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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第14章 ひと夏のブートキャンプ

「夏だ! 海だ! ひと夏の思い出じゃー!」
 シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)(人型名、セラ・フリード)が、浜辺を前に元気よく叫ぶ。ルイ・フリード(るい・ふりーど)リア・リム(りあ・りむ)もセラと一緒に歩いていて、その後ろでは銀色の、ボールのような機体に短めの手足がついた機晶姫、ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)が自らを鼓舞していた。
「頑張るのである……頑張るのである! ガジェット!」
 彼の両手には荷物が下がっていて、敷物、セラのお菓子、水筒、遊具、スイカに着替え……その他諸々と大量だ。
(今は荷物持ちであるが……到着すればパラダイスである! そう信じているのである!)
 声に出していれば、きっとリアがすっとんできて頭にへこみができていただろう。
 可愛い子なら男の娘でもOKなガジェットは、今回の海開きに感謝していた。
 何せ、リアとセラとわんさといるであろう可愛い子達の水着姿を拝めるのだ。我輩に搭載されているメモリーに無駄なく撮りきってみせるのである! と、主に女子方面で意欲満々だ。
 ――さ ら に !
(リア殿がお知り合いになったという麗しき友人も誘ったと言っていたのである! 会うのが楽しみで漲ってきたであるよ!)

(そろそろ、でしょうか……)
 皆とテーブルを囲みながら、アクアはちらりと携帯の時計表示を見る。午後過ぎの、リア達との待ち合わせまで、もう少し。
 彼女は席を立って浜を歩き、最小限の動作で辺りを見回す。その時。
「魔導書セラエノ断章さ、よろしくぅ!」
 突然、セラに抱きつかれた。背後から忍び寄っていたらしい。最初はインパクトが大事
「……!」
「びっくりした? 最初はインパクトが大事だからね!」
 覗きこんでくるセラに、アクアは止めていた息を吐いて抱きつかれたままに言う。
「貴女が、リアが紹介したいと言っていた友人ですか」
「そうなのだ。アクア……」
 リアが話しかけてくる。が、彼女達が会話を成立させる前に、ルイが朗々とした声を出して『皆』の注目を集めた。
「良い天気ですね! 青い海! 眩しい太陽! 熱い砂浜! 活気もあり実に良い! 体がうずうずして来ましたよ!」
「……?」
 その言葉に、彼のテンションに慣れているリア達も嫌な予感がして振り返る。嫌な予感というか……まあ、ほぼ100%次の台詞は分かるのだが。
「まさにトレーニング日和! ここは初心に帰りブートキャンプでも行いましょう♪」
「「「ちょっと待て!?」」」
 リアとセラ、そしてガジェット。今日来ているルイのパートナー達全員が突っ込んだ。ブートキャンプとは、かつてDVDがバカ売れしたあのブートキャンプである。家庭用ゲームソフトにもなったあのブートキャンプである。つまりエクササイズである。
 ……暑い海でエクササイズ……。海を目の前にして海に入らずエクササイズ……。
「『健全なマッスルスピリットは健全なマッスルボディに宿る』と言いますしね! 青春です!!」
「僕
「セラ はやらないよ(のである)!」
「我輩
 当然の如く、3人は断った。というか、内機晶姫であるリアとガジェットはエクササイズをしても何の意味も無い。
「むむ……。1人では味気無いですし、どうしましょうか……」
 そして、ルイは思いついた。
「よし! 体力が有り余ってそうな男性達を誘ってマッスルな思い出を作りましょう!! まずは……」
 海の家を見渡し、まずはアクアが座っていたテーブルに注目する。
「! そこの、実は筋肉なマッスル男がタイプなラスさん! どうですか!?」
「……!?」
 誘われたのと、何よりまた筋肉がタイプと言われて頬杖をついていたラスは、分かりやすく驚いてがくっとなった。どこまで浸透してるんだ。そういえばルイはむきプリ君お膝元のイルミンスール所属である。
「違う!」
 それを聞いて、ルイはきょとんとした。
「おや、違うのですか? しかし筋肉はいいですよ! ラスさんは筋肉がなさすぎです、どうです!? こちらでブート……」
「断る」
 転地がひっくり返っても絶対に嫌だ、という意志を込めてラスは言った。ルイは残念そうな顔をして、今度は海の家に注目した。そこでは、むっきむきのむきプリ君が何か夢見心地な乙女みたいな表情で座っていた。まだホレグスリの夢の中から抜け出せていないようだ。彼の前にはメニュー書きが無く、闇口に隔離処置されたらしく実に暇そうだ。
「素晴らしい筋肉ですね! どうですか!? ブートキャンプで一緒に汗を流しましょう!」
「む……、俺か?」
 むきプリ君はぱちっと覚醒したように目を開けると、ずかずことやってきた。ほれていない男には通常対応できるらしい。誘われたのが嬉しかったのか生き生きしている。
「海でブートキャンプ! いいじゃないか! 俺はやるぞ!!」
「そうですか!! 他の方は……」
 ルイが海の家を振り返ると、客も店員も一斉に目を逸らした。客は商品はまだかとわざとらしく言い、店員は一層慌しく動き出す。
「忙しそうですね……。他に、下心満載な方、1人寂しそうにしてる方、ナンパしてる方は……おや? あれは……。そこの方、私と一緒にブートキャンプどうですか!?」
「ブートキャンプ!? おお、楽しそうじゃな、わしもやるぞ!」
 寂しそうとは対極かもしれないが、源内が1人で遊んでいるのを見てルイは話しかけ、そしてゲットした。
 続いて、ルイはいつの間にか砂に埋められていたエッツェルを見つけてローブのフードを掴んでぼこっ、と引っ張り上げる。
「! エッツェルさん! どうしました!」
「いえ、女性に声を掛けていたら何故か宙を舞っていて、いつの間にか埋められてしまいましてね」
 エッツェルをぶっとばして砂に埋めるとは、中々に肝の据わった女性である。
「退屈なので少々話をしていたのですが……お隣の方も同じご事情のようですね」
 未だ砂に埋まっている風祭 天斗(かざまつり・てんと)の方を見て、エッツェルは言う。天斗はかなり初期から埋まっていたので少々頭が茹っているようだ。同じ事情という辺り、もしかしたらエッツェルを埋めたのはアイナだったのかもしれない。
「おお、そうですか!」
「それにしても、助かりましたよルイさん。これでまたナン……」
 ルイは天斗をまたもやぼこっ、と引っこ抜く。そして、エッツェルが皆を言う前に宣言した。
「お2人共、筋肉が足りないから砂に埋められるのです! さあ、一緒にマッスルな思い出を作りましょう!」
 ……全然助かっていなかった。
「さぁ皆さんスマイル、スマイル♪」

