空京

校長室

戦乱の絆 第1回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション

 エピローグ
 
 ネットに絡まれたアイシャがヘクトルの前へと引き出される。
「ご苦労だった。他の者は下がれ」
 ヘクトルは騎士達を下がらせ、携帯椅子に腰掛けさせられたアイシャを見据えた。
 疲労の様子を色濃く見せる彼女は軽く項垂れるようにしている。
 騎士達が撤収の準備を行う音だけが、しばらく響いていて。
「お前が……」
 ヘクトルはゆっくりと口を開いた。
「女王の血を得たお前が、シャンバラの代王たち……女王のパートナーの血を得ることで、“女王そのものになる”というのは本当なのか」
 アイシャが顔を上げ、
「私は、一介のメイドに過ぎません」
 その声は疲れに掠れかかっていたが、口調は強かった。
「しかし、アムリアナ女王は私に力を託されました。そうである以上、私は、使命を果たさなければいけない」
 ヘクトルはアイシャの双眸を睨むように真っ直ぐ見据えていた。
 その彼の眼を、彼女の瞳は真っ直ぐ淀み無く見据え返していた。
「そのためなら、私は、手段を選ぶつもりはありません」
 ヘクトルは、しばらく何も言わずにただ彼女を見ていた。
 そして、
「……お前は、駄目だな」


 タシガン、薔薇の学舎。
「西シャンバラの国境警備隊基地での戦闘ですが――各学合同の契約者たちと教導団のイコン試験部隊により、エリュシオンの兵は退けられました」
 ルドルフの報告は続く。
「しかし、基地は壊滅的な打撃を受け、西シャンバラは基地の放棄を決定。これで、事実上、西シャンバラはカナン国境における足がかりを失いました」
「しかし、あの龍騎士の部隊を退けたというだけでも賞賛に値するだろう。……契約者たちの力は日毎に増して来ているということだな」
 ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)は、ゆったりとした動作で豪奢な椅子の肘掛けに頬杖を付き、
「吸血鬼の少女の方は?」
「アイシャは、ジャタの森で東西の契約者たちと接触――その後、森をヴァイシャリー側へと抜けましたが、エリュシオンの第七龍騎士団に捕らえられたそうです」
「帝国自らが決着を付ける形になったか」
「……吸血鬼とは、どのような種族なのでしょうか」
 ルドルフが少し、ためらった様子を見せてから問いかけてくる。
「魔族であるのは分かります。しかし、ザナドゥの悪魔たちとは違うものであるように感じるのですが……」
 ザナドゥの探索域はまだ極辺境の隅にしか行えないため、分かっていることも少なく、明確な意見としては言えないのだろう。
 ジェイダスは、軽く眉を遊ばせてから、端に居るラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)の方を見やり、
「それは私より彼の方が詳しいな」
「何故、私が貴様らにそのような事を話さねばならんのだ」
 ラドゥが鬱陶しそうに眉を潜める。
 ジェイダスは、少しばかり口端を上げて、
「私が聞きたいからだ。他に理由がいるなら、おまえが気に入りそうな嘘を幾つか用意してもいいが……」
「……5000年前、女王が眠りにつかれてからの話だ」
 ラドゥが仏頂面で続ける。
「女王に仕えていた家臣の一人が、女王が復活された時に備え、自らの力を不死の魔族の体へと作り変えた。それが、我々吸血鬼の由来だ。――その頃から生きているのはアーダルヴェルト様ぐらいのものだがな」
「ザナドゥの悪魔たちとは根が違うのですね」
「自らの体を作り変えたという本人はどうなった?」
「“始祖”はナラカへ消えた後、未だ帰還してはおらん」
「……その始祖が、アイシャということは?」
「それは無かろう」
 ルドルフの問い掛けに、ラドゥが鼻で笑う。
 ジェイダスは、ルドルフへ視線を直した。
「それで、そのアイシャは?」
「東シャンバラの総督府へ護送されたとのことです」


