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リアクション
一方、小動物のいる柵周辺。
草葉祐太は、作った滑り台や、ボールを持って柵の中へ。
「これは、取れますか?」
紙オコジョに軽くゴムボールを投げてやると、紙オコジョは飛び上がって簡単にボールをくわえた。
「この程度なら、簡単に取れるようですね」
広げたノートに、走り書きをしていく。
滑り台の上では、紙猫が丸くなって眠っている。
「遊具も、紙ペットにとってはくつろぎの場ともなるわけですね」
遊びながら、観察を続けていく。
そんな彼のすぐそばで、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と和泉 真奈(いずみ・まな)がエサを持って紙ペットのもとへ向かっていた。
「あ、たくさんいる!」
嬉しそうに言って、ミルディア・ディスティンが飛びだした。
「ミルディ!」
持っていたエサをその場に置き、柵を飛び越えていくミルディア・ディスティン。
「仕方ないですわね」
和泉真奈は苦笑して、パートナーが置いていったエサを持ち上げた。
柵の中の小動物達は、好き勝手に動き回っていた。
紙ネズミが柵を越えようと駆け回り、それを追いかける猫が飛び出し、紙ウサギがぴょこぴょこと四方八方に散る。
「あっ、こら! そんなところに行っちゃダメだってば!」
隙間に頭を突っ込もうとしていた紙ネズミを、ミルディア・ディスティンが慌てて引きとめる。
「ミルディ、エサをあげたらきっと治まりますわよ」
そう言いながら、よいしょとエサを持って柵を越えようとする和泉真奈。
その足がもつれ、身体が傾ぐ――。
「あっ……」
どばばばっ、と。
持っていた餌が飛び出し、柵の中に広がっていく。
エサは広がり、それに小動物達が我先にと集まって来た。
「……やってしまいましたわ……」
深く息をついて、転んでしまった和泉真奈が肩を落とした。
すると、紙犬が寄ってきて、彼女にすり寄った。
「慰めてくださるの?」
問いかけた直後、紙犬は目前の骨にかぶりついた。
「……やはり、小動物って、憎めないものですわね」
温かく笑って、紙犬の頭を撫でた。
「ほら、エサだよー。おいしい?」
ミルディア・ディスティンは紙猫にミルクをやり、微笑む。
手を出すと、紙猫はぺろぺろと彼女の手を舐めた。
「ふふっ、くすぐったいよー」
紙リスザルもやってきて、彼女の手からリンゴを受け取り、食べる。
「可愛いー」
しゃがみこんで覗いていると、紙リスザルがミルディア・ディスティンの胸元に飛び込んだ。
「きゃ!」
驚いていると、谷間にちょうどもぐりこんだ紙リスザルが、彼女にしがみついている。
「もぉ、仕方ないなぁ」
苦笑しつつ、紙リスザルを撫でる。
エサをやりつつ、戯れつつ、二人は飼育員としての仕事をこなしていく……。
紙ペットバトルの会場ほど近くにある猛獣館の前。
「猛獣達のことも観察しておかないとね」
「紙ペットの猛獣なら、そんなに怖くないね」
椎名真と双葉京子が、そこに近付く。
「あーあ……パルフェも思いっきり遊びたかったなぁ……」
盛り上がる紙ペットバトルを横目で見て、パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)が呟いた。
「うー、なんで私が……」
そう言いながら、猛獣達に餌をやるのは北郷 鬱姫(きたごう・うつき)。
「パルフェが『紙ペットって興味深いよね』って連れ出してきたのは、飼育員をやるためだったのですか?」
「う、違――」
飼育員の仕事に乗り気ではない二人のもとに、のそのそと紙トラが寄って来た。
「食べますか?」
北郷鬱姫が問いかけつつ魔法紙で作った生肉を差し出す。紙トラはむしゃむしゃとかぶりついた。
「なんだか、可愛いですね……」
見とれている北郷鬱姫の視界の端で、椎名真と双葉京子が紙ライオンを観察していた。
「やっぱりこの子もお肉が好きなのかな」
「夜行性だから、今はあんまり動かないみたいだね」
この会話を耳にした北郷鬱姫が、二人に近付く。
「えっと……私に何か、お手伝いできることありますか……?」
