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リアクション
黒い魔物を迎撃せよ4
正子の守るエリアほどではないものの、やはりもう一箇所結界が弱い場でも黒い魔物が数多く湧き出し、高円寺 海率いる前衛たちは大忙しだった。海がすぐ傍に実体化した3体を妖刀村雨丸で両断する。
「ったく、きりがないな……」
こぼす海に、傍で戦っていた松嶋 環(まつしま・たまき)が言う。
「……紅月達もそろそろうんざりしてるだろうな、
俺は駆け出しだけどさ、明確な終了が決まっていないドロ沼のような持久戦、体力の消耗は必至だろうと思う」
葛葉 翔(くずのは・しょう)が緑竜殺しを油断なく構えたまま言う。
「敵の数は確かに多い、けどここで退く訳にはいかない。俺達が諦めたらパラミタは終わりだ!」
「ああ……ヤツらがあきらめるまで、だからな。村雨丸、もう少しがんばってくれ」
海が刀を見下ろす。
「俺は、持久戦の場合、通常の剣よりもエネルギー体の刃を持つ剣の方が適していると思ってこれを選んだんだ」
「それもいいな。俺は魔法攻撃も織り交ぜていけるから、臨機応変に、だ。
皆の夢やら希望やら、潰させないためにもがんばるしかない」
海が頷く。
また一つ、大きな群れが現れた。
「石原校長さんが身も心も削って、アトラスの力を借りているんです!
なんとしてもこの結界を守守らなくちゃ! 皆の未来がかかってる!」
杜守 柚(ともり・ゆず)が叫び、その身を蝕む妄執で敵のスキを誘う。環が桜の魔法攻撃の援護を受けながらライトブレードでなぎ払いを放った。魔物が数匹、まとめて葬られる。海は単体攻撃向きの刀を引き、雷術で応戦している。
「お前たちに瞑想の邪魔はさせないぜ」
翔が集団攻撃を逃れた魔物を切り伏せながら叫ぶ。パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が女王のバックラーで敵の攻撃をかわし、忘却の槍で止めを刺す。
「此処から先へは一歩も行かさないよ」
杜守 三月(ともり・みつき)が翔、アリアとともに百獣の剣を振るう。
「未来は自分たちの手で切り開く。魔物とか滅びを望むものとか……お前たちの好きにはさせないよ!」
「ああ、トチ狂った犬が自分だけならまだしも世界まで巻き込んで自滅への道を突き進もうとしてる。
……気持ちは解るが行動が間違ってる」
環が三月に言い、傍らでサンダーストームを一群れの魔物めがけて撃ち込む有栖川 桜(ありすがわ・さくら)の姿をちらりと見た。
(がんばらねばな。美しく育った義妹の桜を嫁に出し、その花嫁姿に感涙を流す……という輝ける未来のためにも!)
ライトブレードで次々と現れる魔物を切り捨てる環。その精悍な姿を見て、桜はため息をついた。
(兄上様、素敵であります。この魔物どもやらイレイザーやらの決着をつけ、パラミタを、ニルヴァーナを救わねば。
順調に行けば、……年を経てもっともっと渋く逞しく育った兄上様の妻……がダメなら愛人の座に就く。
そして充実感に浸るという楽しい未来が待っているはず……なのであります!)
どこかちぐはぐな思いを互いに抱きつつ闘う二人である。
「精神疲労してる方がありましたら、アリスキッスで回復するであります!」
戦闘が一段楽したところで、桜が声をかける。
「お怪我をした人はありませんか?」
柚が声をかけながら桜と一緒に駆け回る。
「海くん、なんともない?」
柚に声をかけられ、海はにやっと笑った。
「怪我してるなら魔物のほうだろ……消えちゃってるから怪我もないか」
そこに加えて三月も茶々を入れる、
「多少無茶しても、柚が回復してくれるから平気平気」
「もうっ、二人とも冗談を言えるくらいだから大丈夫なんでしょうけど……気をつけてくださいね!」
「わかってるって」
アリアは油断なく結界を見張っていた。確かに何時まで……と考え出したら、先の見えない不安感に捕まってしまうだろう。そういう気持ちは伝染する。皆が不安に陥れば、それだけスキが大きくなり、危険だ。翔がアリアの肩をぽんと叩く。
「あまり色々考えるな。今はとにかく敵が出てきたら対処する、それでいい」
「……翔クン。……うん、わかってるよ」
「あれが黒き魔物……ふっふっふ。敵に不足はないな。
超弩級竜剣ヴィクトワール! その名のとおり俺に勝利をもたらせッ!!
