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あなたの馴れ初めを話しませんか?

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あなたの馴れ初めを話しませんか?

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 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)とチェスを楽しんでいた。
 傍らに南西風 こち(やまじ・こち)が控えている。
「パートナー達のこと?」
 リナリエッタは盤から目を離さずに答える。
「私はこちに会ってパラミタに来たわぁ。可愛いビスクドールをお父様が買ってきてねぇ、置いておいたら目が開いて吃驚よ」
 チェック! と言って、今一人をニヤニヤと見やる。
「ベファは、別荘のお城で会ったの。埃まみれの棺を捨てようと思ったら、何と中には吸血鬼! 60年ぐらい前には棺があったらしいけど、本人は昼寝をしていたんですって」
 ベファはナイトをもてあそびつつ。
「御機嫌ようお嬢様」
 王子様笑顔で会釈した。
「彼女の出身地・イタリアにいたんだ。彼女一族はその土地の……まあ持ち主みたいな物でね。僕は彼女の一族を見守っている。何故って? 彼女、そして君達人間はとても面白いから。新たな土地を開拓するなんて、実に素晴らしい! 良き友に出会えて嬉しいよ」
 そうして再び盤に目を戻す。
 頃合いを見て、リナリエッタはこちを引き寄せた。
「リナ、愛美お姉さんにお話しなさい」
「…御機嫌よう、お姉様。機晶姫のこち、と申します」
 こちは行儀よく、チョコンと挨拶した。
「…こちは、昔のこと、覚えていません。マスターが、こちの事、起こしてました。お洋服と、絵本を、くださいました」
 動くビスクドールのような彼女は、愛らしく答える。
「…マスター、ですか? …とても、マスターは、大切な人です。その、愛美さんも、大切な人が、みつかると、いいですね」」
「か……っ、かわいーっ!!」
 愛美達は絶叫して、こちを抱きしめた。
 彼女の頭をなでなでしたり、キュッと抱き締めたり。
 その様子をさり気なく、横目でとらえて。
「命短し恋せよ乙女。君に運命の人が見つかる事を祈ってるよ」
 ベファは気障な台詞を言って、ナイトを優雅に動かす。
 リナリエッタは困ったように、一瞬盤を睨んだが。
「それよりもぉ。素敵な殿方はみつかったぁ?」
 肉食獣の目を向ける。
「折角共学にいるんだからぁ、探さないと。ね? フフ……」

