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魔法の森のミニミニ大冒険

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魔法の森のミニミニ大冒険

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第5章 大敵と見て恐れず、小敵と見て侮らず



ルシェイメア達がお菓子でバリケードを積み上げてからほどなくして、蟻の群れが追い付いてきた。
しかし予想通り、蟻たちは目の前に山と積まれたクッキーや砂糖菓子を確認するや、すかさずターゲットをそちらに変更し、いそいそと餌を巣へと持ち帰り始めたのだった。
その様子を見届けてから、エリザベート達は再び霧の外に向かって歩を進めていた。

「よかった…、蟻さんたちと余計に戦わなくてすんで……」

ミーミルは、ほっと胸をなでおろす。

「よくはないですぅ。私たちはまだ元の身体にも戻れてもいないのですよ?」
「まあまあ。あと少しで霧から出られるとさっきエースさんも言ってましたし、もうちょっとの辛抱ですよエリザベートちゃん」

口を尖らせるエリザベートの頭を、明日香がよしよしと撫でる。

「……いや。まだそううまくはいかないみたいですね」

そう緊張した声で言ったのは、エオリアだった。見れば、先行していた者たちが皆足を止めている。
明日香やエリザベート、ミーミルたちもエオリアの視線を先に目をやり―――そして、絶句した。

それは、とても巨大なムカデだった。鬱蒼と茂る草と草の間から黒光りする胴体を突き出し、朱色の頭と触角を左右に揺らめかせて、エリザベート達との間合いを見計らっている。

「くそ! あと少しで霧の外に出られるのに…」

エースが歯噛みする。

「仕方ないですぅ…。ここは、戦って―――」

と、エリザベートが言いかけた時だった。

突然、真横から無数の銃弾がムカデに襲い掛かった。そして間髪入れずに一人の若い女性が、エリザベートとムカデのあいだに躍り出た。

若い女性――メタリックブルーのビキニにロングコートを羽織ったその女性は、すぐさま手から紅炎を放つ。ムカデは身をくねらせ一瞬もがく様子を見せたが、すぐに体制を立て直すと細長い体をくねらせて火炎を避けた。

「そう簡単に倒させてはくれないか…。まあいいわ。エリザベート、ここは私たちに任せて! このセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が巨大ムカデの相手をするわ!」

そう叫ぶと、セレンフィリティは先ほど飛び出してきた草むらで待機しているパートナーに向かって声を掛けた。

「セレアナ! あんたもいつまでも真っ青な顔してないで、ちゃんと戦うのよ!?」
「わ、わかってるわよそんなこと!」

セレンフィリティの言葉にレオタード姿のパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が憤慨する。しかし、いつものクールな様子は鳴りを潜め、引きつった表情を浮かべていた。

そしてその隣では、ツナギ姿の少女と、分厚い装甲に身を包んだチンパンジーがセレンフィリティとムカデの戦いを見つめていた。彼女たちも又セレンフィリティやセレアナと共に、エリザベート達の救出のために霧の中に足を踏み入れた者たちだった。

「これは立派なムカデだねぇ。色といい形といい、あれはトビズムカデかな? 日本でよく見かける種だけど、こんなイルミンスールの森でも見れるとは驚きだな。肉食の獰猛な奴で、相手が人間でも容赦しない奴だ。体に猛毒を持っているから、噛まれるとたとえ人間でも痛みと熱で大層苦しむということだよ」

巨大ムカデを眺めながら嬉しそうに薀蓄を傾ける少女――笠置 生駒(かさぎ・いこま)に、パートナーのジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が鋭いツッコミを入れる。
「悠長に解説しとる場合か生駒!あんな大物、噛み付かれたら痛みどころか一瞬であの世行きじゃ! セレンフィリティ! わし等も加勢するぞ!」

かくして、巨大ムカデ対四人の戦士たちの戦いが始まった。

セレンフィリティが二丁拳銃とパイロキネシスでムカデの頭を狙い、ジョージが鳳凰の拳でムカデの体側を狙う。そしてセレアナが天のいかづち、生駒がドラグーンマスケットで後衛からムカデを狙い撃つ。
しかし、ムカデは思った以上に敏捷だった。360度どちらにでも曲がる体と、無数の足を器用に使い、四人の攻撃を紙一重でかわしてゆく。

「くっ…。こうウネウネと動かれちゃあ、攻撃もなかなかあたりゃしないわ」

悔しげに言うセレンに、生駒が相変わらずの能天気な口調で応えた。

「そう言えば、日本には冷気でムカデを凍らせる殺虫剤があるけど、こいつにも効くんじゃないかな。氷結属性の攻撃でいったん足止めした方がいいかもしれないね」
「とすれば…………セレアナ、あんたの氷結で仕掛けるわよ!」
「氷結……、ってちょっと待ってよ。あれは攻撃範囲に限界があるから、接近戦じゃないと使えないって!」
「だーかーらー! あんたが近づいて直接攻撃するのよ! 大丈夫だって、噛まれないように援護はしてあげるから」
「ワタシもジョージも氷結属性の攻撃はできないから、まあ、君がやるしかないだろうね」

そう言いながら生駒は破壊工作のスキルでムカデの足元を爆発し、その体を転覆させようと試みた。爆炎が上がり、巨大ムカデの身体が跳ねる。
しかしムカデは長い体を器用にくねらせて、うまく地面に着地した。―――セレアナの目の前に、である。

「セレアナ! 今よ!」

パートナーの声に、しかしセレアナは動かない。いや、動くことができない。うぞうぞと蠢き地を這う無数の足を、あらぬ方向にねじ曲がり陸に上がった魚のようにびちびちと跳ねる蛇腹状の身体を、およそ自然の色とは思えないような鮮やかな朱色の頭や触角を見ているだけで、頭の中が真っ白になってしまうのだ。

「ぅあ…、あ、」

そして、セレアナの神経は限界を迎えた。

「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

セレアナの叫び声に呼応するように、周囲の空気が一気に下がり、人の頭ほどの氷塊がムカデに降り注いだ。体と足が凍りつき、ムカデの動きが封じ込まれる。

「おお、お見事」

生駒が称賛の声を上げる。

「よし! 一斉攻撃よ」

セレンフィリティが愛銃の「シュヴァルツ」「ヴァイス」を、生駒がドラグーンマスケットをムカデの脳天に向けて構え、ジョージが拳を大きく振り上げた。――その時だった。


突如、一陣の風が吹き荒れ、その場にいたすべての者たちの視界を真っ白に変えてしまったのだ。