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リアクション
イコン大展覧会
この展示は、イコンの発見から現在までの流れや、技術面などの解説をパネルなどで展示したパートも無論あるが、目玉はなんと言っても各種イコンの実物の展示であろう。紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が腐心して、各学校などから展示用として機体を借り受け、また、塵殺寺院やF.R.A.G.の機体は映像資料を元に作成した実物大のモデルを展示している。また、これらのイコンとの記念撮影もできるようになっていた。
「これなら十分、イコンの知識がなくても楽しめるはずだ。
これでイコンの兵器のみとしてのイメージが払拭されれば良いんだがな」
唯斗はイコンシミュレータの調整を行っているエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)に言った。
「さーて、来てやったぞ?」
シルバーグレイの髪をなびかせ、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)が展示を見にやってきた。言葉とは裏腹にあわて者な上むちゃくちゃ隙だらけ。そこがチャームポイントだ。本人は大物らしく尊大に振舞っているつもりなので、まあ、いわゆる知らぬは本人ばかりなり、というやつだ。唯斗はパネルコーナーをセレスティアーナを案内して回ると、イコンシミュレータを指して言った。
「シミュレーターもあるぜ。体験もできるようになってるんだ」
「わらわが模範演技を見せよう」
エクスが言って、一渡りの動作をしてみせる。
「せっかくだし、記念撮影もしたいぞ」
各種イコンの展示コーナーは、さすがに壮観である。
「ほう。これはなかなか大したものだな」
これだけの種類が一同に会する機会などさすがに滅多ににない。セレスティアーナが目を丸くする。
ここには、『現役パイロットと一緒に記念撮影!』と題し、パイロットスーツ姿で訪れた客と写真撮影をする狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)と尾瀬 皆無(おせ・かいむ)が待機するコーナーがある。皆無がやたら張り切って手伝うと騒いでいたので、乱世が唯斗に提案したものだ。実戦経験は名前のとおり皆無だが、顔だけは美形の皆無にはうってつけだろう、というのである。一方の皆無も、短気で無愛想な乱世も黙っていればクール美人に見えなくもないから良いかも、などと思っているのは秘密だ。
「ランちゃんがイコンで出る時はいつもお留守番だけど、今日こそはこの俺様が主役!
あ、なになに〜。記念撮影するの〜?」
イコンの前でポーズを取るセレスティアーナに気づき、皆無が軽く声をかけて、肩をぽんと叩いた。
「な、な、な、何をするーーーーっ!!!」
セレスティアーナが真っ赤になる。男に触れられただけで、うろたえまくり赤くなる彼女の特技(?)は健在だ。
「え? え? 俺様何かした??」
「調子に乗るなっつーの。このアホ悪魔ーーーーーー!」
乱世が皆無をぶん殴る。
「痛てー、ランちゃんぶったー」
「うちのアホ悪魔が失礼しましたーっ!」
さらにポカポカと皆無を殴る乱世。
「……そこ、乱暴するものではない。 ……印象が悪くなるであろうが」
ボソっとエクスがクールに言う。
「なになに? 記念撮影?? 私の出番だねっ!」
コンクリート モモ(こんくりーと・もも)が記念撮影と聞きつけてやってきた。モモは展示してあるイコンの説明や、また記念撮影にも応じるコンパニオンガールとして待機していたのだ。というのは建前で、半分は自機のコームラントを展示アピールするためだったりするのだが。モモのパートナーのハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)は、夜に備えてお昼寝中だ。
「そなた、大丈夫か?」
エクスがセレスティアーナに声をかけるが、彼女はうつろに目を見開いて固まっているままだ。
「うーむ、では」
赤くなって硬直したままのセレスティアーナを掴んでイコンの前でポーズを取らせる。イコンの足に手をかけ、セクシーポーズを取るモモ。2人はさらりとセレスティアーナの記念撮影を済ませた。
「……これでいいのか??」
唯斗が呟く。
そこへどやどやと子供の集団がやってきた。
「うわーすげー。本モノのだー!」
「かっけえええ!!!」
「えー、このイコンは遠距離射撃に特化した第一世代機で……」
モモが説明を始める。
「あ、パンツ見えたー」
子供の1人がすかさずカメラを構え、モモをローアングルで狙う。
「こら、あたしのパンツ写真撮るなー! カメラよこせ!」
その隙にもう1人がイコンによじ登る。カメラを持った子供を追いかけていたモモはそれに気づき、大声でわめく。
「そこのガキ! 汚い手であたしのイコンを触るなぁー!