 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は、弟の風祭 隼人(かざまつり・はやと)と昼食を食べていた。
 テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)、それに隼人のパートナーであるアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)の姿もある。
「ええーと、どうしようかな? 隼人君?」
 愛美は優斗を指さす。
 双子の2人は見た目そっくりで見分けがつかない。
「じゃ、僕、風祭 優斗からですね?」
 おかしそうに笑って、優斗が説明しようとすると。
「いえいえ、そんな恥ずかしいこと! 私達から説明致します!」
 テレサが一生懸命な表情で身を乗り出した。
「私と優斗さんの出会いですね? 優斗さんは出会って直ぐに、私にプロポーズをしたんですよ」
 頬に手を当てる。
「そればかりでなく、私がこの時代に1人で目覚めて途方にくれていた時には『家族になる』って。『ずっと傍にいる』って言ってくれました」
 おお! と一同のどよめき。
「これって完全にプロポーズですよね?」
 ね? と愛美達に同意を求めてくる。
(ね? って言われたら)
(頷くしかないですよね?)
 優斗のワタワタとした動作は気になったが、愛美達は曖昧に頷く。
「ですよねー?」
 テレサはフフンと鼻先で笑って、他のパートナー達を勝ち誇ったように見やる。
「ミアちゃん達と勝手に契約をしてしまった、とか。最近の優斗さんの携帯電話のアドレスに、知らない女性の連絡先が増えてしまっている、とか。だから優斗さんには女性関係について深く反省を促したい、とか。全く全然、考えている訳ではないですよ。本当……」
 ジャー、と紅茶が頭に降り注ぐ。
「あれ、ごめんね? 手元が滑っちゃって」
 アッハハハ〜っと、笑いつつ、ティーカップをソーサーに置いたのはミアだった。
「じゃ。これから、僕と優斗お兄ちゃんの婚約の切欠を語るね」
 ミアは悪魔の微笑みで切り出した。
「優斗お兄ちゃんは『僕を一生守る』って約束したナイトなんだよ。僕が悪い人に襲われていた時に、優斗お兄ちゃんが駆けつけて助けてくれて。『いつでも僕を守る』って約束してくれたり。『僕のご両親に会いたい』とかいう話になって。2人でお母さんに会いに行って、僕との関係を話したんだ。そしたら、お母さんも優斗お兄ちゃんを気に入ってくれたみたいで……僕との婚約を許してくれたんだよ!」
「嘘よ!」
「嘘じゃないもんね! テレサ」
 ベエッと舌を出す。
「優斗お兄ちゃんは、僕の婚約者としての責任と義務があるんだよ!」
 ねえ、自覚してる? ミアは男の子の色香(?)で、優斗ににじり寄る。
 間に入ったのは、『兵法二十四編』だった。
「2人とも後世に残る『騙り』、大義!」
 魔道書を扇子代わりに仰ぎながら、ホホホと怪しげに笑う。
「では、わらわが優ちゃんとの出会いを語るわ」
「へ?」
「わらわは優ちゃんに買われたのよ」
 勝ち誇ったように笑う。
「そりゃあ、お年頃の優ちゃんが、わらわのような魅力的な女に出会ったら! 男として我慢出来なくて当然……」
 でも、とここで爆弾発言が!
「優ちゃんはわらわのカラダの全てを知った『オトコ』よ」
「ほ、本当なのか? 優斗」
「嘘に決まってます! ていうか、そんなもん信じないで下さいよ!」
 なおも怪しげな視線の隼人に、優斗は潔白を示す。
「『魔道書を読破しただけ』です!」
「あーら、そんなこと言って。あの夜のことは忘れられないわ」
 『兵法二十四編』は流し目を使う。
「私の体をいじったり、開いたり……弄んじゃって!」
「……て、それって単に『本を書いたり、読んだり』しただけって、ことじゃないですか!」
 もう! と3人に任せておけないとばかりに、優斗は一気にまくしたてた。
 テレサを指さし。
「封印されていたテレサは、今の時代では家族がいなくて。独りぼっちで寂しそうだったから、僕達が代わりに家族になろう! と思って契約をしました」
 ミアを指さし。
「『小さな子供が困っていたら、いつでも守り助けるのは年上として当然』という事で。不良を追い払って親御さんに連絡して、迷子だったミアを家へ連れて行ったら、何故か契約する事になりました」
『兵法二十四編』を指さして。
「国造りのために兵法を学びたいと思っていたので。孔明の兵法書を見つけ購入したら『魔道書』だったので、彼女の指南を受ける契約をしました」
 ゼエゼエと肩で大きく呼吸を繰り返す。
「……という訳です。愛美さん、隼人、分かりましたか?」
「でも、『運命の人』には変わりないよねえ?」
 3人は口をそろえて言い、「ヨメ」合戦は泥沼と化して行くのであった。
 
「じゃ、隼人君の方は?」
 愛美は今度こそ正確に隼人を指さす。
「アイナとは俺が冒険家になろうと志して、初めての冒険で出会って契約をしたのさ」
 隼人は肩をすくめた。
「洞窟を探検していたら、誰かに呼ばれたような気がしたんだ。だから、声の方向に進んだら魔物が待ちうけていて。人生最大のピンチ! て冷や汗かいて。そんな時に、洞窟に封印されていたアイナが契約を持ち掛けてきたんだ。『俺に力を貸し救う代りに、アイナが幸せになれるように俺に尽力させるという趣旨』の契約をね。でも……よくよく考えると、出来すぎな気がするんだけど……」
 俺をハメてない? と隼人は首を動かす。
 アイナは、何それ? と美しい顔に「不満」の文字を刻ませる。
「当時の隼人は弱っちくて……私が助けてあげなければ、死んでいたんだからね! だから隼人は私に感謝して、私と優斗さんの恋愛が成功するように尽力し、且つ私に仕え続ける事。改めて要求するわ!」
「えー!?」
 隼人は不服そうに声を上げる。
「何よ! 『ハメてる』とか『出来すぎだ』とか。それって私を信用してないってこと?」
「うっ、そ、それは……」
 仮に本当のことだったにせよ、とアイナは詰め寄る。
「最高の冒険家を目指しているくせに、そんなつまらない事を気にしているの? それって、サイテーだよね?」
 ガ――ンッ!
 幻の大岩が隼人の頭上に激突する。
 ショックを受けた隼人は、「俺って、サイテー?」とブツブツ繰り返すのだった。
 
