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【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

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【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

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4・天守閣

「少しひんやりしてきたでありんすねぇ」
 ハイナはご満悦だ。
 次は・・・。
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)の顔が暗闇にほぉと浮かび上がった。なにやら仕掛けがあるらしい。側に控える黒色の装甲に身を包んだ機晶姫鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が立ち上がり、周囲を威嚇する。
「今度は私ですねぇ・・・」
「さて、今日は私が小学校の林間学校で実際に体験したことでも話そうかと思います。所謂自然の家、みたいなところでしょうか。元々田舎の山一つがレジャー施設になったような所で…人は少なく、その手の噂も絶えませんでした」
 いつのまにか、ティファニーが横にきている。
「山がホテル?日本はスケールが大きいっ。ミーも行きたい、ねぇ、」
 空に向かって話しかけるティファニー。ニンジャが隠れているようだ。
 睡蓮は、ティファニーの顔を見て、小さく身体を震わせる。
「そこで実際に宿泊した、その夜のことです。…どん、どんと、壁を叩く音が聞こえてきたんです。
 ちょうど私の寝ているベッドのすぐ隣の壁から、普通は、ああまだ起きて騒いでる子がいるんだな、と思うのですが。宿泊施設自体は結構大きくて、団体宿泊用の2階建てキャビンだったんです。ちょうど私のいた部屋は2階の角、壁の向こうは吹き抜けになっていて……人の立てる場所なんてなかったんです」
「……」
 ティファニーは、期待に顔を赤らめて、睡蓮を見ている。
「……」
「……」
「……ぇっ、オチですか?ぁ、その、「いるんだなー」と思ってすぐ寝ちゃって、それっきり……」
「いるって?」
 ティファニーが畳み掛ける。
「砂のお化けとか、大きな一つ目小僧とか?」
「ご、ごめんなさい〜」
 睡蓮は背中を丸くして、九頭切丸の後ろに隠れた。
「ノー!いいヨ、いたのね、オーケー!」
「いるって?」
 ティファニーは、無理やり睡蓮の手を引いて、ろうそくの場所まで連れて行く。
「ご、ごめんなさい〜」
 ふぅー、ろうそくに息を吹きかける睡蓮。

 教室の方角より叫び声が聞こえる。
「なんだか盛り上がっているようですわ」
「うーん、出たのかしら」
 百物語に参加者たちは、地上の様子が気になるようだ。
「まだ、2話でありんす。妖怪はこれから・・・」
 ハイナがニヤッと笑う。

 次に青白い灯かりが指示したのは、五月葉 終夏(さつきば・おりが)だ。イルミンスール魔法学校から葦原明倫館見学がてらやってきた。
 一瞬ニコッと笑うが、その愛らしさを封印するように、急に目を伏せると沈んだ声で話を始めた。
「ある暑い朝目が覚めたらたくさんの眼鏡が辺りに散らばってたんだ。寝ぼけてるかもしえないから顔を洗って目を覚まして来ようと思って部屋を出て戻ってきたら眼鏡は消えてそこにはどろりとした液体が…」
 声をトーンが次第に下がる。再び笑顔になる終夏。その顔を下から灯かりが照らす。終夏が光術で事前に用意した灯かりだ。
 既に当たる青白い明かりと相まって、恐ろしい影が終夏を覆っている。
「そのドロっとした液体が異臭を放って…」
 ギャァー!
 終夏が悲鳴をあげた。
 天井よりドロッとした液状のものが、終夏の額に落ちてきたのだ。
「えっ、何…私のは…だって…」
 額をぬぐう指先にどす黒い色がつく。
「えっ…チョコ?」
 実はこの話にはネタがある。
(蒼学の調理実習に混じった時に山葉君に彼の眼鏡型チョコを渡して元気出してもらおうと思って作る練習して、それを放置して寝ちゃったら溶けちゃったって話。だけど、そこは内緒なのに…)
 おびえる終夏の手をティファニーが引っ張りろうそくの場まで連れて行く。
「すっごく怖いネ、血塊のメガネ…」
 ティファニーも震えている。
 天井裏にいる盛り上げ役の隠密科生徒たちは、逆にその怯えように驚いていた。
「チョコだぞ」

