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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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「お疲れ様。はい、どうぞ。あ、お代はいらないから気にしないで」
 海の前に如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)がカップケーキと飲み物を置く。
「は、はぁ。ありがとうございます」
「はい、ラグナも」
「ありがとう佑也ちゃん。うわぁ、美味しそうですわ♪」
 海の対面に座ったラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)が佑也からカップケーキを受け取り、顔を綻ばす。
「あの……働かなくていいんですか?」
 おずおずと、海がラグナに問いかける。
 今海が居る臨時喫茶【とまり木】には、休憩の為か調査団の面々の姿がちらほらと見える。花妖精の子供達も手伝っているが、店員が忙しそうに動き回っているのが目立った。 
「休憩ですわ。一仕事して一汗かいたので」
 そう言ってラグナが横を指さした。その先にあったのは積まれた薪の山だった。
「薪割りをしてもらったからね……さて、俺も同席させてもらおうかな」
 そう言って佑也が座る。ちゃっかり自分の分のケーキも用意してある分、最初から休む気だったらしい。
「佑也ちゃんいいの?」
「ちょっとだけだよ。ところで海くん、調査の方はどうだい?」
「あ、えーと……ま、まぁぼちぼちといったところですかね」
 その海の言葉に佑也が顎に手を当て考える仕草を見せる。
「やはりそう簡単に作業は進まないみたいだね……でも焦らないで、こんな風に休む事も必要だよ」
「そうですわね。根を詰めすぎてはどうにもなりません。たまに休息を取ることも必要ですわ」
「そこのお二人さんの場合、今はその『たまに』じゃないと思うんですがねぇ?」
 佑也とラグナの背後に、引きつった笑顔を浮かべたアルマ・アレフ(あるま・あれふ)が立っていた。白いエプロンをつけている所を見ると、ウエイトレスをしているようだ。
「あらアルマちゃん、可愛い笑顔が怖いことになってるわよ?」
「誰がそうしてるのよ! 今忙しいってのに何油売ってるの!?」
「まあまあ、落ち着いて……」
「佑也もよ!」
「ひゃっ!?」
 その時、アルマの後ろで子供の小さい悲鳴が上がる。見ると転んだ子供が、足元に食器を転がし目に涙を浮かべていた。
「あ、大丈夫? 怪我はない?」
 その子供の同じ目線で屈み、アルマが頭を撫でて宥める。
「おねーさんが片しておくから。ほら、泣かない泣かない」
 アルマが軽く埃をはたいてやると、子供は涙を目にためつつも頷き、戻っていった。
「アルマも成長したねぇ……」
「成長しましたわ……」
 そんなアルマを見て、佑也とラグナが微笑ましい目をした。
「まだ手伝おうって気はないか……」
「は、はは……」
 怒りに震えるアルマを見て、海は苦笑を浮かべる。
「佑也〜アルマ〜ラグナ〜、刀真どこにいるか知らない〜?」
 そんな時、ウェイトレス姿の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が寄ってきた。
「樹月くん? さっき円くんたちとあっちの方に行ったよ?」
「ありがと。あ、そうそう、さっきバーベキューやってるところで少し分けくれるらしいから、落ち着いたら皆で食べよう」
 そう言うと、月夜は佑也が示した方角へと去って行った。
「バーベキューですか、いいですわねぇ」
「そうだね」
「はいはい、落ちついてからって言ったでしょ? 落ち着くまで働く働く! あ、海はゆっくりしていってねー」
 そう言うと、アルマが佑也とラグナの首根っこを捕まえて引きずるように連れて行った。

 海達が居た座席から少し離れたテーブル。そこを樹月 刀真(きづき・とうま)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が囲っていた。
「……ってなわけで、ボクの方も調べてみたんだけど、正直いい結果はでませんでした。ごめん」
「私も、空振りだったわぁ」
 円とオリヴィアが肩を落とす。
 彼女達は先程まで、書庫で調査をしていた。幾つか疑問点を持ち、それを解消しようとしたのだが、これといった情報を得ることはできなかった。
「書庫にあった絵本を【サイコメトリ】してみたんだけど、よくわからない物しか見えなかったよ」
「私は本を片っ端から読み漁ったけど、第四世界に関する記述らしきものは無かったわねぇ」
「そうか……まあ、そう簡単にいかないさ」
 そう言うと、刀真はお茶とお菓子を円達に差し出す。
「あれ? 何これ?」
「情報料代わりだ。受け取ってくれ」
「でも、これと言って成果は無かったよ?」
「まあ、白花にとってはあったみたいだからな」
「ええ」
 そう言って刀真が横に目をやると、嬉しそうに微笑む白花がいた。彼女の前には、円が持ってきた絵本がある。
「おとぎ話もいいですね。後でこの話を歌にしてみましょうかね?」
 気に入ったらしく、ご機嫌である。
「と、言うわけだ。安心してくれ、味は保障する」
「そういう事なら遠慮なく貰おうかな」
「そうね、いただくわ」
「あ、いたいた、刀真。探したわよ……あ、円にオリヴィア、いらっしゃい」
 刀真を探していた月夜が、歩み寄ってくる。
「うん、お邪魔してるよ」
 円が手をひらひらと振る。
「どうかしたのか、月夜」
「うん、あのね……ん? 白花、何読んでるの?」
 刀真に何か言おうとしたとき、月夜の目に白花の絵本が映る。
「これですか? 書庫の絵本です」
「……いいな〜、私も読みたい……」
 羨ましそうに白花の本を見る月夜。
「ええ、後で一緒に読みましょうか」
「……何か用事があったんじゃなかったか?」
「あ、そうそう」
 刀真に言われ、月夜は我に返る。
「さっきバーベキューやってる人たちから御裾分けくれるっていうから、後で一緒に食べようかと思って」
「バーベキューか、わかった……ああそうだ。月夜、後で少し菓子を用意しておいてくれ」
「いいけど、どうするの?」
「貰ってばかりじゃ悪いからな、こっちも御裾分けしておこうと思ってな」
 そう言うと月夜は「わかった」と言って頷き、仕事へ戻る。
「バーベキューね……ね、刀真くん、良かったら私たちの分も貰って来てくれるかな」
「ああ、構わないぞ」
「ありがと、あ、後あったら内臓料理よろしく」
「円ったら好きねぇ」
「注文が多いな……あったら、な」