黒き魔物どもよ、畏怖の気をまといし一撃を食らうがいいッ!!!」」
上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が叫び、おもむろに超弩級竜剣ヴィクトワールを大段上に構えて実体化した数体の小鬼たちにスタンクラッシュを見舞う。キュートな魔法少女コスチュームに身を包んだパートナーのフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が後ろから優夏をつっつく。
「ちょっと。ヘンな技名とかつけて叫びながら戦うのはやめようよ……さすがに恥ずかしいじゃない」
普段屋外に出て行かない優夏が珍しく頑張って闘うというので、前向きなのはいいことだと、保護者的な感覚で彼をサポートしようとフィリーネも二つ返事で賛成したのであったが……。
「恥ずい?! 恥が怖くて厨二技使えるかい!」
フィリーネに向かってそう返事をすると、次の魔物の出現に備えて剣を斜に構える優夏。
「……他の人や後輩達におかしな事吹き込んじゃだめよ」
フィリーネはため息をついた。最初の一群を倒した優夏を見ていたウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)がグレートソードを構え、ソニックブレードを即座に繰り出せる体勢を取りながら、パートナーのファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)にささやく。
「あれがナラカからの“黒い魔物”……結構数がいますね」
「確かに数だけは多いが、皆で協力して対処すれば良い。多勢に無勢という力量差ではないからのう」
ファラがハーフムーンロッドを構えて答えた。
「そうですね……今は全力で黒い魔物達を倒し、石原校長を護り切ることを考えましょう」
優夏、ウィルら前衛で闘うメンバーに幸せの歌で支援を行っていた天禰 薫(あまね・かおる)が、ファラに同意の呟きを漏らす。
「我たちにはまだ、沢山の未来や可能性がある……それを守る為に、我は戦うのだ」
それを聞いた優夏も、力強く言う。
「そうとも! 俺がこの戦いに身を投じたのはな、厨二技リアルで顕現できるパラミタの崩壊をさせんためや!
こんなすばらしい世界がなくなるなど、絶対あってはあかんのや!」
フィリーネは肩をすくめた。今回前向きに『行動』できただけでも良しとしなくちゃね。そんなことを思いながら結界の様子を見守る。天禰のパートナー、熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は彼女をすぐに護れる位置についていた。孝高は今回の戦闘への薫の参加宣言に複雑な思いを持っていた。天禰が全員の安全を祈り、詠うとき、『誓』を握り締め、祈るように手を組んでいるのを見た。あのアミュレットは彼女がいつも大事に想いつつも、会うことのできない送り主からのアミュレット。孝高はその身の内に嫉妬の感情がわきあがるのを抑えられなかった。
「あのね、我には守りたい人がいるの。その人を守る事が、我のやりたい事なのだ
その人の事を気にかけて、深い縁がある事に気づいて、すごく嬉しくて……。
……その人に助けてもらった事もあって……泣く事が出来て。だから我は、その人を守りたい
その未来に向かって歩き出したい。その為に、戦うのだ」
天禰は今回のメンバーとして名乗りをあげることにしたと孝高に伝えたとき、懸念する彼にそう言っていた。
「天禰のやりたい事は重々承知だが……。
……だが、天禰が一歩を踏み出すということでもある……わかった。やらせてやる。
お前は俺が守ってやるが……十分気をつけろよ」
「わかっておる」
あのときのやり取りを思い出し、今はとにかく天禰を、そしてこの場の皆を護りサポートすることこそが己の務めだ。そう自分に言い聞かせ、孝高は無理やり嫉妬心を押さえつけた。
次の攻撃はすぐにやってきた。黒い濃い霧が漏れ出して、そこかしこで小鬼やら竜やら、得体の知れぬあやかしの姿をもつ漆黒の魔物となって実体化する。
「数が多いな」
優夏が歴戦の魔術を使い、戦士ではあるが多数の敵相手には有効な魔術も怠ってはいない事をアピールする。併せてファラがアシッドミストを放つと、フィリーネがアドバイスをする。
「魔法を使う時はとにかく周りの状況をよく見て、冷静にクールに考えてね。
もし、魔法少女するなら特に目立つタイミングも大事よ☆」
「う、うむ」
気おされたようにファラが答え、次の一群れに火術を放った。激しい炎が魔物を灼く。ウィルが飛び掛ってきた魔物をスウェーで避け、剣で真っ二つにした。
「いい太刀筋やな。……グレートソードか。んー。呼び名な、銀(しろがね)の偉大なる破邪の剣とかどうや?」
優夏の言葉に、ウィルはたじたじとなった。
「あ。いえ、その……ははは」
ウィルはファラと別の魔物が現れたのを見つけ、剣戟と魔法で霧散させる。
「……パラミタにも……いろんな人がいるね」
ファラは深遠に頷いた。
「うむ。多様な人間模様じゃな」
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