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ちーとさぷり

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それぞれの現在

 解毒剤をもらってきた勇は、すぐにラルフへ飲ませようとした。
「っ!」
「駄目だよ、ラルフ。嫌がらないの」
 口を開けようとしないラルフの頭を固定し、無理やり解毒剤を流し込む。
 どうにか飲み込ませると、勇を見る目がふっと変わる。
「ラルフ? ボクが分かる?」
 と、勇が彼の顔を覗き込む。
「…………ぁ」
 ラルフが目を覚ます。現在の状況を確認するように考えてから、はっとした。
「ごっ、ごめんなさい!」
「え、ラルフ?」
「あの、その……あなたに、変なこと……っ」
 どうやら元通りにはなったらしいが、薬を飲んでからの記憶もきちんとあるようだ。
「ごめんなさい、心配しましたよね? いや、それよりも悲しませてしまいましたよね? ああ! 本当にごめんなさいっ、申し訳ありません!!」
 おろおろと謝罪を続けるラルフがおかしくて、勇は笑った。
「そんなことない、ラルフが元に戻ってくれただけで十分だよ」

 放課後の教室で、真と理沙は仲間たちに見守られながら解毒剤を口にした。
「どうだ、椎名くん?」
 真は少しの間目を閉ざすと、目を覚ます。
「……あれ、カガチ? 俺、何して……」
 カガチはぱっと顔を輝かせた。真へ抱きつき、喜びを体中で表現する。
「良かった! 戻ったんだな、真!!」
 真はされるがままにしていたが、京子の方を見て謝るような顔になる。京子はただ頷いた。
「理沙さん?」
 チェルシーが理沙を心配そうに見ていると、理沙はふいに肩をぴくっとさせる。
「理沙?」
 リュースの呼びかけに反応するように彼を見て……「私……、あ、わ、悪いこと、したよね?」
「思い出したんだね、理沙!」
 と、リュースが心底安心しきった顔で理沙を抱きしめる。
「ご、ごめん……」
「良かった、安心したよ。ああ、理沙……愛してる」
 そしてぎゅっと抱きしめあう。

「パパ、どうぞ」
 ステファニアは解毒剤を注いだグラスをコンラッドへ差し出す。
「これは?」
「ただのお水よ」
 コンラッドは怪しむことなく、グラスを手に取った。そして口へ運ぶ。
「……どう?」
 飲み込んだ途端、頭が痛むのか、コンラッドは額に手をやった。それから数回瞬きをし、ステファニアを見る。
「あれ、夢……?」
「コンラッド、戻ったのね!」
 解毒剤が効いたことに喜び、ステファニアはにっこり微笑んだ。

 ミスターコールドハート(みすたー・こーるどはーと)は解毒剤を見つめた。知り合いから何となくもらってしまったのだが、これが真矢に聞くとは思えない。
 だがしかし、試さないのももったいないだろうか。
 真矢のいる部屋へ行き、それとなく隣へ腰を下ろす。
「何か、もらっちゃったんですけど」
「ん?」
 そして薬を真矢へ渡そうとして、手が滑った。瓶が割れ、中の解毒剤が床へとび散る。
「……何してるのよ」
 コールドハートは何も言えなかった。

 店が破壊された後、掲示板はしばらく歓喜の書き込みで賑わった。解毒剤が出来たこともあり、ちーとさぷりは危険なものとして世間へ広まることとなる。
 しかし、店員(自称:トレル)がその後どうなったのかは分からなかった。本当に子どもであれば、罪から免れた可能性もあるし、その悪事が全て暴かれた可能性もある。
 彼(彼女?)が再び世間へ現れるのは、いつのことになるやら……。