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召しませ! 吉凶鍋判じ

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召しませ! 吉凶鍋判じ

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第二章 突撃! 隣の鍋食材 〜八百屋魚屋寿司屋でござい 果物は野菜に含まれます〜

「君が僕を連れ出すなんて、まったく珍しいこともあるね」
「……聞いたことのない鍋だからな。我は鍋には些か拘りと興味がある」
 空京商店街の八百屋前でそんな話をしているのは黒崎 天音(くろさき・あまね)とパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だ。
 闇鍋という未知の鍋に興味を惹かれての空京神社詣でである。
 店先の野菜を吟味するパートナーが心なしか浮かれているのを見て取って、天音は小さく笑う。
 興味津々なその態と真剣に野菜を吟味するその姿が可愛いくてたまらない。
(たまには、こういうのも悪くはないね)
 ようやくお眼鏡に適うものを見つけたらしいブルーズが八百屋の親父に声をかける。
「うむ、これだな。主人、この小カブを包んでもらいたい」
「へい。毎度。いや、お客さん、お目が高い」
 こんなやりとりが似合うドラゴニュートはパラミタ広しと言えどそうはいないはずだ。
「まいどありー」
 会計を済ませて店を後にした途端、ブルーズは眉を盛大に顰めてパートナーの襟元に手を伸ばした。
「……出掛けに我が整えてやったはずだ」
「そうだったかな? ストールがあるからこれでもいいと思わないかい?」
「整えろ。……だらしないのは好みじゃない」
 鱗に覆われた無骨な指が襟元の直すのを見ながら、天音はまた小さく笑った。
 その横を大きな紙袋を抱えた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が通り過ぎる。
 向うのは店の外で待っているパートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の元だ。
「お待たせ! 陽子ちゃん」
「随分とたくさん買いましたね」
「ついつい。せっかくだから、自分の好きな物をたくさん入れたいじゃない」
 透乃が抱える紙袋の中身は溢れんばかりのにんじんだ。
「おじさんが今朝採れたばかりだって言うから。他には何が入るかわからないけど、闇鍋ってそそられるね」
「――私は」
 言いかけて陽子は口を閉じた。
 あまり興味はない、むしろ参加したくはなかったのだ。
 だが、透乃に誘われてしまったからには行かないわけにはいかない。
 陽子が透乃の誘いを断ることはまずないのだから。
「ん? 何?」
「いいえ。そろそろ行きましょうか。透乃ちゃん」
「あ。うん。って、あたしは買い物したけど、陽子ちゃんは?」
 いいの? と首を傾げる透乃に陽子は腕に下げた買い物袋を見せて、何事もないかのように言い放った。
「節分らしく恵方巻きです」
「……陽子ちゃんの方がよっぽどやばそうだよ」 

「あ」
「あれ」
 リリィ・ルーデル(りりぃ・るーでる)姫宮 みこと(ひめみや・みこと)が空京商店街でばったり会ったのは偶然である。
 二人ともそれぞれに買い物袋を提げている。
 リリィの買い物袋――というよりは釣りにでも行ってきたのか、発泡スチロール製のクーラーボックスからは水滴が滴り落ち、
何やら磯の香りが漂ってくる。
 ぶっちゃけ生臭い。
 対するみことの買い物袋は甘ったるい香りとともに玉ねぎが腐敗しているような強烈な匂いを放っていた。
 ぶっちゃけ、この匂いの源は飛行機の機内や各国のホテルには持ち込めない。
 しばし無言で互いの荷物を見ていた二人だったが、にこりと笑みを浮かべた。
「「闇鍋だからねー」」
 実にいい笑顔である。
 そこに、これまた偶然にルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が通りかかった。
「あ。みことちゃんにリリィちゃんですぅ。こんなところでどうしたんですかぁ?」
「買い物です。ボク、これから空京神社の振る舞い闇鍋に行くんです」
「あ。あたしもそーなんだよ。せっかくだから、奮発して色々買っちゃったよ」
 ほらと差し出されるのは件の買い物袋。
 差し出されたそれから目を逸らしながら、ルーシェリアは少し遠い目をしてみせた。
「おや。それは奇遇ですね。自分はルーシェリアの運勢を見届けるために同行しているのです。
ルーシェリア。ここでリリィ殿とみこと殿に出会ったのも何かの縁。一緒に神社まで行きましょう」
「おー。いいね。皆で行った方がきっと面白いよ!」
「そうですね。ご一緒しましょう」
 仲間が増えたことに盛り上がるリリィと物静かに笑顔で応じるみこと。
「わぁ。じゃあ、みんなで一緒に行くですぅ。私、この鍋判じで運の良さを証明してみせるのですぅ」
 高らかに宣言するルーシェリアを見守るアルトリアも心の中で決意を固めた。
(――何が起こっても必ず自分が見届けます。だから、安心して臨んでください。ルーシェリア)
「いざ出陣! あたし、民なんとかの本で色々調べたんだよ。闇鍋には凄い歴史があるんだよ……」
 こうして四人はリリィが調べた闇鍋のかなり胡散臭い由来を聞きながら空京神社へと向うのだった。