そろそろと近寄って来た彼女に二人は顔を見合わせ、うーんと、唸る。
「じゃあ、他にもエサをあげてみてもらえるかな」
「はい」
頷き、猛獣達に肉以外の餌をあげてみる。果物を与えると、寄ってきて口にした。
「紙ペットの猛獣は、果物も食べるのね」
感心した二人。レポートも確実に埋まっていく。
と、パルフェリア・シオットが、バトル会場に熱い視線を送って立っていた。
「パルフェ……さぼらないで……」
「あ、ごめん……」
後ろ髪を引かれているのか、まだちらりと目をやりつつも、エサやりの作業を再開させた。
それを確認して、紙クマ達に、キャベツやニンジンを渡す……と。
「ひゃっ!」
手が滑って様々なエサが飛び出した。
「危ない!」
パルフェリア・シオットは、溢れかけたエサを素早く戻し、北郷鬱姫に戻した。
「ふぅ、危ない危ない」
冷や汗を拭って、長く息をついた。
「ありがとう」
「気をつけてよ!」
こうして仲良く、和気あいあいとエサやりをつづける。
紙モモンガへ、紙犬へ、紙猫へ……エサを与えていく。
所変わって、柵の中、うごめく紙草食動物達。
「エサの時間ですぅ」
「たくさん食べてね!」
「順番にあげますわ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がエサを配る。
紙アルパカや紙ふたこぶらくだ、紙キツネや紙イタチ、紙タヌキなど、様々な者達に果物や野菜や干し草を与えていく。
「食事が終わったら、私と遊ぶですぅ」
そう言って、メイベル・ポーターは小さなダイスや折り紙を広げる。
紙動物達はエサに群がると、彼女の持つものに興味を示してよっていく。
「僕、紙ふうせんをつくるよ!」
セシリア・ライトは、折り紙をもらって折り始める。
「わたくしは、皆様の様子を見ていますわ」
芝生に腰をおろし、フィリッパ・アヴェーヌがゆったりと言った。
紙動物達は、ダイスを転がしたり、折り紙で作られたものを突いてみたりして、遊んでいる。
「……あれ」
動物たちに視線を走らせていたメイベル・ポーターの瞳に、ひとつの水槽が映った。
「あそこに、カエルさんがいるですぅ」
そう言って立ち上がり、水槽へ寄っていく。
「メイベルちゃん、待って」
セシリア・ライトは慌てて追いかける。
「あらら、わたくしも行かなければなりませんわね」
フィリッパ・アヴェーヌもゆったりと、ついていく。
透明のビーズを水に見立てた水槽の中。適度にリアルなカエル達が、ぴょこぴょこ動いていた。
「カエルさん、私が唄を教えてあげますぅ」
てくてくと近寄り、メイベル・ポーターは楽しげに言った。
「カエルに教えるなら、かえるのうたかな」
「わたくし、拍子をとりますわね」
「その前に、まずは、基本から行きますぅ。ドの音は――」
和気あいあいと、音楽教室が始まった。
「ゲコゲコ」
と鳴いて、カエル達は音階を作っていく。
「上手ですぅ」
ぱちぱちと手を叩き、カエル達を褒める。
「じゃあ、唄に入りますぅ。カエルの歌ですぅ。ドーレーミーファーミーレードー♪」
ぱちんぱちんと叩かれる、フィリッパ・アヴェーヌの拍子に従って、ゆっくりと丁寧に教えていく。
紙ペットだからなのか、カエル達の物覚えはとても良い。
「じゃあ通してやってみてくださいですぅ」
メイベル・ポーターの指示に従い、カエル達が鳴き声で唄を表現していく。
「僕も歌いたくなっちゃうな。かーえーるーのーうーたーがー♪」
「上手ですわねー」
カエル達は滞りなく、かえるのうたを歌い終えた。
「折角だから、もう一曲教えたら?」
「そうですねぇ。じゃあ……きらきらぼしを」
そう言って、再び丁寧に教え始めた。
メイベル・ポーターは、その乳白金の髪を左右に揺らして歌い、セシリア・ライトも肩を揺らす。
フィリッパ・アヴェーヌも、拍手しながら楽しげに微笑む。
「カエル達も、楽しそうですわ」
「そうだね」
楽しげなメイベル・ポーターとカエルの様子を見ながら、二人は呟いた。
三人の音楽教室は、明るく和やかに、楽しく続けられていった。
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