 ヴァイシャリー総督府。
 ヴァイシャリー政府の庁舎をエリュシオンが接収したものだ。
 その一室に、アイシャは居た。
 扉が開かれ、アイリス瀬蓮と共に現れ、カツカツと床を鳴らしてアイシャの前へ立った。
 その眼はアイシャを少しだけ眺めてから、興味なさそうに逸らされた。
「手配が整い次第、君はユグドラシルへ護送される。その間は楽にしていて欲しい。もちろん、テレポートで逃げられると手間なので魔法対策の行われた館内での話になるが」
 その声は義務的に続けられた。
「その他、不満があれば世話をする者に言いつけてくれ。短い間だが、君とは友好な関係を築けることを期待する。以上だ」
 言って、アイリスが早々に立ち去ろうとする。
 アイシャは、短く息を吸ってから。
「あなたは、ずっとそうやって生きていくつもり?」
 アイリスの足音が止まる。
 アイシャは目の前の壁を見つめながら続けた。
「あなたは、強者である自身は何事にも干渉すべきではないと、自分で決めたつもりかもしれないけど……本当は違う」
 視界の端で、瀬蓮が小さく手を合わせながらアイリスを心配そうに見やっている。
 アイシャは言った。
「あなたは自らの意思を持たず、ただ運命に流されているだけ」
 カツ――と、アイシャへ近づく靴音が一つ強く鳴った。
 そして、張り詰めたような間が合ってから、
「……好きに捉えるといいさ」
 アイリスが色の無い声で言って、再び、靴音は遠ざかっていった。
 瀬蓮が慌てて後を追って、扉は閉められる。


 カナン国境上空。
 忙しく沸騰する湯面のように、虚空へ瞬間的に幾つもの歪みが生じては、すぐに軋み弾けて気配を失せていく。
 空には、そういった光景が無数に広がっており、変化と奇妙な音の軋みを繰り返していた。
 しかし。

(――キヒッ)
 声が割れる。
(決したな)
 コリマが呟く。
 そして、声は、けたたましく笑った。
(アハハハハハハハハッ!! オーケーオーケー! 参ったよ! 降参だ!!)
 その声の通り、周囲で復活しかけていたゴーストイコンたちが次々に地に落ち伏していく。
(でもね、月並みな台詞で申し訳ないけど、これで終わりじゃない! 終わりじゃないんだよ! 一度蘇ったゴーストイコンは増殖を続ける――ほら、聞こえない? 耳を澄ましてごらんよ……聞こえるでしょ? 亡者の這いずり出してくる声がさあ! アハハハハハハッ!!)

 その言葉の通り――
 以降、ゴーストイコンは様々な地で仲間を“復活”させ、シャンバラ各地を荒らし始めたのだった。
 それを受けて、西シャンバラ政府は天御柱や教導団だけではなく国家全体で使用可能な量産型イコンの実用化を急ぐこととなる。

 一方、東シャンバラ政府はゴーストイコンと同タイプのイコンを整備し、量産化するという計画に着手。
 その開発に協力したのは、鏖殺寺院だった。


 仄かな明かりに照らされた一室での会談。

「想像していた通りだ」
 その白人の男の後ろには、数十人の少年たちが立っていた。
 皆、黒人の少年だ。彼らの瞳に意思の光は無かった。
「私は、かねがねアナタとは気が合うと思っていたんですよ」
 男がテーブル越しに綺麗な笑みを向けてくる。
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は微笑を返した。
「光栄ですわ」
「私は全面的にあなた――ああいえ、東シャンバラへ協力させていただきます。西を打ち倒すことなど造作もない。ね? それに、いずれはエリュシオンも……」
「イカレておる」
 ラズィーヤの隣に座っているアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の小さな呟きが、こっそりと聞こえる。
 男の方は気づいていないようだった。
「私とあなたなら、それが出来る。そうでしょう?」
「滅多なことを言うものではありませんわ」
 ラズィーヤは、吐き気すら感じる彼への嫌悪感を内に留めたまま、やんわりと濁した。

