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レッツ罠合戦!

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レッツ罠合戦!

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 あー、あー、本日は晴天なり、絶好の洞窟探検日和です。
 マルティン・リヒターからの依頼を受けた七十名を越える人々が、洞窟の前に集まっていました。
「あーあー、こほん」
 マルティン氏が、集まった一同の前に立ち、拡声器を構えます。
「諸君らにはこれより、この洞窟の内部にある当家の宝を回収してきて貰う。なお、洞窟は古い物であるので、内部で大がかりな術などを使えば崩落の危険性もある。調査中に何が起こっても、当家は感知しないのでそのつもりで」
 自慢の髭をくいくいと撫でながら、マルティン氏は偉そうに続けます。
「宝を持ち帰ることが出来た者には存分に謝礼をさせてもらおう。では、鍵を」
 サッとマルティン氏が手を挙げると、使用人らしき黒服の男がガチャリと入り口の鍵を開けます。すると、ご、ご、ごと重たい音を立てて石の扉が開いて行きます。
 扉が完全に開くと、岩肌にぽっかりと黒い穴があきました。
「では、諸君らの健闘を祈る」
 マルティン氏がそう言うのと同時に、賞金目当ての人々はどどどと洞窟内へなだれ込んでいきます。
「棒〜、棒〜。10フィートの棒はいかがですのー。お足元の安全確保にいかがですのー」
 そんな人々の横では、魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)が何の変哲もない長い棒を売りさばいています。何人かが足を止めて購入を検討しているようですが、おおむね無視して突撃していきます。

「よし……行くぞ!」
 その人波の中、ニクラス・リヒターもまた洞窟の中へむかって歩き出します。
 その周囲には、ざっと二十人ほどの男女の姿。ニクラスが雇った「ボディーガード」達です。
 一行はニクラスを中心に、取り囲むようにして進んでいきます。人数が多いので、それダッシュ、という訳には行きません。
「貴族たるものが、女性に対して失礼を働くなど……恥を知れ! 空賊行為でどれだけの損失を与えたのか分かっているのか」
 ニクラスの隣を歩くエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、さっきからニクラスになんやかやとお説教をしています。ニクラスの方はといえば、はぁ、だのすみません、だののらりくらりとかわしていますが、それでも過去に迷惑を掛けた相手からの言葉は耳に痛いのでしょう、さっきから目が泳いでいます。
 一行はそのまま、洞窟の入り口へと足を踏み入れます。
 おや、と何かに気付いた先頭集団がひょい、ひょいと左右に寄って行きます。誰かがニクラスの袖を引きました。
「そもそもだな、好いた相手に振り向いて欲しいなど、そのような幼稚な理由で……」
 しかし、お説教に夢中になっているエヴァルトは気付きません。
 そのまままっすぐ歩いていきます。
 ぼろ、と足元が崩れました。それでもエヴァルトは気付きません。
 すたすた、と二歩ほど空中を歩いてから――

 ひるひるひる…………べちょっ。

 落ちました。
 所謂、落とし穴と言う奴です。地図に記載はなかったものなので、先行する誰かが残していったものなのでしょうか、急ごしらえ感が否めない、一目見てそれと判るものだったので、他の面々は引っかかる事もなかったのですが。
「おーい、大丈夫かー」
 恐る恐るぽっかりと空いた黒い穴に向かってニクラスが声を掛けます。すると、エヴァルトは空飛ぶ魔法を自らに掛けてふよふよと戦線に復帰してきました。
「大丈夫だ」
 少し恥ずかしそうにしながら、エヴァルトは一行の後に着きます。

 再び歩き出した一行の最後尾に居た閃崎 静麻(せんざき・しずま)が、なにやら振り向くと、懐から取りだした細い糸を仕掛けています。
 そして、その先にどこから入手したのか赤外線センサーも設置。
 さらにそのセンサーに繋げるのは、バネ仕掛けのパンチグローブ。
 糸はダミーで、赤外線センサーが遮蔽物を感知すると罠が作動する仕掛けで、帰りがけに迂闊に足を突っ込むと痛い目を見る、という演出です。
「こんなもんか……」
 にんまりと笑うと、静麻は何事も無かったかのように一行の後を着いていきます。