 久途 侘助(くず・わびすけ)香住 火藍(かすみ・からん)と、文字通り「茶」を楽しんでいた。
「パートナーとの馴れ初め?」
 うーんと侘助は渋茶をすすり。
「そうだな、パートナーがいなければ俺はパラミタに来られなかったし。思い出してみるのもいいかも知れんな……」
 暫し両目を閉じる。
「昔は、全てを失ったと思って、絶望のどん底にいたと思ってたなぁー。家族も親戚も魔物に襲われて、俺だけ生き残って……。もう全てがどうでもいい、って時に火藍に出会ったんだ」
 目を開けて、穏やかに火藍を見る。
「火藍に出会って、俺は救われたよ。あの時の火藍は強烈だったなー。魂を再び吹き込まれたような感覚だった」
「火藍君は?」
「この人との馴れ初めですか?」
 愛美達は頷く。
 頑固で真面目を絵に描いた彼は、生真面目な口調で話し始めた。
「剣を捧げようと誓った相手がいましたが、今は……いません。まるで、生まれ変わりのように良く似たこの人に出会いましたね。出会ったのは地球でした。この人は地面に突っ伏してて、一体何をしてるのかと思いましたよ。似たような境遇で、ウジウジ悩んでるのを見て、つい活を入れてしまいましたね。『あんたが突っ伏してるのは地面で、地獄でも天国でもありません、あんたは1人でここで生きてるんですよ』、でしたかね?」
 フウッと表情が柔らかくなる。
「昔のこの人は可愛かったですよ、まるで生まれたての雛みたいで。俺の後ろを、ずっとチョコチョコとついて歩いてくるんです」
「火藍! 恥ずかしいことは言わんでいい!」
 わわ! と侘助は両手で台詞の邪魔をする。
「何です? これからいい所ですのに」
 彼らの和やかな会話はいつまでも続く。
 
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)とカステラを食べていた。
「3時のおやつは……」
 と鼻歌を歌い始めた所、愛美達に囲まれたのだった。
「馴れ初めを聞きに来た?」
 あ、食う? とカステラを差し出す。
(小谷さんがいるとなると、恋愛系だろうが……俺は色恋沙汰に縁が無い。ということは、主食前の前菜的感覚で来たんだろうな)
 そうだろうと決めつけて、エヴァルトはだがな、と内心ニヤリとする。
「ミュリエルとの、か……あ、計らずとも恋愛寄りだ」
 胸を張って、大威張り。
「とは言え、正直、自分でも未だによく分からん。『契約せよ』って声が聞こえたと思ったらいつの間にやら、だったし……」
 愛美達の目が怪しくなる。
 視線がミュリエルに向けられているのを見て、待て! とエヴァルトは両手を上げる。
「まさか、俺がロリコンでシスコンとか思ってないだろうな!?」
「…………」
「何だ? その重苦しい沈黙は」
 ミュリエルは、見た目『10歳の女の子』である。
 対して、エヴァルトとときたら……。
「いや、つい甘やかしてしまうし。地球に残した実妹より可愛いとは思うが……種族はアリスだし。嗚呼、否定が出来ないっ! えぇい、ここはひとつ! 吟遊詩人として、小谷さんの武勲詩で勘弁してくれい!」
 ちゃらりらりらあ〜……エヴァルトは怪しげな「テーマソング風の歌」で場を誤魔化そうとする。
 しかしそんなことで誤魔化されないのが、愛美が愛美たるゆえんだ。
 エヴァルトを全く無視して。
「ミュリエルさんは、お兄ちゃんとの出会いをどう思っているのかな?」
「エヴァルトさんとの馴れ初め、ですか? ちょっと照れます……」
 予想に反して、ミュリエルは頬を染める。
「本当はパラミタが現れた時にエヴァルトさんの所に居たんですが、魂だけだったからでしょうか? 見えていなかったんです。それからずっと見ているだけだったんですが、エヴァルトさんがパラミタに来た時に、やっと気付いてくれたんです。その時は、本当に驚いていました。エヴァルトさんはこう見えて、とっても優しいところがあるんです。だから、私も優しくして欲しいなぁ、って」
 そういえば、と口元に人差し指を当てて。
「私も愛美さん達に質問したい事があります」
「マナミンに?」
「はい! けれどエヴァルトさんには聞かれたくないので、金ダライで気絶させます……ごめんなさい!」
 ゴンッ。
 天井から特大金ダライが落ちてきて、エヴァルトの頭を直撃する。
 エヴァルト撃沈。
(これって、倉庫に放置されていた奴だよね?)
 という愛美達の質問には答える余裕もなく、ミュリエルは思いつめた様子で尋ねてきた。
「『お嫁さん』について、実はよく知らないので、教えて欲しいです……ずっと一緒にいられる人、じゃないんですか?」
「えー、違うよお!」
 愛美は力強く断言する。
「『お嫁さん』はね、『運命の人』だよ! 世の中にたった1人しかいないの!」
(いや、何人もいるかもしれないけどね……)
 しかしその瀬蓮の現実的な思考は、その場の女性に知らされることはなかったのであった。