 鏖殺寺院の幹部イアン・サール
 イギリス系南アフリカ人の地球人だ。
 アフリカで“買った”黒人の子供たちを強化人間としパートナーとしている。
 彼の強化人間は特殊な処置が施されており、パートナーロストによる影響が低く抑えられている。
 この処置は強化人間の寿命を数ヶ月のものにしてしまうため、今まで使われることの無かった技術だった。
 その難点をイアンは物量によって補っている。
 そのため、会談が行われるたびに連れている少年の顔ぶれは違った。

(――若造が)
 アーデルハイトは苛々とテーブルの裏を指で掻きながら、この不快な会談が終わる時を待っていた。
(契約者になったからと調子付きおってからに……)
 正直、こんな愚か者とは同じテーブルにつくことすら遠慮したかった。
 しかし、シャンバラ各地に現れ始めたゴーストイコンに対処するためには、イコンの配備が急がれている。
 イコン開発の遅れた東シャンバラは、手段を選んでいる暇は無かったのだ。
(まったく……頭の痛いことよ)


 空京。
 シャンバラ宮殿には、西シャンバラの各校長が集まり会議を行っていた。

 教導団校長金 鋭峰(じん・るいふぉん)
「東シャンバラは鏖殺寺院と組み、イコンの配備を進めているという話だが――」
「各地のゴーストイコンの出現が理由だろ。こっちだって手一杯なんだ。あっちも仕方ねぇことだと思うが?」
 蒼空学園校長山葉 涼司(やまは・りょうじ)
 明倫館校長ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)
「しかし、寺院と手を組んだのは些か行き過ぎているでありんす」
「新たに設けられつつある軍事施設の配置も問題だ。これは明らかに西シャンバラを牽制している」
「だが、合同医療活動支援で協定結んだばっかだろ?」
「それとこれとは別の話だ」
(現在、天御柱学院はPASDの件で東西シャンバラ合同による東シャンバラの鏖殺寺院基地への襲撃を遂行中だが)
 天御柱学院校長コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)
「鏖殺寺院が一枚岩でないことは分かっている。だが、イアン・サールという人間がどんな者であるかの噂ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
(………。イアン・サールの関与を理由に東シャンバラの軍事施設の視察を要求するか?)
「素直に応じるとは思えんがな」
「……応じない場合は?」
「西シャンバラを牽制する幾つかの拠点を落とす必要がありんすな」
「――ッ、本気で東西戦争を起こすつもりかよ!」
「違う。最悪の事態を避けるための話だ」
(……近い将来に見当される数のイコン同士が全面的に争うとなれば、シャンバラ全体にどれだけの被害が及ぶか分からんのは確かだ)
「先手を打っておくのは必勝の理でありんすよ。今ならまだ、最小の被害のみで鏖殺寺院の目論見と東シャンバラの暴走を抑止できざんす」

「…………」
 校長たちが喧々諤々と論争を繰り広げ、東シャンバラの軍事基地襲撃が検討され始める中――
 空京大学学長アクリト・シーカー(あくりと・しーかー)だけは黙し、静かに何かを考え込んでいるようだった。


