校長室
虹色の侵略者
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第四章 グレムリンは航空機にいたずらをする二十世紀の妖精です 水のみ場の近くでは、何人かの生徒が集まっていた。 理由は人それぞれで、原因探求のために理科室の向かっている最中だったり、偶然ここに居たらひよこの大量発生に巻き込まれて動けなくなったり、などなど。 そんな場所で、鷹野 栗(たかの・まろん)とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)の三人がある一つのことについて話し合っていた。 「同じことを考えている奴がいるってことは、いよいよだな」 エヴァルトは、二人の顔を見て一人頷いた。 「そうですね。そして、ここは一番危険な場所なんじゃないでしょうか」 栗は、視線を蛇口に向ける。 水のみ場なのだから蛇口はあるし、もちろん水が出る。 「霜月が見てた映画みたいであります」 アイリスの言葉に、二人が頷いた。 「なぁ、実験してみないか?」 「私は、やめといた方がいいと思います。いくらこれだけ増えているからといって」 「でもさ、ほら、真夜中に食べ物を与えなければいいわけだし」 「それでも、やっぱりダメですよ。映画とコレがどこまで同じかなんてわからないんですから」 二人の視線は蛇口に向かっていたため、その光景を見逃していた。 なので、アイリスが報告した。 「もう遅いので、あります」 「へ?」 「どうしたのです?」 「あそこを、見るのであります」 指をさした先では、メイ・アドネラ(めい・あどねら)とアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)が水鉄砲で遊んでいた。 水鉄砲とは、鉄砲の形をした水を発射する遊具である。単純で安いものから、高性能なもので種類は様々だ。二人が遊んでいるのは、高性能なものである。 高性能なものは、水圧が強く大量の水を一気に遠くまで飛ばすことができる。それを、二人で互いに水をかけあって遊んでいるのだ。 もちろん、水はひよこにもかかっている。 「お約束といやぁ、お約束か」 「まぁ、仕方ありませんね」 「なのであります」 なぜひよこが増えてしまったのか。 この事件の最大の疑問点はまずそこで、もしそこが解明できるのであれば、その技術を応用することができるかもしれない。 例えば、子猫とか、子犬とか、増やして囲まれたらきっとそこは天国になるに違いない。 そんなささやかな野望を抱きながら、火村 加夜(ひむら・かや)は理科室に向かっていた。 途中六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)と出会い、彼女も事件の原因について興味を持っていたため、二人で理科室に向かって進んでいた。 「クローンですか」 鼎の考えでは、このひよこはクローンであるという。 元となる一体から細胞を摘出し、それを使って同じ遺伝子配列の生物を誕生させる技術である。科学におけるクローンは、確かにクローン生命体を作り出すには至ったが、それを何かに利用できる技術までは進んでいないのが現状でもある。 理由はいくつもあるが、そのうちの一つとして、細胞そのものに年齢のようなものがあり、クローニングに使用した細胞の年齢以上に若返ることは無いからだ。極論ではあるが、百歳の人のクローンを作れば、百歳の状態で産まれてしまうことになる。 他にも倫理の問題だとか、抱えている問題は山積みである。全てを割り切ってしまえば、様々な医療行為の助けになってしまうだけに、業の深い科学技術なのだ。 「でもクローンでしたら、全く同じ色になりませんか?」 「そう。つまりこれは、遺伝子操作も行われていると考えるべきです」 「遺伝子操作、ですか」 遺伝子操作とは、そのままの意味で遺伝子を操作することである。作物の遺伝子を操作して、害虫がつきにくくなるようにする、なんてのが有名なところだろうか。 「そう、遺伝子操作です。カエルの皮膚を透明にしたりできるんですから、ひよこの毛の色を変えるのも可能でしょう」 「確かに、そうかもしれませんね。でも、クローンとか遺伝子操作をするのに、学校の理科室で行うのはちょっと難しいんじゃないですか?」 「え?」 「だって、そういう細かいことをするには、すっごい設備が必要ですよ。研究室ならあるかもですけど、理科室ですよ」 「それは、そうかもしれませんわね」 「それよりも、噂ではとっても珍しい卵が搬入されたそうじゃないですか。きっと、卵に特別な力があって、色んなものを増やせるんですよ、たぶん」 「その方がこっちでは現実的、なのかしらね」 なんて二人が話しをしながら、ひよこをパンで誘導して道を作っていると廊下の先から物凄い音が響いてきた。 びっくりして二人は足を止める。 「モグ○イかギ○モかグ○ムリンじゃねーのかよ!」 という男の叫び声、ないし突っ込みのような声が聞こえてきた。 「どうしたんでしょうか」 「さぁ、行ってみましょう」 二人は心の中は急ぎ足、現実ではひよこに注意しながら慎重に声の聞こえた方に向かっていった。 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、箒にまたがってやってきた水のみ場は彼女が慣れ親しんだ場所からだいぶ変わってしまっていた。 壁や水道が鉄球か何かがぶつかったようにひしゃげている。床もヒビが入っていて、まるで大きなクマか、それよりもっと危険な何かが暴れまわっていたかのようだ。 「だ、大丈夫!?」 アリアは、とりあえず一番近くに居た人を助け起こした。 周囲には何人もの人が倒れている。その中には、緋糯 加奈(ひもち・かな)や黒の死神 黒(くろのしにがみ・へい)なんかの姿もあった。 揺さぶられたアイリスは、ゆっくりと目を開ける。 「大丈夫? 何があったの? この辺だけひよこいないのはなんで?」 「質問は……一個ずつでお願いしますで、あります」 「え、あ、えっと、何があったの?」 「ひよこが増えなかったので、あります」 「はい?」 ひよこが増えなかったと言われても、意味がわからない。いまこの学園は、増えたひよこによって大変なことになっているではないか。 「水をかけたら、ひよこが……」 そこで、ガクっとアイリスは気絶してしまった。 「え? ひよこがどうなったの? ちょっと、教えてよ!」 揺さぶってみるが、アイリスが目を覚ます様子はない。 「ひよこがどうなったのか気になるけど、まずここのみんなの手当てをしないと」 アリアは頭の中を切り替えて、とにかくこの場で倒れている人たちの治療と救助を行うことにした。何があったのかについては、あとで教えてもらえばいいだろう。 治療を開始して間もなく、鼎と加夜が現れた。 二人は理科室に向かっていたのだが、この場を放っておくわけにはいかないとアリアに協力を申し出た。 幸いにも鼎がとアリアの二人が治療系のスキルを所持していたので、治療と搬出作業は無事完了した。みんな軽い打ち身や打撲で、命に関わるような大怪我を負った人は一人もいなかった。 みんななんだかんだ普段から鍛えているおかげだろう。 「どうしてこんなことに?」 呟いたのはアリアだったが、それは三人共通の疑問だった。