あああああああ!!!!! 勝手にコックピットに登るなあああーーー!」
その隙にまたわめいて飛び上がるモモの写真を撮る子供。
「へへー、バッチリパンツ写真いっただきー」
「こんのーーーーッ!!!!」
二人の子供を追いかけて『指導』を入れて戻ってきたモモは、たいむちゃんタワーを見上げてため息をついたのだった。
「このロボットボディを生かせば、宣伝効果はバッチリだと思う!」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は今朝方、唯斗に請合った通りに看板とチラシを持って万博会場内をデモンストレーションして歩いていた。
「皆さん、【イコン大展覧会】をご存知か。
古今東西のイコンが展覧され、会場ではイコプラトーナメントも行っておりますぞ。
イコン人形焼というお菓子もある大人から子供まで楽しめる展示、これはぜひ見て行って頂きたい」
そこでいったん言葉を切る。そしてドラマチックに叫んだ。
「竜心咆哮!」
「ガオォォォォォン!!!!」
凄まじい咆哮とともに、パートナーの龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が、その巨大な体を、あらかじめ決めてあった展示会場そばの広場上空に現す。
本当は大地を割って登場したかったのだが、万博会場でそれをやるといろいろまずい、ということで、空中からの登場ということで手を打ったのである。
「おおおおお!」
「すげー!!」
集まった人々の間から驚きのどよめきが沸き起こる。狙い通りの効果に、コアとドラゴランダーは内心躍り上がって喜んだ。
「興味を抱いて貰えたなら、あの『黒い龍のロボット』が目印だ。是非【イコン大展覧会】を訪れて欲しい!」
コアがそう締めくくり、一礼するとチラシを配り始めた。桐生 理知(きりゅう・りち)と北月 智緒(きげつ・ちお)は派手なデモンストレーションに見とれ、チラシも受け取った。
「飾ってあるのは本物のイコン?」
理知が尋ねると、コアが大きくうなずいた。
「うむ、特別な機体以外は全て本物であるぞ。
お土産コーナーではイコプラの限定販売などもある」
「うわぁ本当?? イコプラショップもあるんならお土産に買っていこうかなっ」
「智緒も興味あるな〜。行ってみよ?」
二人は連れ立って展示へと足を運んだ。
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は、未来パビリオン前にやってきていた。
「やあ、雅羅!」
武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)が彼女に気づいて声をかける。ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)も無論一緒だ。
「イコン大展覧会の案内を頼めるかな?
これでも【連邦共和帝国連合航空艦隊】を指揮する立場だからね。
今後のイコン戦や作戦に活用出来るかもしれないし、行ってみたいと思うんだ」
ヒルデガルドも挨拶の言葉を口にする。
「しばらくです、雅羅。案内をお願いします」
「もちろんよ。お2人ともこちらへどうぞ」
雅羅が先にたって幸祐とヒルデガルドを案内する。各種イコンの歴史や、詳細な性能や機種別の解説などのパネルでの紹介コーナーでは、斎賀 昌毅(さいが・まさき)とマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が、展示の詳細説明などを行っていた。
「今回は各校のイコンも勢ぞろいして展示しています!
なんと、今まで登場したほぼ全てのイコンが勢ぞろいしていると言っても過言ではない!!」
昌毅が熱弁をふるっている。マイアが穏やかに続ける。
「皆さん普段はイコンなんて目にする機会がほとんどないと思うんです。
この機会にぜひいろいろ見て行ってくださいね」
「俺は現役のパイロットなんで、パイロット目線から見た話を聞きたければ、何でも聞いてくれ!
