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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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「えーっと、これとこれとこれと、後はこれとこれとこれ……」
「ってちょっと待て! ちょっとはこっちのことも考えろ!」
 本棚から次々と本を取出して投げるように渡してくる大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に、匿名 某(とくな・なにがし)が怒鳴る。
「えー、だって某がそれっぽい本って言うからー」
「いえ、ちょっとこっちのペースも考えてください……」
 疲れたように海が康之に言う。先程から康之がどんどんと本を持ってくるので、読むよりも積み上がっていく方がペースを上回っていた。
「大体俺が探してくれって言ったのは『負の存在』が出てるような話って言っただろ? この本なんか冒険活劇だったぞ?」
「あ、それオレが読みたいと思ったやつだ」
 康之がそう言った後、某が大きく溜息を吐く。
「ったく……海、そっちは何かあったか?」
「今の所は残念ながら」
 海が首を振るのを見て、某がそうか、と肩を落とす。
 海は書庫で、某達と書物を調べていた。『負の存在』を描いたものに重きを置いている。某の『大いなるもの』と『負の存在』をイコールでつなげられないか、という発想からだ。
「少し安直だったか……おとぎ話なんだからわかりやすい表現にしてるんじゃないかと思ったんだけどな。そっちはどうだ?」
 某が結崎 綾耶(ゆうざき・あや)に話しかける。綾耶は海と某とは別に、『おとぎ話』から当時の背景を調べられないか試みていた。
「いえ……こちらも」
 申し訳なさそうに首を振る綾耶。
「実話を元にしているからには何かしらあるとは思うのですが……お役に立てず申し訳ありません」
「気にするな、アイツよりずっと役に立ってる」
 そう言って某が指さす先には、先程の冒険活劇を読みふける康之が居た。
「はっはっは、そう簡単に核心という物は掴めぬよ。しかし根気よく行けば楔くらいは掴めるかもしれぬぞ?」
「要するにあきらめずに調べろって言いたいのか? なら少しくらい手伝えそこの茶飲み髭紳士。サボってるなら出てけ」
 ジロリと某がミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)を睨み付けるが、本人は何処吹く風と【薬草茶】を一口啜る。
「断る。知恵を絞り汗を流すのは私に似合わないのでね。それに私をどうこうする権利は何者にもありゃしないよ」
「このジジィの髭全部抜いてやりてぇ……」
「まぁまぁ……」
 呟く某を海が宥める。
「ふむ……しかし機械仕掛けの少女が産み出した叡智に興味がわかないわけでもない。どれ、私も何か読んでみるかね」
「なんだ、手伝う気になったのか?」
「あくまでも私の知識欲を満たす為だけの行為だよ」
 某の言葉を鼻で笑いながら、ジョーカーは書物を一つ手に取り読み始める。
「そんな気さらさら無しってか……よし、あの髭抜こう。抜いてつるっつるにしてやろう」
「せ、センパイ落ち着いて!」
「お、落ち着いてください某さん!」
 立ち上がりかける某を海と綾耶が止める。
「悪いな二人とも。俺はもう臭いあの茶の臭いとあの髭が我慢できないんだ」
 某の目はマジだった。
「そ、そうだ! そろそろお茶の時間にしましょうか。みなさん疲れてきてますし、ねえ海さん!?」
「そ、そうですね! そうしましょうかセンパイ!」
「あの、皆さん何をなさっているのでしょうか?」
 ドロシーが首を傾げながら話しかけてくる。
「あ、ドロシーさん。そろそろ休憩がてらお茶にしようかと……あ、それならここより外でやった方がいいですね。よろしければドロシーさんもどうですか?」
「私も、ですか?」
 はい、と綾耶が頷いた。
「そうですね……それなら他の方もお誘いしてきますね」
 そう言ってドロシーが書庫を見渡す。中にはまだ何人か、作業をしている者達がいた。
「ならオレも行こう。何か分かったか聞きたいし……センパイ達は先に行ってください」
「はい……ほ、ほら、行きましょう某さん」
 海の言葉に綾耶が頷くと、某達を連れて外へと出ていった。