 ヴァイシャリー郊外の館。
 アイシャの前にはセレスティアーナが居た。
「おう、和希たちから聞いて来てやったぞ! 秘密でな!」
 堂々と大声を張り上げた彼女の様子からすると、これは仕組まれてのことのようだった。
(だとしても……)
 アイシャはセレスティアーナへと近づいて、
「あなたの血が必要なんです。女王の願いを叶えるために」
「血? 私の?」
 ぱちくりと目を瞬いたセレスティアーナの手を取って、アイシャは真摯に彼女を見据えた。
「お願いします。私に、あなたの血を……」
「う、うむ、よくは分からんが……――別にいいぞ。くれてやる。存分に叶えればいい」
 セレスティアーナが、存外あっさりと頷く。
 が――。
 次の瞬間、アイシャはセレスティアーナに弾き飛ばされていた。
 アイシャの体が床に転がる。
 アイシャは、すぐにセレスティアーナの方を強く見上げた。
 セレスティアーナが困惑した目で見返してくる。
「何故……?」
「なんで……?」
 二つの問い掛けが重なる。
 少し混乱した様子のセレスティアーナが、一生懸命に言葉を探すように何やらその場で独りバタバタとしてから。
「だ、駄目だ」
 びっ、とアイシャを指さして言った。
 アイシャは少し語気を荒げ、
「これはアムリアナ女王の意思なの。私は女王様の願いを叶えたいっ。私に使命を果たさせてッッ!」
「ぬあああ、だから、叶えたいのだろっ!? 貴様は!!」
 ますます混乱した様子のセレスティアーナが頭を抱えながら、うにゃうにゃと口元を歪ませ――ぽつりと絞り出すように言う。
「なのに……なんで貴様は、そんなに辛そうなのだ? それは、なんか……なんか……おかしいではないか!!」
 そして、彼女は身を翻し、逃げていってしまった。
 遠ざかる足音の末に、館の扉が乱暴に開かれて閉められた音。
 残されたアイシャは、呆然と床に座り込んでいた。

「私が……辛そう?」



■ 

 ゴーストイコンによる被害が広がる中、
 東西シャンバラの緊張は高まりつつあった。
 
 そして、西シャンバラでは、
 アイシャ護送用の部隊がヴァイシャリーへ到着する前に彼女を保護すべく、
 救出作戦の実行が急がれているのだった。
 

 選択肢を失っていく各校の長達。
 力無き二人の代王。
 大きく揺らぎ始めている東西の安定。
 薄暗い未来へと向かうシャンバラで、契約者たちは――――

担当マスターより

▼担当マスター

蒼フロ運営チーム

▼マスターコメント

『蒼空のフロンティア』運営チームです。
『グランドシナリオ 戦乱の絆 第1回』のリアクションをお送りします。

今回のリアクションは以下のマスターが担当しています。

【1】アイシャ関連:大里佳保(一部森水鷲葉担当)
【2】ゴーストイコン関連:森水鷲葉
【3】第七龍騎士団関連:岩崎紘子
【4】プロローグ、エピローグ、その他:村上収束(一部猫宮烈、砂原かける担当)
※特定の番号でかけられていても別の番号のアクションと判定され、そちらで描写される場合もございます。

また判定の結果、シナリオ全体の動きは以下のようになりました。

・アイシャ捜索は西シャンバラ優位で推移。アイシャも西シャンバラに好感を抱く。
・ゴーストイコンはおおよそは撃退できたが、少数が逃亡、シャンバラ各地で増殖しつつある。
・ゴーストイコン解析の結果、東シャンバラでイコンの量産が開始。
・第七龍騎士団への協力者がいた結果、アイシャが捕らわれた。
・野戦病院GAによって多くの負傷者が救われ、所属を問わず高い評価を受ける。
・夜住彩蓮の提案に端を発し、東西が合同医療活動の支援において協力協定を結ぶ。
・ペリフェラルシナリオ『国境の防衛戦』の結果、龍騎士たちは撃退した物の、西シャンバラの国境基地は破壊される(詳しくは近日発表のリアクションを参照の事)。

その他アイシャが出会ったPCに対して抱いている感情などは次回も継続されます。
ゴーストイコンパイロットや第七龍騎士団所属などの称号も同様です。
これらの称号は基本的に『戦乱の絆』内のみで有効なのでご注意ください。

今回ご参加頂いた皆様には記念アイテムとして「アイシャのヘアバンド」をプレゼントします。

さて次回『戦乱の絆 第2回』は11月6日(土)12時30分に公開予定です。
リアクション全体を読むのが大変、という方はこのページと新しいガイドをお読み頂けるだけでも基本情報は把握できるかと思います。

それでは、次回の参加もお待ちしております!