乗り心地や敵と相対した時の厄介さとかな!」
パネル展示を流し見て、幸祐が言った。
「このイコンのスペックは山岳戦に向いているな。
こっちのは市街戦。
こっちはスペックは低いが頭数を揃えて部隊編制すれば指揮官の器量で一個大隊と互角に戦えるな」
「お、これは専門的な話もできそうだな」
昌毅が目を輝かせる。
「こっちの機体は確かにスペックは低いんですが……」
マイアが丁寧に機体の性能と特徴について説明を始め、時折昌毅の補足や幸祐の鋭い質問などが交えられ、熱のこもった質疑応答が続く。
「詳細を記録します。あとで何かお役に立つでしょうから」
無機質にヒルデガルドが言った。
理知はしばらく展示を見ていたが、お土産ショップの方を覗いてみる事にした。
「うーん、パーツが沢山あって悩むね。
こういうのってさ、細かいけどここは譲れない部分ってあるよね」
「うんうん。 ……んー これおいしー」
智緒はいつの間にか、イコン人形焼のどさっと入った紙袋を持ち、反対の手にはジュースのLサイズコップを手にしている。
「智緒……。いつの間にそんなの買ったのよ〜」
「ん〜? 理知がじーってイコプラ見てる間だよっ」
「ちょっと智緒、ジュース飲ませて!」
「いいよ〜。人形焼も食べる?」
「食べる食べる!」
イコン大展覧会。それは確かに専門の方から一般の方まで、広く楽しめる展示のようだ。
「蒼空学園の今までとこれから」
かつて蒼空学園で過ごした日々を思い返し、樹月 刀真(きづき・とうま)はこの展示を行うことに決めたのだった。蒼空学園がらみの出来事に関する事物や写真、学園で開発された特殊な端末やプログラム、未来展望なども紹介されている。
刀真は西ロイヤルガードとして制服を着用しており、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は現在パビリオンのコンパニオン衣装を着て、おのおの来客の案内や、展示説明を行っている。
「はーい、こちらが蒼空学園の今までとこれからの展示だよ〜」
旗を持って案内という、ツアーのバスガイドよろしくノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)が火村 加夜(ひむら・かや)が山葉 涼司(やまは・りょうじ)を案内してやってきた。
「今まで起こった出来事が写真やイラストと共に分かりやすく展示されてますね〜」
ノアのガイドっぽい案内を受け、加夜と山葉は写真パネルに目をやった。
「時が経ってから振り返ったり、校長という立場で見ると違って見えてくることもあると思うんです。
今忙しい涼司くんにもそういう時間を持って欲しいと思って、ご一緒したいと思ったんですよ」
「蒼空学園の歴史か。まあ、いろいろあったな」
「心の余裕というか懐かしむ時間というか……そういうものって大事だと思うんです。
過去があるから現在があって未来に繋がる訳ですし」
そこでいったん言葉を切って、加夜はいたずらっぽく付け加える。
「二年前の涼司くんもカッコいいですよ」
自分で言って、照れる加夜。山葉はばつの悪そうな顔をする。
「よせよ。 ……誰でも過去の自分ってのは面映いもんだぜ」
刀真がいつの間にか傍に来ている。
「俺は今はもう、蒼空にいませんが、今までお世話になりましたからね。
ぜひ来場した方にも、知っていただきたい、そう思ったんですよ」
「そうか」
「覚えておいででしょうが……」
刀真は蒼空学園で山葉とともに関わった、さまざまな事件について語った。万感の思い、という表現が、月並みではあるがふさわしい。
「……まあ、今後もいろいろあるんでしょうが」
「そうだな。歴史は今まさに作られているんだからな」
刀真の言葉を受けて、山葉は言った。
月夜が少し広くなったスペースで、戦闘をサポート機能を持つ【籠手型HC】や探索をサポート機能を持つ【銃型HC】、HC用に開発されていたプログラムを携帯などでも使えるようにした、【スキルサポートデバイス】の実演説明をしていた。
先の会話で少し物憂げな様子の山葉に、加夜が言った。
「あちらで実演説明をしてますよ。飛び入りで参加してみますか?」
月夜も山葉に呼びかける。
「ぜひ、開発者として【サモニングドラゴン】の実演説明をお願いしたいな」
「んー、ま、いいだろう」
神皇 魅華星(しんおう・みかほ)はカガセ・ミレニアム(かがせ・みれにあむ)を連れて展示を見に来ていた。わざわざ自分が通っている蒼空学園の歴史であるから、覚えておいて損はないと考えたからだ。
「蒼空学園もなんだか歴史があるのですわね。
【蒼空学園の今までとこれから】を見学して勉強ですわ!」
カガセがそれを受けて応える。
「それは素晴らしいことですね、さすがはお嬢様です!」
魅華星は辺りを見回した。山葉が説明を始めたので、少し手の空いた月夜が佇んでいる。魅華星は尊大に言った。
「そこのあなた、この展示をわたくしに説明させてあげてもよろしくてよっ!」
「……あ、ええと、この展示はね……」
一渡りの説明を、ふんふんと聞き、山葉によるデモンストレーションもしっかり見ていた魅華星は、実演を終えて壇上から降りてきた山葉に挑戦的に言った。
「山葉凉司ね。しょせんは人間、魔王の転生体のわたくしにはおよびませんわ!」
そう言って、あごを持ち上げ断固たる態度……と、彼女が思っているポーズを取る。
「……え?」
月夜、刀真、山葉はぽかんとした表情で魅華星を見る。ややあって、山葉がぽつんと言った。
「……大丈夫か? お前さん?」
魅華星の虚栄心は見事に粉砕された。状況は馬鹿にされるより、無視されるより悪い。ここはひとまず退散した方が良い。
「くっ、闇が暴走しそう!」
苦しげにつぶやくと、顔を伏せて走り去った。カガセがあとを追う。
「あ、お嬢様待ってください〜」
「……なんだったんだ??」
「さあ……」
呆然とする3人であった。
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