夜。もう少し、その、いたらいいよ」
薔薇学スペースに今行くとこじれる。そう判断した月夜は自分が朗読をやめるきっかけをつかむ効果も兼ねて、花梨と友達になろうとした。
「どこ行ったんだー!?」
飛鳥 桜(あすか・さくら)は美少女戦士部の宣伝をしようとしたのだが、一緒に来たフランシス・フォンテーヌ(ふらんしす・ふぉんてーぬ)が見つからずにうろうろしていた。
「さーて、お兄さん頑張って売りますか!」
見つかった兄は髪を1つにくくり、青いシャツでホスト風にめかしこんでいる。彼は愛!部のブロマイド屋を担当しているようだ。桜を見ると、彼はおいでと手招きをする。なんだろうと近づくと、愛!部のでっかい旗を渡された。
「えええ!? 僕に看板娘をやれって言うのかい!?」
「美少女戦士部は正義の味方なんだろう?」
「うぅ……」
ジト目で兄をにらむと、桜はヴァルキュリア・サクラの衣装に変身して旗を持つ決意をした。パトロールがてらに歩いて宣伝するようだ。
「いいさ、これも人助け……! 人助けはヒーローの基本なんだぞ!」
「私も色々紹介したい!」
「紹介ですか、どんなのでしたっけ?」
桜の声を聞いて月夜も声をあげた。銃を取り出しポーズを決める。
「地下射撃場!」
「ここで実弾ぶっ放すつもりですか!?」
それもそうかとカバンから本を取り出す。
「む〜……イルミンスール大図書館」
「その本貸し出し期限過ぎてませんか? 今度の休みに返しに行きましょう」
そういうのじゃないー! と月夜は刀真に抗議している。そんな2人を横目に桜は部の宣伝のため、旗を振りながらパトロールをしていた。すると、桜とフランシスが来ているのを知らなかったギルベルト・シュタイナー(ぎるべると・しゅたいなー)が1人でぶらぶらと散策しているのを発見した。なんとなく追跡してみると、彼は優と零など、仲良さそうな2人組を見ては歯ぎしりをしている。
「……あーあ、1人って金とか使わなくていいしホント1人最高だな! ハハハ……ッ」
桜はそんな兄を見ると、もう1人の兄であるフランシスに携帯で連絡を取り迎えに来てもらうことにする。フランシスはギルベルトの肩を叩き、部活の活動を手伝うように言う。こうして、愛により孤独で苦しむ人間が1人救われた。
「いらっしゃいませ〜、ゆっくり見て行ってくれな?」
レイスが愛想よく接客をしていると、今度は樹、ジーナ、コタローが緒方 章(おがた・あきら)に会いに来た。
「レ、レイスくん!! ここ、頼んだよ!!」
「な、何を?」
もう章の目には樹しか映らない。やる気なさそうに歩いてくる樹が近づくと、章はずいっとチラシを彼女の鼻先に向けた。近すぎる位置に出されたそれを手に取ると達筆な筆文字で『愛!部・愛の求道者達が集う部活動』と書かれていた。
「樹ちゃん、来てくれたんだ! 今日は、明智くんの手伝いで『愛!部』の部員勧誘をしているんだ。
見て! このビラ」
「あ、『愛!部』?!」
「写真集とポエムの他に、こんなのも出しているんだよ!」
レイスは客用のハート紙の華吹雪を散らし、章の恋を応援している。そんな彼に対し、章はグッジョブ! と親指を立てた。機関誌の名前は『愛!部レーション』といい、部長のイラストで部活動の紹介がされていた。
「は、はぁ、これが機関誌……ね」
パラパラとめくる樹の手があるページで固まる。そこにはキャッキャウフフなポーズを決めている半裸の章の姿があった。樹は考えた。世の中にはいろいろな趣味の人がいる。そして自分の近い人間がそういう趣味を有していたとしても、それはそれで個性だ。そうだ、そうだよな。うん。だからえーと、そのー。ぽくぽくぽく、ちーん☆
「だめだ、私には分からん世界だ……」
「え? あ、ちょっと、樹ちゃーん!! カァァァァムバアァァアアアァァァァック!!!」
誰もいなくなったブースでレイスは黙々と、先ほどまいたハートを掃除してゴミ箱に捨てた。そして両手を顔に当てしくしくと泣きながら帰ってきた章の肩をたたくと、差し入れのプリンを2人で黙々と食べた。
スタッフからのアナウンスで気絶した珠輝を引き取りに来たリア・ヴェリー(りあ・べりー)は、彼の頬を往復ビンタで叩いて自力で歩かせた。
「珠輝、真面目にやれ」
「そうですね、はい。リアさんのおっしゃる通りです。ふふ」
珠輝は愛!部のスペースに戻ってくると神楽坂とあいさつを交わし、出店の状況を確認した。
「ところでいったい何を売ってるんだ?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
珠輝は章の手による力強い筆文字のチラシを差し出す。そのチラシ、裏には『決して怪しくありません!』と部活名以上にでかでかと書かれていた。
「まずは愛のポエム集!! 明智をはじめ有志による愛のポエム集。物凄く甘〜い。愛!部部員による朗読サービスは別料金です」
「金取るのか」
リアはミルディアの店で買ったクッキーを部員たちに渡しながら、自分もそれを1つ食べてポエム集を読んだ。
「へぇ、ポエム集か。
『君の瞳に映る僕にすら嫉妬してしまうほど……しかし私の心はビンビンに……』なんだこれっ」
「愛溢れるポエムでしょう?」
ビンビンって!! 顔を真っ赤にしているリアに珠輝はもじもじと体をくねらせる。
「そして!!」
「まだあるのか……」
「愛の写真集です!!」
「写真集はマトモみたいだな、綺麗だ。
……。
って!?珠輝の写真はともかく、皆や如月正悟さんの写真まで!破廉恥な……! ちゃんと許可取ってるのか珠輝!」
前半の美しい風景を空から取っている写真であった。ページが後半に行くにしたがい風景がクローズアップされていき、大自然の中で戯れる美青年や買い物袋をかぶった変能仮面のギリギリショット満載のお宝写真集に変化している。
「今ならイケメンのスマイルゼロ円です!!」
「なに、やっちゃった☆ って顔してるんだー!!」
「愛について語りたい方、愛を叫びたい方、いつでも入部お待ちしております。愛!」
フランシスの予備の黄色いシャツを着崩して接客していたギルベルトは、リアの叫びを聞いて改めて自分が売っていたブロマイドを確認してみる。売り物は愛!部の公式写真集……の他に、桜にこっそり協力してもらって撮ったのか他のパートナーたちのプライベートショットがまぎれていた。
「それ? 諜報活動の戦利品さ」
「あー!! 何で俺様のまで!?」
「過激ですわねえ」
「おや。お姉さん、お目が高いですねー」
同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が大量に写真を購入していくと、フランシスはハート型のチョコクッキーの小袋をおまけにつけた。宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)は呆れているが止めることもせずに見守っている。止めても止まらないからだ。
「ついでにこれもー」
「だめ、だめ、だめだ!! 返せエロ本!」
「ちょっ!? 誰が『歩くR−18』ですかっ!
確かにわたくしの本体は成人指定ですけどわたくし自身までそうだと言われるのは心外ですわ!!」
ギルベルトの秘蔵ショットも数枚渡そうとしたが、本気で殴られて阻止されてしまった。
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