 誘った男達の真ん中に立って踊りだしたルイを放置して、リアはブートキャンプから少し離れた場所を確保して敷物を広げ、ガジェットが持ってきた荷物を置いた。
「アクア、元気だったか?」
「……ええ、それなりに」
 リアは、海が彼女にとっての良い気分転換になってくれれば良いと思っていた。無論、アクアと仲を深めたいという目的もある。
「……ところで、あの手足の生えたボールのようなものは何ですか?」
「手足の生えたボールなのだ」
 ガジェットを見て訊いてきたアクアに、リアはあっさりと即答する。同じ機晶姫だというのに、随分な言い様である。
「アクア殿! フォーリンラヴ!」
 その時、話が聞こえたのかガジェットが目をハートにしてどたどたと走ってきた。いや、砂の上だし実際はそんな音はしないのだがイメージ的に。
「…………」
 突然告白してきたガジェットを見下ろし、アクアはフォーリンラヴを無視して冷ややかな視線と共に言い放った。
「初対面でナンパですか……5000年早いですよ」
 だが、ドMのガジェットはその女王様のような彼女の態度にますます目をハートにした。
「ああ! その眼差しでもっと我輩を見て!」
「……な、何ですかコレ……」
 ドMを間近で見たのは初めてである。アクアがドン引きしたところで、リアが邪な雰囲気満々のガジェットのレンズを持参の戦闘用ビーチパラソルで潰して砂浜に転がした。これが、ビーチパラソルの正しい使い方である。
「ああ〜〜〜〜」
 転がりながらも、ガジェットはどこか嬉しそうだ。
「セラ」
 リアは、水着に着替えて戻ってきたセラに声を掛ける。
「ん? リア何ー?」
「あいつを氷漬けにしておけ」
「アレを氷漬けに……ね。おっけ〜♪」
 指で示された方を目で追い、セラはふふーん、と面白そうににやりと笑った。
「魔砲ステッキ構え! 範囲指定、魔力圧縮……」
 ステッキを真っ直ぐにガジェットに向け――
「ピンポイント氷☆術!」
 氷のビームが直撃して、手足の生えた喋るボールは氷漬けになって動かなくなった。非常に涼しそうだ。
「さ、遊ぼう!」
 パラソルを浜に突き刺して設置し、場所を確保したリアも頷く。
「せっかく海に来たのだ。何か思い出になる事をしたいが、セラ、何か案はあるか?」
「うん、まずはスイカ割りだよね! 海で泳ぐよりスイカ割り! 棒は……ルイが置いてった木刀使お!」
 パラソルの下から、蒼空のフロンティアのキャラクター達が描かれた木刀を取り出す。『キャラクター達』とはまた何とも曖昧である。誰が描かれているのか非常に興味が……あ、話が逸れた。
「スイカ割りする人ここに集まれ〜」
「余もやるのだ! スイカは大好きなのだよ!」
「あたしもやってみたいですー」
「よし、じゃあみんなでやろう!」
 スイカの気配を感じたトゥトゥ輝乃が走ってきて、2人とアクアを交え、セラとリアはスイカ割りを始めた。
「こっちですかー?」   「もっと左だよ!」   「まっすぐ、まっすぐなのだ!」   「割れた! 新鮮なスイカなのだ!」   「もう1個割るよ!」   「えーい!」
 そして、集まった全員が食べられるだけのスイカが割れた時、セラはアクアに木刀のフロンティアを渡した。
「はい! 次はアクアの番だよ!」
「? まだやるのですか? もう充分では……」
「うん、最後はあの氷漬けの……」
 セラは、悪戯っぽい表情で氷漬けになったままのガジェットの方を見た。この暑さで氷が溶けかけている。
「心にズドンと残る思い出をプレゼンツ! だよ!」
「あ、アレ……ですか?」
「遠慮することはないのだ。接客業など、まだ慣れない事も多いだろう。精神的に溜まったものやナンパへの思いを全てぶつけてすっきりするのだ」
「…………」
 アクアは、どこを見ても自分の顔が無い木刀のフロンティアとガジェットを見比べ――
 目隠しをした。

 ずがごっ! という音がしたのは、それから間もなくのことだった。