「ったく、あんな分かりやすい罠に引っかかってんじゃねぇよ」
 ニクラスのやや後方を歩いていたゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が、聞こえよがしに言っています。後を歩くエヴァルトがぎり、とゲドーを睨み付けますが、睨まれた本人は全く意に介していません。
「だが、ニクラスが落ちたら厄介だからなァ?」
 言うとゲドーは、中空にサッと印を結びます。
「うおっ!?」
 すると、ふわりとニクラスの身体が持ち上がりました。空飛ぶ魔法の呪文です。
 最初は戸惑っていたニクラスでしたが、暫く進むうちに慣れてきたのか、初体験の感覚にはしゃいでいる様子です。
「だいぶ暗くなって来たわね」
 そう言いながら、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が手のひらに光術の明かりを灯します。確かにもう外からの光は、だいぶ弱々しくなってきています。作り出された魔法の明かりが、一行の足元を煌々と照らします。
「私もお手伝いするっ!」
 静麻のパートナーである閃崎 魅音(せんざき・みおん)も、キャッキャと楽しそうな声を上げながら光術の明かりを灯します。
 二人が灯した明かりによって、だいぶ視界が確保されました。
 今のところ目立つ罠は無いようです。
「あの、ニクラス様?」
「何だ?」
 それでも一応は慎重に進むニクラスに、葉月 可憐(はづき・かれん)が隣から声を掛けます。
「折角家のしきたりからも、片思いだった人への想いも切れたんですよね? それなのに、また家に戻ってしまうんですか?」
 可憐の言葉に、ニクラスはうぅんと唸ります。
「べ……別に、シェスティンのことは……それとして……真っ当に行きてく、って決めたからには、勘当されっぱなしってのもほら……な?」
 どうにもモゴモゴとして要領を得ないニクラスの答えに、可憐は首を傾げます。
「と、とにかく、いつまでもシェスティンに迷惑掛けてる訳にもいかねえし、かといって実家以外帰るところもねえんだよっ」
 些か考え方がまだお坊ちゃんのようですね。
 とは言え、実家に戻るというニクラスの決意は固そうです。可憐も一応は納得したのでしょうか、そうですか、と答えます。
「それでしたら、今度は冒険者など目指してみてはいかがです? 腕っぷしには自信があるのでしょう?」
 可憐がそう提案すると、パートナーであるアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が横で溜息をつきました。
「また危険なことをオススメしようとするぅ……農業とかの方が向いていると思うんですけどぉ……」
「の、農業……」
 何故農業、とニクラスが首を捻りました。
 と。
「ストップ!」
 前方を歩いていた清泉 北都(いずみ・ほくと)が、ぴたりと足を止めました。
 展開していた禁猟区に反応が合った様子です。
「ど、どうしたんだ?」
 鋭い声に、ニクラスは少しビビった様子で問いかけます。
「この先にトラップがありそうです。慎重に」
 北都が答えると、ニクラスはごくり、と喉を鳴らしました。
「どうやら、例の『槍が出てくる壁』って奴みたいね」
 ヘイリーのパートナーのリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、ヘイリーが灯した明かりを壁の方に向けさせて呟きます。
 壁には無数の穴が空いていて、その奥に時折ちらちらと銀色が輝いて見えます。さらには、足元には無数の血痕……どうやら、先行した人たちは強行突破を選んだようです。
「この人数が盾になればニクラスひとりくらい守りきれるでしょうけど、痛い思いはしないに限るわね」
 言いながらリネンがスッと進み出ます。そして、その辺から適当な大きさの石を拾って、何もない地面に向かって投げつけました。
 すると。
 しゅしゅしゅしゅしゅしゅん!
 鋭い音を立てて、左右の壁から鋭い槍が飛び出してきます。
 うわぁ、と何人かが驚きの声を上げましたが、リネンは意に介さず、光状兵器――魔剣ユーベルキャリバーを取り出します。そして、手にした大太刀でざっくざっくと飛び出してきた槍を切り落とします。
「……さ、これで大丈夫」
 リネンはニッコリ笑って、一行に洞窟の先を指し示しました。