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リアクション
幕を開く
黒崎 天音(くろさき・あまね)は弁天屋 菊(べんてんや・きく)に孤児院の子供達のことを任せた。
それから、自らは光条世界に赴き、創造主と対峙することを決めた。それは自分自身の答えを求める為でもあり、世界の答えを見つける為でもあった。果たしてそれは、いかなる問いに答えるものなのであろうか。
オーソン、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)――。それら、創造主に与する者達を眺めやり、最後に天音は砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)の言葉を思い出した。
「契約者は危機状態にあるふたつの世界を救う為に現れたと考えたい、か……」
彼らしい言葉で、それでいて強い響きに満ちている。
「今が、そういう場面なのかな?」
天音はそう言って笑い、創造主達に向かい合った。
敵はすでに動き出している。契約者達は創造主と戦い、ラズィーヤを説得し、花音・アームルートを取りもどそうとしている。天音もそれに続き、ラズィーヤの奪還を手伝う為に歌を口ずさんだ。
それは、百合園女学院の校歌であった。
魂の共鳴によって、歌がラズィーヤの心を揺さぶる。それは彼女の心を戸惑わせていた。
「さて……アヌンナキ。君もやはり、真実に屈してしまうのかい?」
天音が言った相手は、創造主の傍でその身を湛えるオーソンだった。
「…………」
オーソン、いや、アヌンナキは天音の目を冷たく見返している。
その言葉は唇からこぼれ、囁くように天音に届いた。
「我にとってはこれこそが真実。これこそがあるべき姿だ。
屈するのではない。我はそれに従い、生きるのみ。システムはそこに完成しているのだ」
「システム、か……。経緯はどうあれ、今、創造主は狂い、システムは最早正常ではない。君がそちらに居る理由は、もう無いんじゃないかな?」
「壊れたものは修理するだけだ。問題はない」
「君は、ゲルバッキーより狂っているね」
天音は小さく笑った。彼の傍にいたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、一瞬、アヌンナキを警戒してすっと足を動かす。が、天音は「大丈夫だ」と囁き、そのブルーズを止めた。
「僕は世界なんて大嫌いだったけど、今はそうでないと知ってる。君とは違ってね」
天音はそれだけ言い残して、今度は創造主に向き直った。
「創造主……。君の中には、確かに僕がいるのを感じる。不思議な感覚だね。まるで自分を見てるみたいだ」
「…………」
創造主は何も答えようとはしない。
「創造主、僕はね……。ずっとこの世界が大嫌いだったよ。いつ終わったって、未練はなかった。
けど、今は違う。こんな僕でも大切なものが何かは知ってる。それを教えてくれたのは、この世界だ」
そう言って天音は創造主を射貫くように見た。ブルーズもそんな天音を見守ってる。
彼らには分かっていた。そこにあったのは、自分達が抱くような喜びや、悲しみや、憂いや、絶望だということが。個ではなく、一つの集合体ではあるけれど、その中心にあるのは変わらない。人の喜びと悲しみ、不安や恐れが、そこには渦巻いていた。
だからこそ、天音は伝えなければならない。自分自身に。
「僕らと一緒なら、『世界産み』は叶えられるかもしれない。だから、もう一度だけ、信じてみないかい? 今、この瞬間が、僕らと君が、永く待ち望んだ奇跡なんだと」
「お前達は我らだ。我らはお前達を受け入れる」
ブルーズも言った。二人の声が、創造主へと届く。
それは光の中心が嘆く声だったのか、喜びに打ち震える声だったのか。
創造主の声は強烈な光の波動を生み出し、契約者達の身体は、その波動にびりびりと震えた。
その『真実』は創造主という存在を震わせた。
彼らの言葉と意志こそ、この戦いの本当の始まりを示すのに最もふさわしいものだったのだ。