 次は、青白い光が志方 綾乃(しかた・あやの)のもとへ移動する。
「涼しくなってきたでありんす」
 ハイナは頭上の仕掛けをしっているので、この様子が楽しくてしかたがない。少し不謹慎だが、肝試しでは脅かすほうも脅かされるかもしれないのだ。
 綾乃もイルミンスール魔法学校の生徒だが、葦原の地には明るい。
「それは私が明倫館の長屋で下宿してた時のある夜。寝ている私は、細い声を聞きました。
『うらめしや、うらめしや――』
 私は無視してまた眠りに付こうとしましたが、その声はどんどん大きくなり、ついには完全に目が冴えてしまいました。もう眠れません。
『うらめしや、うらめしや――』
 その声は長屋の裏から聞こえるのです。
 そこで私は外に出て、声の所へ向かうと、驚くべき光景を目にしたのです。」
 ここで綾乃は呼吸を整えた。
 天井裏で、かたっと音がする。
「『裏メシア、裏メシア――!』
 綾乃は話を続ける。
「そうそれは裏メシア、つまりダークヴァルキリー信奉を広める鏖殺寺院信者だったのです。折角の眠りを妨げた邪悪な寺院信徒を私はポカっと殴って追い払いましたが、結局その日は寝付けませんでした」
 ずどんっ!
 話を聞き、天井裏では混乱していた。いるのは各課の新入生ばかりだ。とりあえず陰陽科生徒が式神を呼び出し、ダークヴァルキリーに似させようと空に放つ。しかし、邪悪なものになりきれず式神は、その姿のままに現れ、自分がなりうるもの、蛇や蛙、蝙蝠など次々と姿を変化させながら、天守閣を舞った。
「ダークヴァルキ…へび?」
 天守閣内では、悲鳴が飛び交う。
 人によっては、遠くの…より目の前の蛇が恐ろしい。
 逃げ惑う人々を尻目に、ティファニーは綾乃の手を取った。
「百物語、楽しいネ」
 ろうそくが吹き消される。


 次に青い光が示したのは、葦原明倫館柳馬 麻利愛(やなぎば・まりあ)だ。ショートカットの黒髪が光で照らされる。
「では」
 麻利愛が話し始めると、それまでの喧騒は治まり、再び静けさが戻ってきた。物音一つしない静寂のなか、麻利愛は言葉を繋ぐ。
「最近の葦原明倫館の話だ。ある夜、美術室に忘れ物を取りに行くと、一人の女の子が窓際に立っていた」
 ふと、その女の子の姿が座にいるみなの脳裏にうかんだ。
「こんな夜更けに・・・そう思い、話しかけると女の子は振り向いた。しかしその女の子には足がなかった。怖くなって急いで忘れ物を持って美術室を出た」
 なぜか、その行動までが頭に浮かぶ。
「あとで聞いた話だが、その女の子は昔事故で死んだこの学園の生徒だったそうだ…覚えのある女の子はいないか」
 ハイナと房姫は顔を見合わせた。
「その女の子が誰かは分かりませんが、今私の心に焼きつきました。早速、成仏できるよう調べてみます。幽霊になるほどこの世に未練があるのなら、できれば、私のもとにも出て欲しいです」
 房姫は、節目がちに呟く。
「わっちもでありんす、親しいものが死んでいる。黄泉より蘇り、わっちを訪ねてきてほしい」
 麻利愛のもとに、ティファニーが来た。
「怖い話だけど、切ないネ」
 導かれ、麻利愛はろうそくを消す。


