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召しませ! 吉凶鍋判じ

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召しませ! 吉凶鍋判じ

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第八章 おひつと酒と闇鍋と 〜食べ続けますくるまでは〜

「美味いであります! このまろやかさがたまらないであります! しかし、自分のそば米はまだでしょうか?!」
 マイ箸とマイ茶碗で闇鍋に舌鼓を打つのは草刈 子幸(くさかり・さねたか)だ。
 闇鍋を食べているというよりはむしろ、闇鍋をおかずに持参した白米を食べているというのが正解だ。
「闇鍋なんて……腹壊すだけだぜ……」
 傍らでさも面白くなさそうにぼやくのはパートナーの草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)だ。
 元々食を馬鹿にしたような闇鍋という文化に嫌悪があるため機嫌はあまりよろしくない。
 だが、ぶつぶつ文句を言いながらも子幸の茶碗が空になればご飯をよそってやっている。
「こんなとこまで来ておひつ係かよ……やってらんねーぜ! ……ッたく、おら、次!」
 その様子を見ていた玲は感心したように呟く。
「――わんこ蕎麦ならぬわんこご飯」
「いや。玲さんの食べっぷりもお見事であります! そして、華麗かつ大胆な箸捌き」
 そもそもさっきのは褒め言葉のなのか。そして、それは褒めているのか。
 そんなこと考えながら莫邪は玲にも手を差し出した。
「おら、おまえも茶碗よこせ。喰うだろ?」
「是非召し上がってください! 米は力の源。それに鍋はわいわい囲むのが一番でありますな! 皆で腹一杯になるのは至福であります!」
 渡された白米にぺこりと頭を下げると玲はぺろりと平らげた。
「おいしいです。おかわり」
「バクヤ、自分にも」
 そのあまりのスピードに、こめかみをひくつかせて莫邪は叫んだ。
「子幸。それとおまえもっ。よっく噛んで喰え!!」
 手際よくご飯をよそいながら、莫邪はいつの間にか姿を消した同行者を罵倒した。
「この忙しいのにどこ行きやがったぁっ!? バカツキーっ!!」

「そがなぁことはわしの仕事じゃなぁでー」
 聞こえてきた罵声を笑ってやり過ごすのはバカツキこと子幸のもう一人のパートナー鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)だ。
「ばくやんは相変わらずじゃのー。さっちゃんもあの子も見事な食べっぷりじゃ。惚れ惚れするのぅ」
 少し離れた場所でおひつ係とその他諸々を莫邪に任せて高みの見物と洒落こんでいる。
 腰を落ち着けた先では果敢な挑戦者たちの反応が伺え、酒の肴にはもってこいだ。

「幸せ〜♪」
 満面の笑みを浮かべて加夜特製の鶏つみれを頬張るミント。
「キノコうまうま〜」
 その隣ではやはり同じように満面の笑みを浮かべたレティシアが茸類を次々と口に運んでいる。
 更にその横では夢見と『イ・ティエン』が具への感想を述べていた。 
「無難ねぇ……でも、運試しはまぁまぁね」
 掴んだきのこに少し残念そうな夢見だが、箸はハイペースだ。
 対する『イ・ティエン』は好物の肉団子をはふはふと食べている。
「これこそは活力の元であります!」
「幸先いいわね」
「はい! 夢見殿! しかし、これは何の肉でありましょうか? 少し甘い気がするであります」
 素朴な疑問を口をした瞬間。
「俺様のワニ肉かもな! ワイルドだけど、イケるぜ」
「うふふふ……人肉団子……」
「私の味噌味……甘いならチョコレート味かもしれない」
 依子、モモ、朔の三者三様の答えが返って来た。
「あらあら。たくさん種類があるのねぇ。よかったね、『イ・ティエン』」
 笑顔で鍋に向き直る夢見とは逆に『イ・ティエン』はお椀に残った肉団子をじっと見つめる。
「「……じ、人肉……」」
 うっかりそれを聞いてしまったミントも同じように固まっている。
「…うふふふ…」
 意味あり気な笑みを残してモモは去っていく。
 その懐から、『本日の特売!合い挽き肉団子』とのシールが張られたトレーが覗いいたのは神様しかしらない。
「う、嘘であります!」
「う、嘘だよ! ぼ、僕食べたのは加夜お姉ちゃんの鶏つみれだもん」
 涙目でお椀を覗き込む二人。
「さーどんどん食べちゃうぞー。ほらほら、早く食べないとなくなっちゃうよ」
 そこに夢見が追い討ちをかけ、二人はモモの言葉を忘れようと肉団子を頬張った。
「「お、美味しい……けど、怖いー!!」」
 残った朔は静かに鍋を食べ始めた。
「あ。――私の唐辛子肉団子。うん。辛いのもいけます」

「はい。鍋魔法少女。お椀はここだよ」
「うん…ありがとう…鍋防人」
 仲良く具材を取り分けると日奈々と千百合は同時に箸を口に運ぶ。
「このお野菜…もらいますねぇ〜」
「やった、ラッキー」
 箸の先にあるのはそれぞれの好物。二人は程よく煮えた野菜ときのこを堪能した。
「さっちゃんから闇鍋聞いた時はどけんことになるかぁ思うたが、宴はええもんじゃ」 
 からからと笑うと朱曉は徳利を持ち上げる。
「肉類も良いけど、鍋には魚介類の方がさっぱりするよなー」
 と、はむはむと魚の切り身を食べていた鍋パンダ――もとい垂は杯を重ねる朱曉に気付いて声をかけた。
「おまえは食べないのか?」
 問えば、返事の代わりに杯が差し出された。
「わしは見とるだけで腹いっぱじゃけぇの。気にせんでくれんか。それより一杯どうか。いけるクチじゃろ?」
「……確かに。食べるだけじゃ鍋ないな」
「そうじゃろ? 一献」
 酒で満たされた杯がかちりと小気味よい音を立てた。