リアクション
【十 下山】
水晶亭に残してきた面子を除き、山頂を目指して登攀してきた全ての面々が、御来光に包まれた山頂付近に集まってきていた。
どの顔にも、疲労の色が随分と濃厚に浮き出ているが、しかし同時に、達成感とも呼ぶべき爽やかな表情が並んでいる。
「皆……良い顔してるねぇ」
自身も相当に疲労困憊ではあったが、おなもみは強風にも負けず、スケッチブックを器用に取り出して、そこかしこで見られる笑顔を絵に描き留め始めた。
肉まん御来光作戦は中途半端に終わってしまったが、終わり良ければ全て良し、である。
一方、手近の岩に座り込んでいた羅儀は、目の前に差し出されたグラスに、驚いた顔を見せた。差し出してきたのは白竜である。グラスには、年代物のウィスキーがロックで注がれていた。
「新年好、干杯」
幾分ぶっきら棒ではあったが、白竜は確かに、そういった。羅儀は苦笑しつつもグラスを受け取り、僅かに掲げてから、ぐいと飲み干した。
白竜も多少は表情を崩して御来光に再度視線を転じたが、その視界の中で、いきなり菊が持参した奉納膳を並べ始めたものだから仰天してしまい、座っていた岩から滑り落ちそうになってしまった。
「何だ、持ってきておったのか。呆れた奴だ」
正子が、むっつりとした表情で菊の奉納膳を凝視する。菊は勝ち誇ったように、胸を反り返らせた。
「どうだい? どんな時でも、料理を奉げる精神だけは決して忘れない……挽擂料技の基本さ」
「全く、うぬには敵わんな」
正子が珍しく、降参した。美晴が隣で驚いた顔を見せているのだから、余程に貴重な光景なのであろう。
この後、僅かに間を置いてから、ルカルカが正子の傍らに駆け寄ってきた。どうやら、水晶亭のダリルから連絡が入ったらしい。
「脳死状態だった皆は、無事に復活したそうだよっ。息子Jさん、上手くやってくれたみたいだね」
ルカルカの言葉に、正子のみならず、その場に居た全員が胸を撫で下ろした。水晶亭に残っている面々にしてみれば、これ程に美しい御来光を拝めなかったのは気の毒だが、また来年、チャンスはある。
何しろ、息子Jは完全復活したのだ。
登山者達がフライデンサーティンを美しく保つ意識を忘れなければ、来賀・イングランドやブギー・スケキヨが再び猛威を振るう可能性は、無きに等しいのである。
正子がふと右手の岩場に視線を転じると、疲れ果てて眠り込んでしまっている翠とアリスの姿があった。
緊張の糸が切れた上、御来光を拝観するという目的も達した為、一気に睡魔が襲ってきたのであろう。だが、場所が場所である。これだけの冷気の中で熟睡してしまうと、体調に異変を来たす恐れがあった。
一応、ミリアが翠とアリスに防寒具を重ね着させてはいるものの、長居して良い状況ではない。
「大丈夫か?」
「ええ、何とか……あ、やっぱり翠を、お願い出来るかしら?」
正子は既に熟睡中の華花を背負ってはいたが、もうひとりだけ、背負える余裕があった。
数分後、華花と翠は御来光の眩い光を浴びながら、正子の人外ともいえる程の広い背中に守られて、仲良く眠りこけていた。
* * *
下山開始の少し前、フィーアは眠そうに目をこすりながら、大広間に敷かれた布団から上体を起こした。
傍らには、相変わらず炬燵に篭もって蜜柑を剥く昌景の姿がある。
「起きたか……気分は?」
訊かれたフィーアは、盛大な欠伸を漏らしながら大きく背伸びしてみせたが、しかしその表情はどうにも冴えない。
「なんだか、酷い夢を延々と見てたんだよね。内臓を引きずり出されたり、全身を凍結させられて端っこから徐々にかち割られたり、熱々の油を浴びて体中の皮がべろーんと剥がれたり……って、ちょっと、聞いてる?」
フィーアに質問しておきながら、昌景は耳を傾けることも無く、黙々と蜜柑を剥き続けている。
途中、蜜柑の知るが目に入ったらしく、痛そうに片目を閉じながら涙を流していた。
『初日の出ツアー 馬場正子ご一行様』 了
当シナリオ担当の革酎です。
このたびは、たくさんの素敵なアクションをお送り頂きまして、まことにありがとうございました。
尚、喪中の為、新年のご挨拶は控えさせて頂きます。どうかご了承くださいませ。
リアクションをご覧になられた方は既にご理解頂けているものと存じますが、元ネタは13金と見せかけて、実はFvsJでした。若干、ハロ○ィンとか犬神ファミリーも顔を出しておりますが。
年末年始のイベントシナリオですので、多少の暴走はどうぞご容赦下さいませ。
最後になりましたが、本年も宜しくお願い申し上げます。