 次に青い光が照らしたのは、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。ちょうどハイナの隣に座っている。
「Hi、ハイナ。御久し振りね。其方は?」
 ローザマリアは何度かハイナにあっているが、ティファニーは初めてだ。
「Hi、ティファニーよ、ローザマリア」
 それまでのおどろおどろしい空気が一瞬緩む。
「Nice to meet you,ティファニー。ローザと呼んで。ハイナと同じテキサスなのね。出身はダラス?ヒューストン?私はミシシッピーのパスカグーラ。今度一緒に南部を回りましょう?」
 ティファニーは話を続けたそうだったが、房姫が制した。
「OK!」
 ローザマリアが話を始める。
「「私は、怪談出来るほど長生きしていないから、そうしたネタは無いわね。だから、幽霊の三人に語って貰おうかと思って」

 始めに口を開いたのは、魏の武将{SFL0021330#典韋 ?來}だ。
「「197年のこった張?とかいうクソッタレを懲らしめに、曹の大哥(曹操)と出陣したんだが、生憎逆襲喰らっちまってなぁ……曹の大哥は何とか逃げたんだが、あたしは運無く死んじまった」
 一度死んで生き返ったのだから、英霊がいるのなら幽霊もいるはずだとローザは考えている。一度死ぬとはどういうことなのか・・・
「ま、そんな何処にでもある下らねぇ話だ。あたしの記憶の中に手前の柔こい肉に鏃やら槍の切っ先やらが突き刺さる感触が今でも記憶としてまざまざと残っている事を除けばな」
「今でも時々夢に見ることがあるんだ。あたしがこの世で最後に見た景色は、天地が流転しながらそれでも立ち尽くすあたしの身体だったぜ。首から上が無ぇ、な。へへっ、そういうこった。首、撥ねられちまった夢なんだよ」
 典韋は豪快に笑う。
「怪談というより体験談でありんすなぁ」
 ハイナが茶々を入れる。

 上杉 菊(うえすぎ・きく)は尾上杉家二代目当主の上杉景勝へ輿入れした甲斐國守護大名武田信玄の六女だった。
「日本におりましたゆえ、怪奇な話は数多く知っております。今日はこの百合の花に因んだ話を」
 菊は一厘の百合を持っている。
「刻は戦国――ある所に内蔵助某(くらのすけ・なにがし)という武士がおりました。彼の者には百合御前(ゆりごぜ)という、誠見た目麗しき姫君がおりました」
 不思議なことに、またこの姫の顔がみなの脳裏に浮かんだ。
「しかし内蔵助某は戦に明け暮れ出征する事が多く、夫が敵地で捕らえた女性を側室に迎えたとの噂を聞くに及び献身的に夫を愛した百合御前は夫の小姓と不義密通をしてしまいます」
 百合御前の苦悩が、みなの心を揺さぶる。
「これを知った内蔵助某は激怒し、百合御前を川原の柳に逆さに縛り付け、生皮を剥ぎ一寸刻みに惨殺してしまいます」
 血に染まる柳、赤くにごる川、たどり着く死肉…その場にいるように嫌悪感が皆を覆う。
「その川原を通る際はご用心を。百合御前が惨殺された当時そのままの姿で見た者を川に引き擦り込むそうです」
 話が終わったとき、座のものはみな金縛りから溶けたように感じた。

 さて、ローザがつれてきた最後は、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、イングランド女王エリザベス?世の英霊だ。
「ロンドンも怪奇の多い街での」
 グロリアーナは、ロンドン塔怪談の定番アン・ブーリンに纏わる怪談をはじめた。
「イングランドのロンドン塔が処刑場だった事は知っておろ?あそこで殺された者の中には妾の母上アン・ブーリンもおっての」
 アン・ブーリンは、イギリスでは有名な女性だ。
「妾も永くナラカを彷徨うておったのだが、終ぞ母上を見付けられなんだ。ところが先日、ローザと妾自身の墓参りにロンドンに行った折りに母上に再会できたのだ」
 グロリアーナはにこやかに笑う。
「母上は相変わらず元気そうにロンドン塔の周りを闊歩していたよ。落とされた首を脇に抱えてな。何てことは無い、484年経っても成仏出来なかったらしい」
 話が終わっても、みな静かなままだ。
「アン・ブーリンの話をその娘より聞くとは何と贅沢なこと」
 房姫の言葉にティファニーが頷く。
 三本のローソクが消された。